第16話 だって、この人は
騎士団長「うわああああん! ひどいいいい!!!」
騎士「うるせえ泣くな運転の邪魔だ!いくぜカローラマークⅡ!今日こそお前のエンジンの封印を解いてやらああああ!」ギュラララララ
触手「なぜ私まで載せられてええええ!?」
騎士「ついでだから手伝い頼むわ。球○くんを触手責めしてひぎぃ!とかやってくれ!」ギュルルルル
触手「○馬くんってなにぃぃ!?」
触手「あ、あの、団長さん…」
騎士団長「な、なにぃ?」ヒックヒック
触手「私、動画投稿で食っていくの諦めて嫁さんに謝ります今までありがとうございました」
騎士団長「え…?」
騎士「うおおお!この峠をドリフトで越えたら俺は走り屋の伝説になるっっ!!」ギュラララララ
騎士団長「浦和と大宮の間に峠なんかないいいい!!」
触手「この見た目ですから、色々勘違いされないように努力してきましたが、正直疲れてたんです」
触手「真面目で堅実な触手のサラリーマン……そういう風に見えるようにやっていくことに限界があって」
触手「とはいっても本来の私なんてただの小心者な中年で、エ口ゲーみたいな触手なんて怖くてとてもできないんですけどね」ニョロー
触手「妻も私のそんな所は知っててくれてるんですが、会社や人前でやっていくことが段々ストレスになってきて」
触手「最近やっと作った趣味の史跡探訪の動画が人気ちょっと出てきて『これで他人に気を使わずに暮らせるかも!』と思ったら暴走してこの様です、バカみたいですよね」
触手「妻にも逃げられて大騒ぎしてやっと目が覚めました……」
騎士団長「……何かから、立場や職業から逃げることは別に悪いことではないと思う」
触手「団長さん…」
騎士団長「だが、自分から逃げることはできないと思うんだ。群馬と戦うのはもうイヤだと思うけど、騎士や部下は私を信じてくれている」
騎士団長「逃げたいと思うのも私だが、信じてくれる部下を裏切りたくないと思うのも私なんだ」
騎士団長「色々情けない所を見せてしまったけど、私はまた戦おうと思う。逃げることは、いつだって出来るから」
触手「団長さん……」
騎士団長「それに、東北から越してきた触手さんには今一つわからないだろうが」
騎士団長「埼玉県人は埼玉県に関心がない。埼玉が無くなろうとわりとどうでもいいと考えている」
触手「え」
騎士団長「自己紹介で前の人間が『京都出身です』『横浜出身です』というたびにえもいわれぬ敗北感に苛まれ」
騎士団長「地方の人に『埼玉から来ました』といってもなぜか東京から来たことにされてしまう。そもそも埼玉が知られていない」
騎士団長「埼玉県人には埼玉県が無くなってもあわよくばどさくさ紛れに東京都民か横浜の人間になれないかとかそんなことを考えている人しかいない」
触手「ええ…」
騎士団長「しかし、そんな埼玉の人々もたった一つだけ思うことがあるんだ。私はその思いのために戦っている」
触手「そ、それは」
騎士団長「『でも群馬県民になるのはヤダ。なら埼玉のほうがマシ』そう思ってるんだ……それが私の戦う理由だ」
触手「なんて後ろ向き…」
騎士団長「私は戦う。だから触手さんも奥さんのために戦ってくれ」
騎士「後ろでうるせぇぞカニカマ食って大人しくしてな!」ポイッ
騎士団長「はあああん!カニ美味しいよお!」ムシャムシャ
触手「言葉の重みが全く無い……!」
△ △ △
騎士「おらついたぞ降りろ団長!」
騎士団長「なにあれぇ……お祭りのバルーンかと思ったらすごいデカい○馬くんじゃん……」
触手「あんなのひぎぃ!とかできませんよ……」
女騎士「あ! 団長!」
女騎士「団長もう来ないと思って埼京線に爆弾つけて突っ込めないか相談してた所ですよ!」
騎士2「とうとう浦和駅前まで来ちゃったからなぁ。しかし団長来たのか。もう二度と現れないと思った」
騎士団長「部下から全く信じられてないよおおお!」
騎士「当たり前だろだから俺が迎えに来たのに」
女騎士「絶対騎士は団長呼ぶっていって逃げ出すと思ってた」
騎士2「俺も俺も」
騎士団長「やーいお前も信用ない!」
触手「なんて荒んだ職場だ……」
女エルフ「あ、あなた!」
触手「お、お前なんでここに!」
騎士「え、夫婦なのあんたら!?」
女騎士「埼玉県は狭いなぁ……」
騎士団長「……えぇと、やるよ!とりあえずやるよ!やればいいんだろ!おい騎士!アレ持ってきてるか!」
騎士「ありますよ、団長の商売道具!」
触手「なんですかこの真っ黒な剣?」ニョロー
騎士団長「県知事がくれた。なんかなのかーぼんちゅーぶがどうたらってすごい頑丈な剣。筑波大に作ってもらったんだって。全力で振っても鯨が乗っても壊れないからすごく便利!」ブンブン
触手「え」
△ △ △
──俺達の仕事はいつもこの人のフォローでしかない。
結局の所は団長が全て終わらせてしまう。
騎士団長「よし騎士!全員早く退避させて邪魔だから!」
多少常識外れだろうと、団長の前では同じことだ。
俺は役立たずではない、と思いたい。
それでも、時々思うことがある。
騎士団長「うわーそれにしてもデッカいなあ……これじゃあ…」
もしこの人がダメ人間じゃないなら、俺達はきっと要らない役目だ。
団長一人で全部なんとかなってしまう。
団長は、それをわかっててダメな人間を演じているだけなんじゃないか。
俺達のために、ダメな人間をやっているのか
質問したことはない。どう答えてくれるのか、少し興味はある。
でも、きっと、この人はマトモに答えてくれないだろう。
ふざけてバカなことをいって、ごまかしてうやむやにして流してしまう。
騎士団長「──これじゃあ、死体の処理が大変じゃないか」
だって、この人は、めちゃくちゃ強いから
△ △ △
女騎士「また騎士団長居ないんですけど…」
騎士「浦和駅三分の一ぶっ壊してクレーター作りまくって上からめちゃくちゃ怒られたからな。巨大○馬くんは泣きながら逃げたから死体の処理の手間は省けたけど
まあどっかでふて寝でもしてんだろ」
女騎士「30メートルの怪獣をタイマンでボコボコにするって、前々から思ってたんですけどあの人ほんとに人間なんでしょうか……?」
騎士2「市民団体から『ムーミンをいじめないで』って抗議の声が来てるぞ」
女騎士「あ、触手さん、また新しい動画上げてますよ。すごい人気でランキング乗ってる!」
騎士「あー奥さんレポーターにしたら人気爆発したらしいな。そら女騎士よりエルフだよなあ」
騎士2「人妻エルフいいよね……」
女騎士「それからあの……また巨大球○くんが出たって報告が」
騎士「は?団長にボコボコにされて逃げたろあいつ」
騎士2「いや……アレは黒い……そして表情はややイケメン風…恐らく○馬くんと対となる存在の雷○くんだ!」
騎士「……おい! 団長探してこい!」
終わり
女騎士「体が熱い…さっき飲まされた媚薬が!」山賊「バカめ、あれは媚薬じゃない」 上屋/パイルバンカー串山 @Kamiy-Kushiyama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます