スモトリ・オブ・スモトリズ ~オスモウ・ファイト・レディ・ゴー!~
斉藤七陣
ヤマト紀元一九××年
……かくて
スモトリはそれぞれの都道府県の威信のため、そして己の矜持のために
×××××
『総員ドヒョー・イン!』
増幅された
スモトリ・ドライバーの声に応じてオスモウ・フレームもまた威勢よく掛け声を上げた。
『ドスコイ!』
『ドスコイ!』
小山のような騎体がまず行なったのは、マニピュレータによって塩を撒くことであった。伝統に従ってというだけではない。かつて神聖なるオスモウ・ファイトがある一派の大口径ビーム砲の狙撃によって妨害されるという事件があった。この一件から国際オスモウ・ファイト委員会は純粋な塩ではなく、大気中に拡散すると妨害電波を放つナトリウム系分子チップを散布するようになったのである。これにより各TV局が有線中継能力を磨く必要に駆られたのは言うまでもない
今回の
形式は東西戦。東と西から四騎ずつ、合計八騎のオスモウ・フレームが時間制限いっぱいに入り乱れて組み打つことになる。壮絶なイクサバがこの世に出現するのは日を見るより明らかだった。
足裏以外の箇所が地に着いた者は敗北。その単純極まりないルールのために、スモトリは己の肉体を極限まで鍛え抜いた。地球時代からそうであったし、これからもそうであろう。
オスモウでは一度
『総員位置に着くように!』
――
総勢十名のスモトリが一斉に
皆
西陣の一角に
『浮つき過ぎだろ、センパイ方』
東陣、小柄なオスモウ・フレームが皮肉げな声を発した。他の東陣スモトリははっきりとした
オスモウ・フレームとスモトリ・ドライバーは神経融合操縦によって一体化している。よって、そのフレームのサイズや出力はスモトリ・ドライバーに比例する。
彼はこの場のスモトリ・ドライバーの中で最も小さく、最も若かった。そして
しかし――このスモトリが代表するヤヴァタ・ディストリクト・コロニーには
この少年の身体のどこにそんな素質が? ――誰もがそう思った。
オスモウ界にはかつて、ある
二十年間
そう――彼、
× × ×
ワダヤ・シティにある
(ワタル……俺はお前を信じるぞ……)
檸檬岩の娘、ミチコが祈った。祈らざるを得なかった。彼女は身寄りのないワタルの姉代わりとして愛情を注ぎ、その成長を陰ながら見守ってきた。
(ブッダ、お願いします……ワタル=チャンを
五十人、皆が固唾を飲んで超絶丸の
『ハッキヨイ!』
その一言で全てのオスモウ・フレームが前屈姿勢になり、
同時に、騎体の肩部の付近からむらと湯気めいたものが空間を歪めるようにして立ち上った。これだけの数のオスモウ・フレームである。
スモトリ・ドライバーたちの脳内でアドレナリンが過剰分泌される。主観時間が泥めいて遅くなる。皆その言葉を今か今かと待ち望んでいた。――そして!
『――ノコッタ!!』
ドルルルルオンギュウウウオオオン!! 天すら引き裂くような轟音を奏でながら八騎のオスモウ・フレームが一斉に前に出た! 東か西か、いずれかが全滅すれば敗北! 一騎でも残れば勝利! 単純明解なルール! 一騎残らず勝利へ目指して一目散に驀進!
東陣からいち早く抜け出たのは超絶丸の〈ヘルドラゴン〉。対して西陣は
ヘルドラゴンの全長は十七メートル、対してラスカルズスカルは十九メートル近い。その質量差は1.5倍だ。
『ドスコイ!』
ラスカルズスカルのツッパリがヘルドラゴンへ襲いかかった。超絶丸は恐れぬ。ツッパリを
『――ドスコイ!』
ヘルドラゴンは頭部からぶつかっていった。ブチカマシ・チャージである。荒居隈は騎体の分厚い胸部装甲で受けようとした。――が!
『グワーッ!?』
インパクトの直後、ラスカルズスカルは弾けるように吹き飛んだ。背部から転倒し荒居隈脱落!
『若造め、やるな!』
『オイドンらも負けてはおられんでゴワス!』
超絶丸が一撃で荒居隈を屠ったのを見た大激怒と垂眉は俄に奮起した。
『ドスコイ!』
『グワーッ!』
大激怒のヴァイオレントバトルは巧みに間合を詰め、
『ドスコイ!』
『グワーッ!』
垂眉のヘヴィスネイルはあくまでゆっくり前進した。しかし
これで西陣は残り二騎! しかし!
『ドォースコォーイ!』
『グワーッ!!』
――
土煙の中からゆっくり出現したのは今回参加スモトリ・ドライバー中最大、身長二百五十センチ三百キログラムの
『ドォースコォーイ……』
ザ・グラットンがオッドボールから奪ったマワシを放り捨てた。隻玉はモロダシという
『おいデカブツ』
超絶丸が前屈姿勢になりながら、挑発の言葉を魁佛に投げた。
『
ザ・グラットンが首を巡らし、ヘルドラゴンに向き直った。そして、
『――ドォースコォーイ!!』
両掌を胸の前に上げたツッパリ姿勢で、荒野に足音を響かせながら疾走肉迫! 相互の距離はすぐに埋まる!
『――ドスコイ!』
ヘルドラゴンはしゃがみ込んでツッパリを回避、ザ・グラットンの脚へ下段蹴りを見舞う。ケタグリ迎撃!
『グワーッ!』
『ドスコイ! ドスコイ! ドスコイ!』
無論魁佛も黙って打たれるだけではない。
『ドスコーイ!』
ザ・グラットンの両手が、ヘルドラゴンの肩部を掴んだのだ。そのまま……上空に放り投げる!
『ドスコーイ!』
その膂力によって二〇〇メートルにまで上り詰めた騎体は、放物線を描くように落下した。このままでは
『ドス……コイ!』
騎体内部で超絶丸は驚くべき身体能力を発揮した。空中に放り出された猫よろしく、柔軟な体幹を以て足裏から着地したのである。オミゴト!
『ドスコォーイ!』
ザ・グラットンが再び肉迫してきた。
その手をヘルドラゴンが掴んだ。
『――ドスコイ!』
その腕を両手で抱えつつ、投げる! 一本背負いである! 背中から落ちて魁佛脱落!
『見事なり小僧』
それを見ていた者あり。
大激怒のヴァイオレントバトルも垂眉のヘヴィスネイルも、メガテリオンの足元に横たわっていた。一見して、騎体の損傷は無傷に等しい。
超絶丸の口元が吊り上がる。それはさながら獣の笑みか。
『行くぜェ!
『来い! 小僧!』
二つのオスモウ・エフェクトがぶつかり合い、凄まじい衝撃波を撒き散らした!
× × × ×
前オスモウ・ファイト優勝者にして現〈スモトリ・オブ・スモトリズ〉、最強の横綱
「随分楽しそうだな……お前もそう思わないか、〈アーチエネミー〉……」
彼は次元回廊で佇立する愛騎にして己の半身たるオスモウ・フレームに呼びかけた。
スモトリ・オブ・スモトリズ ~オスモウ・ファイト・レディ・ゴー!~ 斉藤七陣 @hagwane13
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