奇跡の薬草は、人類に薬となるか毒となるか

 賭博や借金でその身を堕とし、借金取りに追われる毎日のフリーター蓬屋。彼はひょんなことから、瞬く間に傷を治してしまう不可解な草を発見してしまう。
 前触れもなく、何の過程もなく、まさにそれが自然だと言わんばかりに傷を塞いでしまう――まさに、薬草というべき草。値千金の匂いを感じ、蓬屋はそれで億万長者になろうと目論む。やがて、その薬草は県境や国境を越え、この世界に波乱を呼ぼうとしている――。

 薬草をきっかけとして、さまざまな人間が策動する。思惑、目論み、感情、全てがばらばらの方向へ、だが同時に動きだし、徐々に物語が加速しつつある。
 心情豊かに書かれた登場人物が躍動するさまは、まさに群像劇。リアリティある単語や描写が、実感を持って読者に語りかけてくる。意思と欲望が絡み合った物語は、どう展開が進むか見ものである。

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