最高に面白い小説でした。
物語自体は、一部二部構成になっており、一貫して、特定の主人公がいません。
しかしそれが、ハーブ(薬草)の存在を際立たせ、一部ではハーブそのものが主人公であるかのように、展開が進みます。
一方、二部では、ハーブに翻弄される人々の行動と心情に焦点が合わされ、劇的な展開の中、必死に生き延びようとする彼らの姿が、生き生きと文字の上に思い浮かびます。
物語は、場面ごとに視点がコロコロ変わり、大変面白い進み方をします。
出会ったことのない物語を求めてる人や、なんだか生活にマンネリを覚えている人にもオススメできる、超優良作品です。
賭博や借金でその身を堕とし、借金取りに追われる毎日のフリーター蓬屋。彼はひょんなことから、瞬く間に傷を治してしまう不可解な草を発見してしまう。
前触れもなく、何の過程もなく、まさにそれが自然だと言わんばかりに傷を塞いでしまう――まさに、薬草というべき草。値千金の匂いを感じ、蓬屋はそれで億万長者になろうと目論む。やがて、その薬草は県境や国境を越え、この世界に波乱を呼ぼうとしている――。
薬草をきっかけとして、さまざまな人間が策動する。思惑、目論み、感情、全てがばらばらの方向へ、だが同時に動きだし、徐々に物語が加速しつつある。
心情豊かに書かれた登場人物が躍動するさまは、まさに群像劇。リアリティある単語や描写が、実感を持って読者に語りかけてくる。意思と欲望が絡み合った物語は、どう展開が進むか見ものである。