第8話 エピローグ
「今日は・・・ジャンの追悼公演に大勢のファンが集まってくれてありがとう。ジャンも喜んでいるよ。・・・ジャン・ハザウェイは最後まで仲間を思うベーシストだった。今日は出来たばかりのこの曲をジャンにささげよう。・・・ロサンゼルスの葛藤・・・。」
エディ・ルクシアのスティックの音に続いて、クリスのギターが響く。
今日はジャンの代わりに、サベージパンプキンの『チャーリーリッテル』がベースを弾いた。
そして、ジェイニーの歌が響く、会場中一杯に・・・。
会場にはサベージパンプキンの面々。
そして、ユナイテッドレコードの『カールブロンソン』とパメラも来ていた。
ジェイニーは只、無心に歌っていた。
ジャンに言われた色々なことが、ジェイニーに思い出された。
彼に嫌味を言われて、必死で譜面を読むことを覚えたこと。
喧嘩をして、クリスが止めに入った事。
クリスと口論になってバンドを出た夜、雨の中ジャンだけが立って居たこと。
それらのことが思い出された。
ふと横を見ると、クリスがギターを弾きながら泣いて居た。
その涙は、スポットライトにあたっていないクリスだからこそ、流せる涙だった。
エディも涙を流していた。
ジェイニーは懸命にこらえながら、泣くのを我慢した。
思えば俺に一番似ていた奴だったかもしれない、ジャンは。
寂しがり屋で、生意気で、でも最後まで仲間を愛して居た。
それを最後まで言うことが出来なかったジャンは本当にバカだ。
一言でも言ってくれれば、助けることも出来たのに・・・。
話を聞くことも出来たのに。
そう思うと、ジェイニーはやり切れない気持ちで一杯になった。
彼は歌に集中した。
此処で失敗したら、ジャンの追悼公演がダメになってしまう。
今日はかなりのパパラッチも来ていたので、失敗するわけにはいかない。
ありったけの力を込めて、ジェイニーは歌い続けた。
俺の全てをくれてやる
Only One
俺は傍にいつでも居る
お前なしでは生きられない
お前の為に生きる
必要なんだ
Give me the herat
離れるなんて考えられない
お前の為 何でも出来る
例え地獄に落ちようと構わない
I live for Love
I live for Die
You Can Die for You
俺の生き様くれてやる
Only One
痛くなる程抱き締めたい
重なる鼓動の歌声
重ね合った熱
それが全て
Lock In The Heart
俺は俺 衝動に逆らえない
お前の為 何でも出来る
愛と云う名の ギルティーなら構わない
Ilive For Love
Ilive For DIe
You Can Die For You
追悼公演も終わり、ジェイニー達がバックステージに戻ると、アトランティックレコードの社長、マイケルローディーが来ていた。
「今日はよかったよ・・・。ジャンも喜んでいると思う。」
マイケルが話す。
ジェイニーとクリスとエディーは顔を見合わせ、コクンと頷いた。
そこへ、ユナイテッドのカールブロンソンと、パメラがやってきた。
ジェイニーは俯いていたが、その気配を感じ取った時、フッとその2人を見た。
あんなに探し回っていたパメラが自分の前に立って居た。
化粧は淡いピンクの化粧から、かなりきつい感じに変わっていた。
瞼は明るめのパールベージュ。
黒のアイライン、黒のマスカラと、マットな赤い口紅の化粧をして居たパメラは、今日の服装は黒のタイトスカートの喪服であった。
ジェイニーが思わず、「パ・・・!」と言いかけた時だった。
マイケルローディーが口を挟んだ。
「これはこれは、ユナイテッドのお偉いさんが何の用ですかな。」
「心外な言い方ですね。私は単にあなた方が落とした、落とし物を届けに来ただけですよ。」
「落とし物?」
マイケルが不思議そうに語ると、カールはある封筒を差し出した。
そして、「グッドラック」というとパメラと共に帰って行った。
その後ろ姿を、パパラッチが追いかける。
パメラはジェイニーに振り返りもせず、カールと腕を組んで立ち去った。
マイケルが封筒を見る。
差出人の名前も宛名もなく、その封筒は白かった。
彼は、封筒の上の方をちぎり始めた。
中を見ると・・・
そこには『ロサンゼルスの葛藤』の譜面のコピーが入っていた。
「あいつ!!」
クリスがカールに向かって走りだそうとしたとき
マイケルがクリスを止めた。
「ここを何処だと思って居る?ここで事を起こしたらお前たちの人気がガタ落ちになる。何百というパパラッチが来てるんだぞ!!」
マイケルは小声でクリスの耳元に囁いた。
クリスの行動に、パパラッチがざわつき、シャッターを切り始めた。
クリスはクッと思ったが、今は仕方ないと思いグッと我慢し、パパラッチのカメラに向かってにこやかに答えた。
「全世界のファンの皆、今日は俺たちの追悼公演ライブ見てくれたかい?ジャンも多くの皆に見送られて嬉しく思って居るよ。皆ジャンのことを忘れないでくれ。そして、俺達シャイニングレイのことも、これからもよろしく。愛して居るよ。グッドラック。」
そう言うと、ジェイニー達は楽屋に引き下がった。
その後を追うパパラッチの群れ。
クリスに質問を投げかけた。
マイケルはその姿を見送った後、静かに封筒を懐にしまった。
それから3日後、正式にサベージパンプキンは、ユナイテッドからアトランティックに移籍し、ルクスGと共同制作したアルバムを、アトランティックからアメリカでの新作第一弾アルバムとして、発表した。
更に、その2週間後、ジェイニーは思いきってユナイテッドに行ってみたが、警備員に門前払いされ、あえなくパメラに会うことに失敗した。
パメラがジェイニーに会うことを拒絶したからだ。
ナゼダパメラ。ナゼオレニアオウトシナイ・・・。
唇をかみ、ジェイニーはストリートを歩き出した。
その様子を、一部始終窓から見て居たパメラ。
その横顔は悲しそうだった。
ジャンが無くなり、ロサンゼルスの葛藤は終焉を迎えた。
しかし、パメラとジェイニーはどうなってしまうのか。
彼らの大恋愛物語が今、始まる・・・。
ロサンゼルスの葛藤 谷口雅胡 @mimmmay7
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