第7話 襲撃
クリスは自分の部屋で自問自答していた。
本当にこの方法でいいのか?
クリスの部屋はクリーム色の壁紙に、ギターが何本もかけてあり、ギブソンのギターがほとんどであった。
ベッドは白に青のブランケット。
枕も青だった。
3階の彼の部屋は、防音でできており、彼がギターの練習をするには、丁度良い作りになっていた。
クリスは寝られずにいた。
今日にも襲ってくるかもしれない。
誰がだって・・・?もちろんジャンさ
俺を殺しに来るかもしれない。
あんなに仲が良かったジャンが何故俺に牙をむく?
何が原因で?
その時『ピンポーン!』と呼び鈴が鳴った。
クリスの部屋は鍵がかかっており、チェーンもかかっていた。
「誰だ?」
「宅急便です・・・。」
クリスは用心深くチェーンを外さずドアをカチャッと開けた。
すると!
途端に頑丈な革靴でドアを抑えられた。
「ジャン!!」
ジャンは器用にペンチでチェーンを切ると、革靴で中に入ってきた。
クリスは慌てて、その辺のものを投げた。
電話やら、本やら、雑誌やら、そして自分のギターがクリスの手元に当たった。
クリスは思いっきりそれを振り上げる。
ジャンは、ギターを器用にかわすと、クリスを捕まえて、ナイフを突きつけようと必死になった。
それは、獣のようにおびえた眼だった。
「ジャン!なんでこんなこと。」
「クリス!仕方ないんだ。俺はっ!!」
と、一瞬感情的になったジャンは、クリスが振り下ろしたギターに頭をぶつけた。
途端にジャンは頭が真っ白になり、その場へ気絶した。
はあはあと息を荒くしながら、クリスはギターを放り投げた。
それから、気絶している彼を抱き起した。
「ジャン!ジャン!」
それでもジャンは起きない。
「ジャン・・・。まずいよ・・・俺、お前のこと殺しちまったのかなあ・・・?」
彼を揺り動かしながら、叫ぶクリス。
そこへ・・・。
ポールが後から、銃を構えながら部屋の中に入ってきた。
「静かにしろ・・・!」途端にジャンを膝に抱えたまま、黙るクリス。
ポールは抱えられたジャンを見ると、ペッと唾をはき
「やっぱり、こいつは役立たずだな・・・。」
と口にした。
それから、クリスに銃を向けると、一言言った。
「ロサンゼルスの葛藤の譜面はどこだ。」
やっぱり、それが目的だったのか、クリスは下を向いた。
そして言った。
「知らない。」
「嘘をつけっ!お前が持っているのはお見通しなんだっ!!」
「知らない!例え知っていたとしても、お前になんか教えるかっ!!」
「この生意気な奴!」
その途端銃声が鳴った。その銃の球はクリスの耳元すれすれの壁に当たった。
「これで最後だ。譜面はどこにある!?」
カチッと、ポールはクリスのこめかみに銃を突きつけた。
それは慣れた手つきだった。
以前、使ったことがあるのだろうか?
「どこだっ!!」
クリスは思わず目をつぶった。
その時だった!
『ガーン!!』
ポールの手に銃の球が撃ち込まれた。
「うわあっ!!」
途端に持っていた拳銃を落とすポール。
そしてそれと同時に、部屋の中がパッと明るくなった。
ポールの左手は真っ赤に血に染まっており、その血が床にぽたぽたと垂れた。
その視線の先には2人の警官と、ジミー・ハンセンが居た。
「ジミー!!」
クリスが叫ぶ。
「間に合ってよかった。隣で張っていたのが功を奏したよね。」
それからジミーはポールを見た。
ポールはジミーを見ると、狼のような鋭い目つきで見返した。
「ジミー・ハンセン・・・。お前は・・・裏切ったのか・・・?」
痛さで気が遠くなりそうなポールは、やっとの思いで言った。
「別に・・・裏切ってないさ。不正を見逃すことが出来ない性格でね。」
話は、レコーディングの時にさかのぼる。
ジミーが、クリスに向かって言った。
「だから取引と行こうじゃないか?俺たちのバンドをアトランティックに移籍させてくれ・・・。」
「取引って、そんな、俺に言われてもどうすることも出来ないよ。」
クリスが言う。
「社長につないでくれさえすればいい。後は俺たちが何とかする。その代わり責任もって譜面は俺が預かるよ。」
「でも、それじゃあ、根本的な解決方法にはならないよね。クリスと私が狙われているのは変わらないんだから・・・。」
ルクスGが話す。
「そうだ。だから俺に考えがある。」
ジミーの話はこうだった。
まず、ジャンは必ずクリスを狙ってくるだろう。
幸い、クリスの隣の部屋には誰も住んでいなかったので、ジミーがそこで寝泊まりをすることにする。
そこで、もしジャンが来たら、クリスが彼の気を引いているすきに、ジミーが素早く警察に連絡する。
と、このような手筈になって居たのである。
そこで、気絶していたジャンが起きた。
「ジャン!気付いたのか?」
クリスがジャンの様子に気付いて声を上げた。
だが、ジャンが見たものは、左手が真っ赤に染まって血だらけになって居るポールが警察に捕まりそうになって居る姿だった。
「ポール・・・!」
ジャンは、彼の近くにあった、拳銃を素早く取った。
そして、それをクリスに向けた。
「ジャン・・・!」
警察の動きが止まった。
ジミーも、その場に立ち尽くした。
「クリス、ごめん。もうこうするしかないんだ。俺、ポールを愛しすぎてしまった。だからクリス、俺はシャイニングレイを裏切るよ。さようならクリス。もう戻れない。あの、楽しかったころに・・・。」
ジャンは、それからクリスではなく、ポールに銃の照準を向けた。
ポールが何かを言いかけたが、その前に彼はポールの後頭部へ向けて拳銃を撃った。
彼は信じられない・・・という顔で、目を見開いて倒れた。
次に、ジャンは自分のこめかみに向けて銃を当てる。
警察が取り上げようとしたが、ジャンは、
「近寄るなっ!!」
と、警察を威嚇した。
「一歩でも近寄ったら、俺はクリスを撃って自分も死ぬよっ!!」
それから、自分のこめかみに銃を持って行くと、涙を流しながらクリスにこう言った。
「俺、あんたのことが憎かった。ジェイニーにばかり特別扱いするから・・・。」
「ジャン・・・。」
クリスの声も震えていた。
「でも本当には憎めなかった。何故って、俺はジェイニーもクリスも愛して居たから・・・。」
「ジャン・・・罪を償おう。償ってまた、一緒にバンド活動しよう。」
「ありがとう。でも・・・もう俺は取り返しのつかないところまで行ってしまった。だからクリス。元気でな・・・。」
その最後の言葉を残して、ジャンは引き金を引き、ポールと折り重なるように旅立った。
ポールと対照的に、彼は涙を流しながら安らかな顔であった。
「ジャン!ジャーン!!」
クリスが半狂乱になってジャンを抱き締めた。
その後ろからクリスを抱き締めるジミー。
ジミーも泣いて居た。
警官二人は唖然としていたが、応援を求めるために、自分のスマートフォンで警察署に事の成り行きを電話し始めた。
2人が無くなったことで、この、『ロサンゼルスの葛藤譜面事件』は、黒幕が誰か分からなくなった。
しかし、ジャンは後悔していないだろう。
愛の為に生き、そしてクリスとジェイニーを殺させないために亡くなったのだから・・・。
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