第3話 デスナイトの誕生、そして……

 『転生の壺』の煙が晴れた時、俺は新たな存在に生まれ変わっていた。ライゼル様やアッタロス様が興味深げに俺を見ている。俺も手や足を広げ、自分の身体を確認する。どうやら黒いフルプレートの鎧を着ているようだ。デフォルトで装備が着いてくるとは便利なものよ。


 そして背中には長いバスタードソードが。持ってみると大きさの割に以外に軽い。そこそこのマジックソードなのか?


「ふむ、転生は成功したようだな。だが見た目それほど変わったようには見えんの……。正直何に生まれ変わったのか分からぬわ。おい、爺を呼べ」


 ライゼル様は鈴を鳴らし、側近の者に命じる。爺とは、ライゼル様の幼い時から家庭教師をしていた相談役の爺さんだ。ちなみに爺はアンデットのリッチだ。ああ、リッチっていうのはヴァンパイアよりも上級のアンデットで、長く生きているから高い知識を持ってるんだ。


「これはワシもまだ見たことがありませぬ……。おぬし一体何に転生したんじゃ?」

 おいおい、俺たちがそれをあんたに聞いてるんだぜ? まるで俺がわけのわからぬ者になったみたいじゃないか。


「どれ、ワシの持っているアイテムで鑑定してみましょう」

 爺は奥から何やら鏡のようなものを持ってきた。

「これは『真実の鏡』と言ってな。そのモノが何か、特徴を教えてくれるアイテムじゃ。それじゃ使ってみるぞい」


「……」

「ふむふむ、おぬしデスナイトというモノに生まれ変わったようじゃな。ワシもまだ聞いたことが無いわい。強いのか弱いのか分からぬの」


 ガクっ。使えない爺さんだなぁ。ライゼル様も微妙な顔をしていらっしゃる。


「なんだか良く分からないわね。でも確かに魔の眷属になったのだから、寿命は無くなったし人間よりは強くなってるはずよ。でも序列はそんなに上げられないわね。うーん、88位かな」

 ウホっ。2つしかアップしていないじゃないか。


「落ち込まないでよ。これからの働き次第でどんどん上げてあげるから。デスナイトってのが実は使える種族かもしれないしね」


「爺さん、俺のスキルとか分からないのか?」

「それは分からん。お前さんがすでに知られているモノに転生したなら分かったんじゃがな。自分で戦いながら見つけていくしかないじゃろ」


 うーん、まあ謎なものを明らかにしていくのも楽しみだと前向きに考えるか。


「そうそう、寿命は無くなっただからゆっくりと能力を見極めれば良いのよ。頑張りなさい、早く私の側に来られるようにね」

 

 気を取り直したライゼル様が俺を励ましてくれた。序列20位以内になると、魔王の側近として自由に謁見できるようになるのだ。そうすれば、いつでもライゼル様の可愛い顔を見に来られるというものである。


 ついでにアッタロス様も……ウヒっ。


「何やらいやらしい眼で見られているようだが、ライゼルとは違って私は貴様など微塵も評価しておらぬ。それをくつがえしたくば、少なくとも50位にはなるのだな。まあ元が人間、到底無理えあろうが」


 アッタロス様が冷たい眼で俺を見据えている。ライゼル様も良いが、俺は正反対のアッタロス様も好きなんだよなぁ。


「ならばアッタロス様っ! 50位になったあかつきには私の願いをかなえていただきたい!」

「貴様、分際をわきまえぬか」


 アッタロス様が更に眼光を冷ややかなものにする。


「あなたにとって私は虫けら当然。であれば、私の言など虫の羽音のようなもの。退屈をまぎらわせるためのたわむれとして、聞いてみてもよろしいのでは?」


「……良かろう。言ってみるがいい」


 フヒヒ。アッタロス様のような高貴な女は自尊心をくすぐってやるに限る。案外と操り易いもんだ。


「あなた直属の配下にしてください。50位にもなればその資格はあるはず」

「ふんっ、虫けらがおごりおったか……。よかろう、戯れにその願い聞いてやる。だが、我もそれほど暇ではない。期限を指定させてもらうぞ。一年だ、一年以内に50位まで駆け上がってみろ」


 くっ、一年か。すごい短いぞ。長い時間かければ少しづつ上がれると思ったのに、これじゃあよほどの大手柄でも立てないと無理じゃねーか。


「不服か? それなら……」

「いえっ、分かりました。その条件で構いません」


 俺はアッタロス様の気が変わらないうちに返事をした。何しろ相手は最上位の存在、こうして俺と話をしているのもほんの戯れに過ぎないのだ。


「ふーん、じゃあまずはアッタロスの部下になるのを目指しなさい。無事彼女の側に居られるようになれば、私の側近になるのも夢ではないわ」


 ライゼル様が俺に優しく微笑んでくれた。やっぱり冷たいアッタロス様もいいけど、魔王さまも良い。どっちかなんて選べん!

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デスナイトだっていい子としたい 大澤聖 @oosawasei

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