第2話 ライゼル様への謁見

 俺はラルカス、人間の騎士だ。これでも一応人間の中では英雄クラスの力を持っている。その俺にして、魔王軍の中では序列が低い。いやほんと、不当に低いのだ。


 魔王軍の敵は神の軍とその眷属けんぞくたる人間だ。人間は一人一人は大した力はないが、様々な力を身につけることができる上に、強い繁殖力を持ち、殺しても殺しても増えてきやがる。


 って、俺も人間なんだけどな。


 人間の俺がなんで魔王軍にいるかというと、人間のなかにも魔に魅入られたって奴が一定数いるのだ。まあ俺はそんなことより、力が正当に評価されて分かりやすい魔王軍の方が出世できると思っただけなんだけどな。いやほんと、魔王が可愛いとかそんなことは一切関係ない。


 ああ、話が脱線したな。魔王軍のなかにも人間がいるのだが、強いパワーや魔力を持つ化物ばっかりの魔王軍の中じゃ、人間は序列が低いのだ。なんせデビルやドラゴン、ミノタウロスなんてのが居るんだからな。


 で、普通レベルの人間は序列なんと97位。下はインプ、ゾンビ、スケルトンしかいない。


 英雄クラスの俺でようやく90位、ゴブリンやオークよりは少し上ってだけだ。実際俺も魔王軍で戦うなかで人間の力の限界を感じていたところだ。


 だが俺はやってやった。ふははは、この前の戦いで敵将を討ち取ったのだ。低レベルの天使だが、奴らはあなどれない力を持っている。


 人間の俺が奴の首を取れたのは、手柄を盗んでやったからだ。ダークエルフのアリエスが天使を弱らせたところを、俺が殺して手柄をかっさらってやったのよ。汚いなんて言わないでくれよな。なにせ魔王軍だ、汚いことなんてやりたい放題、出し抜かれる奴が悪いのだ。


 で、今日俺は魔王ライゼル様に呼びだされた。恐らくこの間の手柄に対して褒美をくれるのだろう。それより俺はあの可愛い子にまた会えるっていうのが一番嬉しいのだが……。


 謁見の間に向かうと、玉座にライゼル様がいるのは当然なのだが、その横にこれまた美人が立っていた。おぉ、あの方は大公爵アッタロス様じゃないか♪


 彼女は序列1位、つまりライゼル様に次ぐ存在だ。そしてとびっきりの美人。黒髪に彫刻のような整った顔、綺麗なふとももにデカイ胸。ふふふ、ライゼル様とどちらが良いか、非常に迷う。年上好みならアッタロス様かなぁ。


「人間の騎士ラルカスよ、よく来たな。久しぶりね」

 俺は片膝をついて頭を下げた。ライゼル様は見た目16才、赤い髪にスレンダーな体型。あっ、胸はちょっと貧乳ね。


「おいっ、主君を邪な目で見るでない」

 ははー、お許しを! 魔王軍には可愛い子や美人は多いが、気品なんかも入れるとライゼル様かアッタロス様がワン・ツーに違いない。


「これがお前のお気に入りの男か? 全くもって弱いではないか」

 アッタロス様が俺を虫でも見るような目つきで見ている。やめて、俺をそんな目で見ないでくれ。


 確かに俺は魔王軍の中じゃ弱いよ。悪魔(デビル)の一人であるアッタロス様とじゃ比較にもならんさ。なんせ序列90位だもんな。


「まあそう言わないでやってくれ。これでも奴は人間の中では最強クラスなのだ」

 ライゼル様が俺をかばってくれた。ありがたや、貴女のために俺は働きますぞ。


「それでこの強さなのか? つくづく人間とはゴミだな」

 さらっと冷たいことをいうアッタロス様。そんな彼女には熱狂的なファンも多いという。あの冷たい眼差しが良いのだそうだ……。


「俺はこれでも先の戦いで天使の指揮官を討ち取りました」

 キリッ。


「……ふん、運とやる気だけばあるようだな」

 やや矛先を緩めたアッタロス様を見て、ライゼル様が微笑んでいる。


 この二人は年の離れた親友同士だ。悪魔としての実力はほとんど変わらないらしいが(下っ端の俺には凄すぎて良くわからない)、年上のアッタロス様がライゼル様の統治に協力している。それもあって、アッタロス様は使えない者に対してとことん冷たい。


 いつか彼女を見返してやる、それが俺のモチベーションの一つになっているのだ。


「ライゼル様、それでこの度のご用件は?」

「ああ、先の戦いでの功績に対してどのように報いようかと思ってな」

 

 キター! 序列アップか、金か、女か、マジックアイテムか。何をくれるか、この時が一番の楽しみなのだ。


「……そなた魔の眷属になってみるか?」

 唐突にライゼル様が聞いてきた。


「は?」

 俺はわけが分からず、オウム返しに聞き返してしまった。


「ここに『転生の壺』というアイテムがあってな。使うと、その者に適した悪魔の眷属として転生してくれるというものだ。そなたは人間だ。戦えるのはせいぜいあと30年ちょっとで、力も弱い。だが悪魔の眷属となれば、寿命はほぼ無くなり、様々なスキルや特性がつく。長く私に仕えることができるのだ。どうだ?」


「やります!!」


 俺は間髪入れずにそう言った。俺は人間であることにこだわってはいない。いや人間としての限界をつくづく感じていたのだ。それにどうやったって早々に老いが来て、お払い箱になるだろう。ライゼル様やアッタロス様をずっと見ていられないではないか。


「だが、一つ問題もあってな。使ってみるまで何に転生するか分からんのだ。最悪虫になったりして……」

 ノー!! それは困る。でたとこ勝負かよ。そういうのはマジで勘弁して欲しい。


「どちらにしても虫けらではないか」

 アッタロスさん、虫を見る目はやめてください。いや、本当に。


「わっ、分かりました。このラルカス、魔王さまに末永くお仕えするため転生いたしまする!」

「そうか! 良い覚悟だ。では『転生の壺』を使うぞ!!」


 えっ、はや。まだ心の準備が……。


「『転生の壺』よ! この者の魂を相応しき姿に変えたまえ!」

 ライゼル様がそう唱えると、壺から煙のようなものがモクモクと流れだした。そしてそれは俺の全身を包み込む。


「おお!?」


 身体のあちこちが引っ張られているかのような感触がする。なんだなんだ、トランスフォームでもしてるのか?

 

 そして俺は………、生まれ変わったのであった。

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