デスナイトだっていい子としたい

大澤聖

第1話 天使との戦い

 いま俺の前方に、天使軍が整然と並んでいた。大将は下級天使、兵士の多くは人間だ。一方、俺は魔王軍の一員としてこの戦いに参加していた。局地的な戦いだから、敵にあまり強い奴はいない。だが相手の大将は腐っても天使、俺からみればかなり強い部類だ。


「皆の者、武功をあげよ! 敵の大将の首をとった者には必ずやあつくむくいてやろう!」

 士気を高めるため、大声を張り上げているのは魔王ライゼル様。俺たち魔王軍の大将だ。


 この戦い、それほど大きなものではないのだが、わざわざ魔王自ら指揮をとっている。まだ若いので経験を積む必要があるとかなんとか。だが、そんなことはどうでも良い。


「あの可愛い魔王様が大将なら、俺のやる気ゲージはMAXまであがってるぜ!」

 俺は思わず心の声を口に出していたらしい。ライゼル様が俺の方を見てニコリと微笑む。


「そこな人間、よい心構えじゃな。嬉しいぞ。それと我のことを可愛いと言ってくれたこともな」

 うぉー、ライゼル様に認めてもらったぞ! どんな世界でもそうだが、出世するには目立って認められないと駄目なのだ。


 そう、俺は人間だ。魔王軍では貧弱で役立たずだと思われている。そんな俺が出世するには、ライゼル様に認めてもらうしかないのだ。ここは必ずや武功第一になってみせるぜ!


 だが、俺は無闇に敵に突撃したりしない。そんなことしたら雑兵に阻まれて大将までたどりつけないじゃないか。大手柄をあげるには、よく戦場を見定めなければならないんだぜ。


 俺は顔見知りのダークエルフが右ななめ前に居るのに気がついた。奴はアリエス。ルックスはエルフらしく非常に可愛いが、魔王軍のなかで序列55位、俺よりはるかに序列が上の手練てだれだ。奴にくっついていけば、大きな手柄をたてることが出来るかもしれない。


 俺はアリエスが走り出すのを見ると、密かにその後ろからくっついて行った。


 アリエスは得意の魔法とレイピアを駆使して敵を倒していく。ダークエルフっていうのは、魔王軍でもかなり上位のマジックキャスターだ。ファイアーボールだの、アイスバニッシャーだのをズンドコ放って奴が走る両側には死体の山が出来ていやがる。しめしめ、この分なら敵の大将まで楽にたどり着けそうだぜ。


 アリエスはそのまま一直線に敵陣を駆け抜け、大将の側近らしき神官をレイピアで瞬殺すると、ついに本陣の天使までたどりついた。


 だが、さすがに腐っても天使、強いオーラを発してやがる。弱い俺では正確に相手の強さが分かるか心もとないが、魔王軍でいえば序列30位くらいはあるんじゃないだろうか。


 天使って奴は魔法無効化スキルがあったり、再生能力があったりして相当手強い奴らだ。正直、俺じゃ一対一で勝てる相手じゃない。俺は物陰からアリエスと天使の戦いを見守った。


「あなたが天軍の大将ね。わたしは魔王軍序列55位のアリエス。ダークエルフよ。悪いけど、私の出世のための踏み台になってもらうわよ!!」

「怖いもの知らずのエルフの娘よ。自ら死を望むか!」


 つっこんでいくアリエスに対し、天使は立ち上がって歌を歌う。こいつは天使がもつスキルの一つで、有効範囲の邪な敵に対してバッドステータスを与える厄介な能力だ。味方に対するブレスと反対のようなものかな。


 だがアリエスは予め想定していたのか、気にせずに懐へ飛び込んでいく。どうする気だ? 天使には生半可な武器攻撃は通じないんだが。


「ダークフレイム!!」

 アリエスは闇属性の魔法を至近距離から天使に放った。天使が聖属性なら、効果的にダメージを与えられるのは闇属性。ダークフレイムは地獄の業火で敵を焼き払うバリバリの闇属性魔法。


 なんでこんなこと知ってるかって? 「仲の良い」アリエスちゃんに教えてもらったんだよ!


 天使は上半身をダークフレイムに吹き飛ばされ、瀕死の状態だ。そう瀕死、まだ生きてるのよ。うげー、こんな状態からも再生すんのかよ。


 だがっ! 今がチャーンス!!


「とうっ!」

 俺はアリエスに背後から走り寄る。ハッとなって振り向くアリエス。俺はその背中を飛び越え、天使に向かって剣を振り下ろした。


「うごぉぉおおおおお!!」

 天使はこの世のものとは思えない絶叫を放ち消滅した。


「ふぅ。滅んだか」

 俺は額の汗を剣を持つ手で拭った。長い戦いの末、ようやく倒せた。


「ふぅ、じゃないわよ!! ラルカスっ! あんた、なんて事してくれるのよ! 私がほとんど殺しかけてたんじゃないの!」

「まあそう怒るなよ、アリエス。俺とお前の仲だろう?」

 俺はアリエスの肩に手を回した。


「ふざけないでよ!! あなたこの前も私の獲物をさらっていったじゃないの!!」


 そう、俺は以前にもアリエスでコバンザメ戦法をしたことがある。これで前科2犯といったところか。


「まぁまぁ、惚れた男が出世するなら悪くないだろ?」

「ば、馬鹿言わないでよ。誰があんたなんか……」

 

 ヒヒヒ、こいつがなぜか俺に惚れていることは知っている。こういう細やかな感情表現って奴は、人間の得意分野だ。


「さて、それじゃ俺は一番手柄を申告しにいくかな」

「お、覚えてなさいよ!! ラルカス!!」


 アリエスは俺を嫌う奴がよく言う罵倒語を使ってきた。ふふふ、負け惜しみを聞いて勝利の美酒を味わうのも悪く無い。


 こうして俺は、局地戦ではあるものの、敵大将の天使を倒すという大手柄をあげたのである。魔王ライゼルさまは俺の手柄をとても喜んでくれた。その時見せてくれた笑顔を俺は忘れない。ライゼルさまのためなら俺はやるぜ!!

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