ラクしてバンドがしたいんだっ!

@bebebe-su

第1話

「すみません、自分も部活やめます」


 悩んで悩んで悩み抜いて、自分の出した結論はそれだった。


 高校入学直後、コントラバスに一目惚れして入った吹奏楽部。


 A部門 《大編成》に出られるほどではないが、そこそこ活気もやる気もある部活だった。コンクールでも県の大会を勝ち抜き支部大会にも出られた。このまま二年、三年と続けていくものだと信じて疑っていなかった。


 そんな部活が、あっさりと空中分解したのは定期演奏会直後のことだった。


 ザ・吹奏楽といった楽曲を集めた第1部、シネマ音楽を中心に多くの人が聞いたことがあるであろう音楽を中心に据えた第2部、演劇を織り交ぜてポップス曲を中心に考えた第3部。この三部編成でいこうと部全体で決めた頃。


 何が気に入らなかったのかは今となっては知る由もないが、顧問の一存で第2部はまるまる取り潰され、ステージドリル《マーチング》をやることが顧問の一存で強行に決められた。


 演奏曲まで決まっていた段階での顧問の横暴に多くの部員が反発したが、本番までの日取りもなく顧問との調整に取れる時間もない、と言う部長の説得に不承不承、といった体で第2部の変更が部活全体で決定された。


 不本意な内容とはいえ、自分たちが出るステージである以上あまり露骨に手抜きもできず、本番でも付け焼き刃にしてはまずまずのパフォーマンスが出来たと思った。


 部がおかしくなったのはここからだった。


 まず喧嘩が頻発した。部活を休む部員が増えた。ひどい時には部員の半分が休む日もあったくらいだ。


 個人的には楽器にさえ触っていられるのなら、と漠然とした不安を覚えながらも部活には出続けていた。


 事態を重く見た顧問が部全体でのミーティングを開いた。


 本当に原因が分かっていないのか、それとも分かった上でやっているのか、顧問が再三部活への意欲が薄れた理由を問うても、誰も口を開こうとはしなかった。


 誰も何も話そうとしない中、明らかに顧問の苛立ちが高まる中、それまでなんとか顧問と部員とのバランスを取り続けていた部長が遂に壊れた。


 罵倒の言葉を次々に並べながら、顧問に掴みかかろうとしたのだ。


 慌てて自分を含めた周りの人間が止めたが、それからはもうひどいものだった。


 部長の爆発を目の当たりにした他の部員までもが、口々に不平不満を漏らし始めたのだ。怒鳴り声の応酬が続く中、一人、また一人と部室から出ていく部員たち。


 最後に残ったのはたったの5人で、後日退部届けを出さなかったのもこの5人だけだった。


 暴力沙汰にはならず、誰が怪我したと言うわけでもなかったので、学校としては大きな問題にはならなかったが、部活にとっては大きな問題だった。


 たった5人で、音楽を続けるのか。


 他の4人は、それぞれが部活を、音楽を続けていくことになんの疑問も持っていないようだった。


 騒動がひと段落した後、久々に楽器を弾こうと右手に持った弓がどうしようもなく重かった。


 いつも通りに楽器を構えているはずなのにどうしてもしっくり来なかった。


 決して聴きやすい音色ではないが、確かに音楽室を静かに震わせるはずのコントラバスの音色が、どう弾いてみても全く出せなかった。


 誰と合わせてみても、何が面白くて音楽こんなことをやっていたのか、思い出せなくなった。


 心が弱い、と言われればその通りなのだろう。あの出来事以来、音楽に関わる全てが響きを失い、ただただ気分を重くするものに変わり果てた。


 もうだめだ。そう思った日、初めて部活を早退した。


 翌日退部を申し出た時、「そうか」と一言呟くように言った顧問からはなんの感情も感じ取れなかった。


 譜面や松脂、チューナーなど部室に置きっ放しの物も多数あったが、残りの部員たちと顔を合わせたくなくて、そのまま置き去りにした。もう使うこともないだろうから。


 そのまま音楽から離れ地蔵のような色をした高校時代、大学時代を過ごした自分は、いつの間にか社会人になっていた。

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