第190話 ゾデュスと愉快な仲間達②
「セラフィーナちゃん、すっげぇ。……でもなんかちょっとこの転移門形がおかしいねぇ~」
ゾデュスがセラフィーナに疑いの視線を向ける中、ガデュスの気の抜けた声が聞こえ、ゾデュスは我に返る。
確かによく見てみると、セラフィーナが展開した【転移門】の形は少し歪だった。
ゾデュスが見たことがあるのは魔王ギラスマティアとリルの【転移門】のみだったが、少し大きさなど細部に違いはあったものの、比較的綺麗な円形を描いていたのを覚えている。
それに対して、セラフィーナが展開した【転移門】は黒い部分と何もない通常空間との境目がクネクネと不規則に曲がっていて、ぼやけ具合が大きいように思えた。
ゾデュスの直感的な感想で言うと、なんか不安定そう。
そんな感じに見える【転移門】だった。
ゾデュスがそんな感想を覚える中、ガデュスの指摘が図星だったのかセラフィーナがキツめの言葉で転移門への誘導を促す。
「うるさいわね、あんまり得意じゃないって言ったでしょ? ていうかさっさと入りなさいよ。変な所に飛ばされても知らないわよ」
「そ、それは確かに困るな」
セラフィーナの正体も気になるが、今、最もゾデュスにとって重要なのはリルを連れ帰る事だ。
セラフィーナが何者なのかはますます分からなくなったが、今の所はゾデュス達に協力してくれている。
だというのに、そんなことに気を取られて、リルの捜索に失敗する事になりでもすれば、目も当てられない事態にもなりかねない。
「じゃ、俺が一番乗りぃ~」
ゾデュスが考え込む中、何も考えて無さそうなガデュスが我先にと黒い渦の中へと消えて行った。
そんな能天気な弟を見て、ふとゾデュスはガデュスの事を羨ましく思った。
「へ、変な所に飛ばすなよ」
「そんなことして私に何の得があるの? 疲れるからさっさと入れ」
「お、おい、押すな。自分から入る」
ゾデュスは後ろからぐいぐいとセラフィーナに背中を押される。
最初は少し抵抗していたゾデュスだったが、このままでは埒が明かない事を悟り、渋々【転移門】の中へと入って行った。
そして、ゾデュスが黒い渦をくぐった先には見知らぬ平原が広がっていた。
心なしか空気が澄んでいるようにゾデュスは感じる。
幸い、変な所に飛ばされたという事はなく、先に入ったガデュスも傍で待機していて、すぐに後ろの黒い渦からセラフィーナが顔を出した。
「ここが人間界……か」
思わずゾデュスはそんな声を漏らした。
正確に言えば、ゾデュスは数日前、人間界へと僅かながら侵入を果たしたのだが、あの僅かな期間を除けばゾデュスが人間界の地へと足を踏み入れたのはこれが初めての事だった。
約900年前、魔王ギラスマティアが敷いた人間界不可侵の法により、全ての魔人が人間界への侵入が禁じられた。
その所為でゾデュス自身、人間界へと足を踏み入れる事が今日の今日まで出来なかったのである。
「……そうね」
セラフィーナも何か感じる事があったのか立ち尽くしたまま、小さな声でそう呟いた。
「なんだ、お前みたいなやつでも人間界侵攻の野望があったのか? まぁ人間界征服は全ての魔人の夢だからな。だからこそ、ブリガンティス様には魔王になっていただければならない。今の四天王でそれが成し遂げられるのはブリガンティス様だけだからな」
ゾデュスはそう言ったものの、実際は人間界征服に反対している魔人もいる。
それが今は亡き魔王ギラスマティアを崇拝していた魔人アルレイラ率いる龍神族一党であり、最終的にはブリガンティス軍は彼女たちを打ち倒さなければならない。
とはいえ、ブリガンティスが人間界魔界統一支配を果たし、魔王になる時もそう遠くはないだろう。
そんな理想を膨らませていたゾデュスの耳にセラフィーナの冷めた声が響く。
「……あのロリコン野郎が魔王の器かしら」
「あぁ!? なんか言ったか?」
「いーや、なんでも。そんなことよりもこんな所で油売ってる暇がアンタにあるの? さっさとリルを見つけないと。こっちよ」
小さなセラフィーナの呟きに過敏に反応したゾデュスをさらっと躱し、西へと向かい歩き出す。
本来であればあのような暴言を吐いた者を許せるはずもないのだが、セラフィーナの暴言は今更だし、そもそも今はそれよりも重要な事がゾデュスにはあった。
「ホントにこっちなんだろうな? お前の方向感覚は当てにならん」
初めてゾデュス達がセラフィーナに会った時、魔界だと言うのにまったく違う方向へ歩き出した事をゾデュスは思い出す。
そんなゾデュスにセラフィーナは振り返り、ムッとした表情で言い返した。
「合ってるわよ。アンタらのザルみたいな魔力探知と一緒にしないでよね。こっちに小さな反応がいっぱいあるでしょう。アレがシラルークよ」
「……やけに詳しいな」
「……前に来たことがあるのよ」
(……来たことがある? こいつこんなナリで俺達より古参の魔人なのか?)
見た目こそ16,7の少女にしか見えないセラフィーナだが、魔人の年齢は見た目だけでは測れない。
リルまで行くとかなり稀な部類だが、種族によってはゾデュスより若く見えても、意外と年上だったりする例はそこまで珍しくはない。
ギラスマティアの監視が始まった900年前より前から生きていた魔人でなければ、基本的に人間界との境界戦を越える事はできない。
つまり、人間界の街であるシラルークに来たことがあるということは普通に考えればそういうことになるのだが、その考えのそもそもの前提条件が間違っていることにゾデュスは気づけなかった。
「もう別にいいでしょ、そんな事。さっさとリルを探すわよ」
そう言って、セラフィーナは話を打ち切り、シラルークの方へと歩き始めるのだった。
魔王をするのにも飽きたので神をボコって主人公に再転生! コメッコ @komekko110
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