第189話 ゾデュスと愉快な仲間達①

「あいつ、マジパワハラじゃない?」



ブリガンティスの強制招集から解放されたゾデュス達は大した準備もなく、数日前に通ってきた道をそのまま引き返す形で歩みを進めていた。


目的はもちろん遊びに出かけたとされるリルを連れ戻す事だ。



「しかし、リル様も余計な事をしてくれた。まさかブリガンティス様があれ程取り乱すとはな」



「アンタも仕える主人考えた方がいいわよ。人生リストラされる前に自主退職も考えといた方がいいわよ。マジで」



「セラフィーナちゃんも兄貴も全然話噛み合ってないよぉ~。は~、それにしてもあの時のセラフィーナちゃんはかっこよかったなぁ~」



ガデュスはそんな指摘をしつつ、うっとりとした表情で玉座の間でのセラフィーナの言動を称賛していた。


確かにゾデュスも口の悪さはともかくとして的を射た発言とあの時のブリガンティスに意見する豪胆さに関してだけ言えばガデュスと同意見だった。——もちろん口を裂けても口にはしないのだが。



「ガデュス、お前も大概噛み合ってないぞ。それに俺はこの女とそもそも話をかみ合わせる気はないし、噛み合う気もしない」



「なんだ、気が合うわね。私も同意見よ」



「兄貴ぃ~、なんだかんだセラフィーナちゃんと気が合ってるじゃん。よかったねぇ~」



(何がいいのかさっぱり分からん)



いよいよ弟の心配をしつつ、ゾデュスは気を取り直して、今後の事に集中する事にした。



「それでどうする? リル様の行方に見当がつくのか?」



今、ゾデュスにとって重要なのはリルの行方一点であり、弟のくだらない色恋沙汰でもセラフィーナと噛み合う合わないの話ではなかった。



「そんなの私が分かるわけないじゃない。でも普通に考えたらシラルークって街かそれなりに大きな都市よね? 多分」



「シラルークはともかくなぜ大きな都市なんだ?」



「だって田舎なんかで遊んでも楽しくないでしょ? こんな時期に人間界に遊びに行くくらいだからシラルークや大都市なんかに行ったら人間に見つかりやすいなんてこと考えないでしょうし」



「流石はセラフィーナちゃん、名推理ぃ~」



「褒めてもなにも出ないわよ。それよりも早く見つけないとね。せめて人間界との戦いが始まる前に」



「ムリゲ~じゃない~? 行って帰るだけで結構かかるよぉ~。ていうかよくよく考えたらほっといても開戦前には帰ってくるとは思うんだけどぉ~」



「そう思うなら今からお前が帰ってブリガンティス様にそう報告して来い」



確かにガデュスの言う事にも一理あったが、ブリガンティスは理屈でどうにかなる相手ではない。


仮にリルが見つかってない段階でそんな報告をしようものなら、一理あろうがなかろうが、その者に待ち受けるのは死だけだ。



「はは、冗談だよぉ、兄貴ぃ~。重要なのは、俺達が一生懸命探しましたって事実だよねぇ~」



ガデュスは苦笑いしながら言うが、それは違う。


重要なのは、自発的でも連れ帰る事でもいいが、リルが無事にブリガンティスの元へ戻るという結果のみだ。


あくまでゾデュス達が一生懸命リルを探すというのは前提条件であって目標でも何でもない。



「とりあえずシラルークに行くわよ。それで魔力探知してみてそれらしいのがいなければ違う都市に行くという事でいいんじゃない?」



「それしかないか」



そうしてとりあえずゾデュスはシラルークへと向かうことになった。


だが、まだ先程ガデュスが言った問題が残っている。



「だが、シラルークで見つからなければそもそも他の都市を探索している時間的余裕がないぞ。どうする気だ?」



そう都合よく、シラルークから近い都市にリルがいればまだ問題はないが、仮にシラルークから離れた都市に行っているとしたら、人間達との開戦までにリルを連れ戻す事はできない。


そんな状況で人間達との開戦を迎える事態にでもなれば、ブリガンティスが次にどんな行動を起こすかは今のゾデュスには想像もつかなかった。



「そうよねー。……まぁ仕方ないか」



セラフィーナは少し悩んでから、突然歩みを止めた。



「……? 何のつもりだ?」



時間がないと言っているのに、セラフィーナが突然止まった理由が分からず、ゾデュスが戸惑いの声を上げた。


だが、すぐにゾデュスはその意味を理解することになる。



「私あんまり得意じゃなくて、魔力の消費が半端ないからあんまり使いたくはなかったんだけど……」



セラフィーナはそう呟いた後、両手を正面にかざしプルプルと震え始めた。



「なんだ? トイレか?」



「うるさいわね、気が散る!」



ゾデュスの疑問にセラフィーナが声を荒げながら答えた次の瞬間。


セラフィーナが両手をかざしていた空間に歪み、暗黒の渦のような物が現れた。



「おいおい、まさか」



ゾデュスもあまり見たことはないが、それは確かに第2級魔法【転移門】だった。



「こんなもんまで使えたのか? お前本当に何者だ?」



「言ったでしょ。野良のハルピュイア系魔人よ」



どう考えても魔王軍に属してすらいなかったというセラフィーナが使えるような魔法だとはゾデュスには思えなかった。


【転移門】はれっきと上級魔法だ。


しかも、空間魔法は中でも扱いが難しく、魔王ギラスマティアを除けばゾデュスが知る限りでは魔王軍の中でも使える者はリルだけだった。


もしかすればミッキー辺りも使える可能性はあるかもしれないが、それでも扱える者は片手の指に収まるくらいの魔法だろう。


しかも、そんな【転移門】をセラフィーナは得意ではないと言っている。


更に言えば、ゾデュス達がセラフィーナと初めて会った時に使った【ホーリーエクスプロージョン】にガデュスの腕を再生させた治癒魔法。


どれ1つ取っても普通の魔人では習得しえないレベルの魔法ばかりだった。



(こいつ、やはり只の魔人では……)



そんな忘れかけていた疑念がゾデュスの心の奥底で再燃するのだった。

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