第3話 「爆殺VS惨殺」

「おや? おや! その姿はもしやZですか? お会いできて光栄です。私はB、バロードです」


まさかの来客に驚きつつも、隙を見せず戦闘体制を崩さないバロード。




「それで、何のようですか?」


紳士ぶった表情を浮かべながらも、バロードの言葉には確かな殺意がこもっていた。ゼロはその殺気とこの惨劇に顔色一つ変えず言い放つ。


「この指令は俺がもらい受ける。貴様は失せろ」

「いきなり現れて何を言い出すかと思えば、横取りですか。貴方ほどの殺し屋がみっともないですよ。報酬に目が眩みましたか?」


明らかに不機嫌そうな様子のバロード。少しずつ化けの皮が剥がれてくる。


「報酬? そんなものは貴様にくれてやる。だが、こいつを殺すのは俺だ」


自分の殺意に当てられても笑顔を浮かべたレイアの顔が恐怖にひきつっているのに多少の苛立ちを覚えつつ、銃を構えるゼロ。


「そういう問題ではありません。私にも殺し屋としてのプライドがあります。一度受けた指令を投げ出す訳にはいきません」

「お前は楽しみたいだけだろう? これだけ無関係の人間を殺しておきながらプライドだと、笑らえんな」


ふふふふ。笑い出すバロード。その顔は完全に紳士の顔ではなかった。




「笑えない? それはそうでしょう。貴方、組織からの教育のせいで笑えなくなったのでしょう? 自虐が過ぎますよ」


ゼロは何も言わずバロードに銃口を向ける。

バロードは笑いつつも爆破対象をレイアからゼロへと移行する。


「組織に逆らうつもりですか?」

「問題ない。貴様が殺しに失敗し、俺が引き継いだ。それだけのことだ」




ゼロの返事が合図となり、爆弾が投げつけられる。それを空中で狙撃し、致命傷を避けつつバロードに向かって発砲する。弾は腹に直撃したが、防弾チョッキを着込んでいるのか、効いているようすはない。

咄嗟に頭に狙いを変更するが、バロードは落ちている死体を壁にし身を守る。



レイアは必死に逃げようとするが、足が動かない。自分を殺しに来た殺し屋同士の殺し合いをただ見ているしかなかった。


バロードの攻撃はことごとく無効化されてしまうが、ゼロの攻撃もまた肉の壁によって遮られてしまう。





バロードは焦りを感じていた。爆弾は尽きかけ、肉壁は崩れそうになっていたからだ。


(このままでは私の敗けですね。ここは目的を果たしつつ、この場を去り、組織とコンタクトをとり、この男を処分してもらうしかなさそうですね)


バロードは防御に専念し、標的をレイアへと変更した。レイアも危険を察知し、逃げようとするが足がもつれて転んでしまった。



「きゃっ」

「ではさようなら」


投げ込まれた爆弾をまたもや打ち落とすゼロ。が、しかしその隙をバロードは見逃さなかった。


「そう来ると思っていましたよ!」


バロードの腕からとっておきの手榴弾が投げられる。防御姿勢をとるが、爆風によって投げ出され地面に打ち付けられるゼロ。


「ツ!」


下敷きになった右腕は折れてしまったのかまったく動かない。左手で応戦するものの狙いが定まらない。


「哀れですねぇ、伝説とまで言われた殺し屋がまさかこのような結末を迎えるとは」


勝ちを確信し、勝利に酔いしれるバロード。後ろから近づいてくる少女の足跡などには全く気がつかないほどに。


「ではさよう……ガッ!」


バロードは後頭部めがけて振り下ろされた瓦礫によって意識が途切れる。倒れたバロードの背後から瓦礫を掴みながら震えるレイアが姿を現す。




自らの行いに驚きを隠せない様子のレイア。殴った感触と、血で染まった手を見て人を傷つけたことを実感する。


「大丈夫ですか?」


必死に言葉を振り絞る。そうしなければ心を保てない。

ゼロは命を救われたことなど意に介せず、克服されてしまうのはふらふらの体を起こし、バロードの命を確実に奪うための行動に移る。


ゼロがバロードに止めを刺そうとしていることに気がつくと、ゼロの拳銃とバロードの脳天の間に割ってはいるレイア。




「殺してはいけません!」




ゼロはレイアの力ある眼差しに苛立ちを覚えつつ劇鉄をあげる。


「頭をかち割った奴の台詞とは思えんな。お前の始末は後だ、どけ」


身を引き裂かれそうな震えがレイアを襲うが、レイアは引き下がらない。


「嫌です。人を殺してはいけません」


ゼロの殺意に飲み込まれそうになりながらも、レイアは必死で抗う。


「貴様……いい加減に……」


レイアが死を覚悟した瞬間、ぷつんとゼロの意識が途絶えた。

よく見れば所々彼には火傷の痕があり、右腕は大きく腫れ上がっていた。


緊張の糸が切れたのか大量の涙が溢れ出すレイア。


恐怖、緊張、痛み。


ここまで号泣したのはいつ以来だろう。そんな事を考えながらひたすら泣き続けた。



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