リアリストを壊すファンタジスタ

naka-motoo

Run away whole things.

 嫌だと思ったらとことんやらなきゃいいよ。

 だって、そうでしょ?

 やらなくて済むなことやってさ。失敗すらしちゃって叱られたり失望されたりしたらバカみたいだもん。

 恨まれるかもしれないし。

 でも世の中には変わった人間もいるんだよね。


 ほら、来た。


「サナさん。ほんとに修学旅行行かないの?」

「もよりが世話焼くことじゃないだろ」

「でも・・・」

「もより。アタシのこと気に病むぐらいだったら自分のこと振り返ってみなよ。他人に意識向けるのって結局自分から逃げて優越感に浸りたいからだろ」

「そんなんじゃ」

「高校生なんだからさ。旅行行かないぐらいアタシの好きにさせろよ」

「せっかく京都なのに・・・」

「は。京都なんて観光地の最たるものじゃない。珍しくもなんともないよ」

「そう・・・じゃ、気が変わったら言ってね」


 ふ。

 だいたいアイツは名前からして『もより』なんて変わってんだよな。寺の娘かなんだか知らんけどさ。それよりバーガー屋でポテトでも食べて帰ろうかな。どうせ晩ごはんなんてないしな。


「あれ? サナ!」


 うわ。今度はコイツか。


「なになに? おやつ?」

「・・・お前こそ何してんだよ、レン」

「いやー。バンドの練習の帰りでさ。お腹すいちゃって」

「ふーん。ほかの奴らは?」

「みんなバイト。ミサトなんてメイドカフェでバイト始めてさ」

「へえ」

「サナもなんかやればいいのに」

「いいよ。めんどくさい。やりたくないことはやりたくないんだよ」

「じゃあやりたいことは?」

「虚無」

「ぷ」

「なんだよ」

「ぷっははは! 虚無、ってカッコつけちゃってさあ!」

「つけてないよ。ほんとに疲れるんだよ、色々と無駄なことするとさ」

「バンドとかは無駄じゃないよ」

「嘘つけ。デビューできるわけでもないくせに」

「それがさあ。来たんだよ、これがさあ!」

「? 『オーディション1次選考通過のお知らせ』?」

「えへん。『異世界に逃亡したら逮捕されたけど現地の刑務所が更なる異世界でファンタジーの始まりだった件』のテーマ曲コンテストで1次通過! 全員で徹夜でデモ音源作ってさ」

「なんだその呪文みたいなのは」

「え? 知らないの? ラノベだよ。異世界転生テンプレの」

「逃げる話だろ?」

「違うよ。発展的に逃げるんだよ」

「意味が分からん。なんだよ発展的って」

「『明日へ向かって逃げろ!』なーんてね。あれ? もう帰るの?」


 ああ疲れる。

 さっさと家帰ってゲームでもしよ。


「おやあ? サナ様! 何処へ!?」


 ああ。とうとうコイツまで出るのかよ。


「家に帰るんだよ。チノリこそ何してんだよこんな所で」

「サナ様をストークしようとして待っておりました」

「げ」

「またまた。本当は少し嬉しいんでしょう?」

「いや。全く」

「はいはい♡ では行きましょうか」

「ああ?」

「サナ様邸へ」

「帰れ」

「そんなことおっしゃらずに。あ。ならわたしの家に来ます?」

「嫌だ」

「なぜ」

「この間押し倒そうとしてたろ」

「まさか」

「じゃあなんでオマエのベッドに枕が二つ並んでたんだよ!」

「ほほほ。照れてるんですね。カワイイ♡」

「もういい。成層圏の外へでも消え失せろ」

「あ、サナ様! 待ってください! お逃げになるんですか!?」


 まったくどいつもこいつも。

 アタシは孤独になりたいんだよ。

 なんで会うごとにグレードが上がってくんだよ。いや、下がるというべきか。


「ただいま・・・って応答するわけないか」


 そうだよ。一応は『世帯』ってことになってて父親が世帯主ではあるけどさ、世帯主も配偶者である母親もほぼ家に居ないからな。

 こういうパターンでよくあるのは両親がエグゼクティブで海外で年間の3/4を過ごして一人娘をマンションに一人暮らしさせといてさ。んでなぜか同年代の男子と共同生活を送るなんていうラノベかラノベを原作にした深夜アニメかなんかのようなさ。


 出稼ぎなんだよ、ウチの両親は。


 有効求人倍率が二倍に迫る状況、ったってそれは特殊技能や最低でも税理士とか今日びは弁護士すら仕事にあぶれる状況で。通常業務しか経験値が無いウチの両親は地元での職探しを断念してやや都会地に出稼ぎに行っててさ。


 はあ。


 バイトでも探そうかな。


「よ。こんちはっ!」

「わあっ!」

「あららら。そんなに驚かなくても。僕だよぉ」

「・・・誰?」

「やだなぁ。不安ファン汰磁素汰タジスタだよぉ」

「帰ってくれ」

「えぇ!? 僕が何者か確認もしない内にそれはないよね?」

「知りたくもない。何? そのカッコ」

「カッコいいだろ?」


 なんだこのすっとこどっこいのような出で立ちは?

 ミラーボールの鏡面のような素材を張り付けたヘルメットに。

 ほんとにグラスが三角の形をしたサングラス。

 首には赤のスカーフ?

 ラクダのシャツ? この蒸した梅雨空に。

 ええと。

 下はラクダのパッチ?

 ブーツは赤のロンドンブーツ。


 いい加減にしてくれないかな、今日会った全員。


「疲れたわ。帰って」

「えー。せっかく会いに来てあげたのに」

「黙れ」

「ジャジャン。イカ入りのたこ焼き!」

「帰れっ!」


 はあ。

 やっと一人きりになれた。

 コーヒーでも飲もう。


「はい。生クリーム!」

「うわわっ!」

「ほんとは寂しいんでしょぉ?」

「あーもう。はいはい。アタシゃ寂しくて寂しくてたまりませんよ。友達ゼロだよ」

「寂しいサナちゃんには僕が友達になってあげるよぉ」

「勝手にすれば」

「あれ?」


 なんだ?


「ダメだ。無理だったよ」

「なにが。なんで」

「もよりも、レンも、チノリも、元々友達だよぉ」

「・・・お前もな」

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