第3話
翌日も一部の教師たちに違和感があったが、大きな問題もなく時間は進んだ。
同じ授業を繰り返すのは生徒に特に嫌われている教師ばかりということもあり、教室の生徒たちは何も言わずに授業を受けるフリをしている。
話を聞いてなくても、黒板に書かれた文字と過去にとったノートによって正解を答える。
実に平和で充実した時間だ。
僕は昨日とあまり変わらない窓の外を眺めた。
電線から雀が飛び立ち数回羽を上下した後プールのフェンスの上にとまる。
空には羊のような雲がひと塊りだけ漂っている。
いつもは回答を間違えると癇癪をおこす杉も今日は静かに授業を進める。
これも前回と同じ授業内容で誰一人間違った回答をしないためである。
こうなると生徒たちも授業ではない他のことをする。
溜まった提出物をやる者、落書きをしている者、スマートフォンを隠れて操作したりうたた寝をする者もいる。
みんなそれなりにこの時間を充実させているらしい。
チャイムがなると皆さっさと教科書などを片付けた。
次の授業はススム授業だ。
公民の春ちゃん先生の授業だ。
春ちゃん先生は教えるのが上手い。ついでに冗談も面白いし、生徒思いだ。
更に話が進むスピードがはやいが、クラス全員が理解した状態で次の内容に進む。そのため授業が辛いだとか嫌だとかいう人はほとんどいない。
「起立、お願いします」
クラス委員の声の後にクラス全員の声が続く。
やはり春ちゃん先生の授業は皆んなが楽しそうだ。
春ちゃん先生は四十代後半とは思えない快活さで声を張る。
「よし、じゃあ授業始めるか。前回の内容から引き続き国会の話をやっていくぞ」
僕の頭の中にクエスチョンマークが浮んだ。
「え、国会の内容終わったんじゃなかった?」と僕の考えてたことを代弁する声が聞こえる。
「え、マジか?ここ終わった?」
春ちゃん先生の問いかけに生徒たちが首を縦にふる。
「うわぁ。もう物忘れするようになっちゃったか。ショックだなぁ」
クラスが笑い声で満ちる。
そんな明るい雰囲気でその授業は続いた。
いたってどこにでもあることだ。
若い教師でも少しくらい勘違いすることはある。そんな軽い空気だった。
春ちゃん先生の授業も終わり、その次の現代文の授業が始まった。
現代文の授業は小野先生が担当だ。
彼女は今年からこの学校で新任になった。
授業はそれほど上手くはないが、頑張ってる感じは伝わってくる。
見た目は高校生と言われても疑わないくらいの童顔で、背も低めだ。
「はーい。じゃあ、百二ページ開いて〜。この前の作者の経歴の穴埋めの続きやるよー」
生徒たちが騒めいた。
小野先生までも春ちゃん先生と同じように、物忘れをしている。
「嘘だ〜。このクラスでやったおぼえないもん」
そう言いながら小野先生は前の席の生徒たちの教科書を覗いた。
「あれ?本当だ。やってある!」
おかしいなぁと言いながら授業は進んだ。
その後の授業は何も問題はなかったが、クラスでは疑問の声があがっていた。
放課後いつもと同じようにミサキを下駄箱で待った。
カラスが喉を痛めたような声を出して飛んでいく。
西の空が赤く染まっている。
突然、背中に衝撃を受けた。
「おっ待たせ!驚いた?驚いたでしょ」
「人を待たせておいてその態度とは…何様だよ」
少し目を細めてやるとミサキは慌て出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい。つい出来心で……非常に無礼な態度をしてしまい申し訳ありません!」
土下座でもしそうな勢いだなと思う。
「まぁ、いいけど。それより、春ちゃん先生と小野先生も今日様子がおかしかったんだけど」
ミサキはすぐに顔を上げ、話し出した。
「え、その二人も⁉︎実はうちのクラスの担当の先生も今日同じ授業やり出したんだよ」
「やっぱりか。なんか最近、様子がおかしい先生多いよな?」
「だよね。流石に若い先生たちまでこんな風になったら困るわよね」
そんな話をしている間に家の前に着いた。
じゃあまた明日というと、それぞれ家に入った。
明日の予定は。 ヨタ @yotabanasi
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