衝突

衝突

　大きな隕石みたいなのが何度も衝突を繰り返して今の地球ができたらしいよ。

　昨日兄がそんな事を言ってた。

　どうやったらゴツゴツした岩肌の隕石が衝突を繰り返したくらいでこんな平和な丸い惑星ができるのだろう？

　全く理解できない。

　あれこれと科学的な説明をされたとしても、そういう事じゃないんだよなぁ。

　よく社会の荒波に揉まれて丸くなる。みたいな言葉を聞いたりするけれど、それと同じくらい曖昧、あやふやな感じがする。

　実際、凶暴で毎日喧嘩ばかり、僕に対してもすぐ怒るし暴力を振るっていたあの兄が、社会人になった途端別人のようになってしまった。

　多分、世間でいう良い兄とやらに。

　でも僕は自分の感情を素直に吐き出して自由に生きる兄を尊敬していた。

　何度殴られても、そうやって思う通りに生きている兄が羨ましくて眩しかった。

　僕に出来ない事を平然とやってのける兄に憧れていた。

　僕が好きだった兄はもういない。

　惑星衝突に巻き込まれて死んでしまったのだ。

　ここにいるのはただの丸い平和でつまらない存在。

　僕にとっては苦痛でしかない存在。

　この世界と同じで必要無い存在だ。

　だからこの日、僕は別人になったつまらない兄に別れを告げて、このつまらない世界ともさよならするのだ。

　分かってる。それはきっと全部言い訳。

　他者と衝突を繰り返した僕は、丸くなるどころかぶつかったところがヘコんだり砕けたりしてトゲトゲだらけ、穴だらけになってしまった。

　もう本来の姿の半分も残ってないだろう。

　これ以上この平和で素敵な世界で優しい良き兄と過ごしていたら僕はバラバラの塵になってしまう。

　それは嫌だから。

　だからこのトゲで兄を刺した。

　穴が出来たらいい具合に削り取れて尖ったでしょう？

　その方が何倍も素敵だよ。

　そうやって怒鳴り、感情を顕にする兄を久しぶりに見た。

　少しはマシな兄に戻ってくれて嬉しい。

　これでもう思い残す事はない。

　僕は眼下に広がる美しくてくそったれな世界にこれから喧嘩を売る。

　少しは尖ってみせろよ。

　綺麗で美しいおまえなんか要らないんだよ。

　最後の力を振り絞って

　その日僕は地球と衝突した。

　願わくば

　この衝突で、綺麗事だらけの世界に少しでも穴があきますように。