喫茶ビードロへようこそ。

紫乃

第0話

 女がふと気になって足を止めると、そこには何の変哲もない古い家屋があった。

 他人にとっては何の変哲もない場所でも彼女にとっては変哲以外の何物でもない。

(あれから約2年……)

 女はそんなことを思いながら晴れ着姿を家屋に向かって広げて見せる。

「ねえ、見えてる?私、ちゃんと……」

 女の濡れた頬をそっと風が撫でる。

「遅刻するぞ」

 女の後ろから現れた男に手を取られる。彼女は男の顔を見てそっと頷く。

「じゃあ、またね」

 彼女は前を向いて共に歩き出した。女の心に隙間はもうなかった。

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