結局、筋書きなんて誰にも解らないはずだ


「……おおーい、お前ら台本の覚えは大丈夫なんかー?」


 不意に廊下から声がかかり、思わず両肩が跳ねた。

 それは向かいの彼女も同じで、びくりとしながら廊下を振り返った。

 少しいたずらっぽい顔をドアから見せてきたのは面倒見の良い先輩だった。


「何だか盛り上がってたとこ悪いなぁ」


 いたずらっぽいというか、もはやニヤニヤだ。


「とりあえず、そろそろ全体の併せやるから、集まってくれなー」

「はーい」「了解ですー」


 同時に応えると満足そうに先輩は踵を返していった。

 そして二人で何となく微笑み合って、ボクはこっそりと頬の熱さを感じた。


「行こっか」

「そだね」


 そう言い合って物を片付けつつ、横目で彼女を見やる。

 一瞬彼女もこっちを向き、しかし少しだけ目を見開いてすぐに移動の準備に戻った。

 可愛らしい頬は髪で隠れてこの角度からではよく見えない。


 何かが少しだけ、進んでいきそうな気がした。


 もしかすると、いずれそういう時が来てくれるかもしれない。


 その時は、恐らく……いや、絶対に、自分が考えられる最高の『台本』を準備して、彼女と向き合うんだ。

『或る台本』に書いたくらいに覚え込んで、でもその日その時のその場所に合わせて、少しだけ変更したりして、そのタイミングのベストの言葉を、気持ちを、想いを、贈りたい。


 答えが不確定なインプロヴィゼーションだとしても、それでいい。


 いや。だからこそ良い。


 人生は舞台で、人は皆その舞台で演じる役者だ。


 筋書きが見えない演劇のような人生で、良いのだ。


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確定性インプロ 御子柴 流歌 @ruka_mikoshiba

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