将来の夢を見つけたとき
私は作文を発表することが出来ませんでした。
作文を途中までは書いたのですが、結局学校へ行けず、捨ててしまいました。
私がもっとがんばってみんなと同じように学校に通っていれば、作文を発表して、そしてみんなと一緒に卒業できたと思います。
でも私にはそれが出来ませんでした。
私は六年生の二学期が始まるときに、この学校に転校してきました。
話すことが苦手だった私に、みんな親切に話しかけてくれました。
父の転勤が多く、転校を繰り返す内に、友達を作るのが怖くなり話をすることも苦手になりました。
でも転校はこれが最後と聞いていて、苦手なりに友達を作ろうと思っていました。
そんな転校をしてしばらくたったときでした。
近くの本屋さんで本を買おうとしていたとき、私が万引き犯扱いをされてしまったのです。
実際は近くの中学生がイタズラ目的で私の鞄の中に本を入れたのでした。
それで警察官まで来る大事になり、私は深いショックを受けたのを覚えています。
そして家から出るのがとても怖くなりました。
背後から誰かが来て襲われるのではと思うようになったのです。
そんなことはそれまで一度もなかったですし、大げさかと思われるかも知れませんが、本当に玄関から片足すら出せませんでした。
しばらくの間、つらさ、悲しさ、悔しさ、憤りを感じていました。
でもどうしようもなく、私は無力でした。
そんな私にクラスのみんなはとても優しく心配をしてくれました。
それまでの学校では、私は空気のような存在でした。友達を作らないようほとんど会話をしないようにしていたからです。
だから風邪を引いても先生が連絡をくれる程度でした。
でもこのクラスでは、みんながとても心配をしてくれました。
毎週末、竹山さんが配布物を届けてくれました。その中にみんなが手紙を入れていてくれたことが本当にうれしかった。
その手紙は今でも私の宝物で、つらいときなどに読み返しています。
その竹山さんが、私を家から出る手助けをしてくれました。
いつも私はほとんどの時間を家で過ごしました。テレビを見たり本を読んだり。本は家にある本を何度も読み返しました。
家から出ることが出来ない私は、本を読みたくても買いに行けませんでした。
そんなときです。
竹山さんが図書館へ誘ってくれたのです。
本が読めるうれしさもあったのですが、私みたいな引きこもりを外へ誘ってくれたことにとてもうれしく思いました。
そんな竹山さんとならと思うと、私は玄関から足を出すことが出来ました。
そんな時間もあっという間に過ぎ、卒業を前にまだ私は学校に行けずじまいでした。
卒業式の日に、「将来の夢を見つけたとき」というタイトルの作文を書いて、タイムカプセルに入れるということを聞きました。
そして成人式の後にみんな集まって、そのタイムカプセルを開けるというのです。
私は家で作文を書きました。
最後ぐらい学校に行こうと、がんばって書きました。
でもやはり、家から出ることが出来ませんでした。
竹山さんと図書館には行けるのに、どうしていけないのか、幼いながら苦しみました。
その作文はもうありません。
卒業式には出られませんでしたが、私は卒業しました。
本来であれば、みんなと同じ中学校に進学する予定でした。でも一人で家から出られない私を見て、父は会社に願い出てもう一度引っ越しをしてくれました。
少し離れた小さな田舎町でした。そこには私のように学校に通うのが難しい子供を手助けしてくれる人々がいました。
私はその人達のお世話になりながら、そこの中学校に通うようになりました。
見渡しても山、家の周りは田んぼや畑。
家から出ても庭を歩いている気分でした。
そんな雰囲気も手伝って、私は中学に通い、高校、そしてこの近くの大学まで通えるようになりました。
小学校を卒業してからの八年間、私はいろいろな人たちの助けを借りながら、同じような悩みを持つ同級生達と過ごしました。
だんだんと症状がよくなっていくのを感じながら、私は将来について考えるようになりました。
今までお世話になったみんなに恩返しをしたい、私みたいな社会に溶け込むのがつらい人を助けたいと思うようになりました。
そして今、その夢を叶えるために教育学部に通っています。
私も小学生の時に苦しんだので、悩める小学生を助けるには先生が一番だと思ったからです。
この夢を叶えた先は、一人でも多くの児童の助けになることが次の夢です。
私にはタイムカプセルに入れた作文はありません。だから今日、みんながタイムカプセルを開け作文をもう一度発表すると聞いて、私は思わず作文を書きました。
私はみんなとちゃんと話せているでしょうか。
私はちゃんとこの作文を読めているでしょうか。
みんなと会えることを本当に楽しみにしています。
同級生のみんなにありがとうを伝えたい。
同窓会にも私を誘ってくれて本当にありがとう。
そしてもう一度みんなと友達になれますように。
「将来の夢を見つけたとき」 温媹マユ @nurumayu
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