将来の夢を見つけたとき 竹山 葵

 私は本が好きです。マンガ、小説、雑誌までとにかく何でも読みます。最近ではWeb小説も読みます。

 読んでいるときが好きなんです。

 何かを読んでいるときは嫌なことから解放されます。余計なことを考えないからかも知れません。逆に何かを読まなければ余計なことを考えすぎて鬱になりそうです。

 だから将来は本に関わる仕事に就きたいと漠然と思っていました。


 週末は図書館に行くことがほとんどです。そこで宿題をして、終わると本を読んで過ごします。

 私には週末を過ごす友達はいませんでした。でも本を読んで過ごせるなら、友達がいなくてもいいとも思っていました。


 私には二学期の途中から始まった一つの仕事がありました。

 二学期のある日、クラスメイトの篠崎さんが急に学校に来なくなりました。

 篠崎さんは私と同じマンションに住んでいます。だから毎週金曜日に学校からの配布物を届けていました。


 私にとってそれはとても苦痛でした。私は篠崎さんがとても苦手だったからです。

 その理由はお互い無口で緊張してしまうからです。篠崎さんは大人しい人で、私と同じくほとんど話しません。だから学校の行き帰りにたまたま一緒になっても、今まで一度も話したことはありませんでした。


 だから届け物はいつも郵便受けに入れていました。

 ところがある日、その荷物が大きすぎて郵便受けに入りませんでした。

 直接荷物を渡すしかなく、恐る恐るインターフォンを鳴らしました。

 しばらくすると扉が少し開き、その隙間から篠崎さんが見えました。とてもやつれていて今までの篠崎さんとは違って見えました。私はドキッとしたことを覚えています。

 荷物を渡すと「ありがとう」と言ってくれました。なぜかそれがとてもうれしく思いました。


 そのとき、篠崎さんの手に一冊の本があることに気がつきました。「源氏物語」と書かれてる文庫本でした。

 私はつい「本、好きなの?」と聞いてしまいました。しばらくの沈黙、私は聞いたことをとても後悔しました。


 でも返ってきた小さな言葉は予想外でした。

「本を読むの好き」

 篠崎さんも本が好きだったのです。でも続きを読みたいけどお小遣いがないと言いました。そのとき篠崎さんの目は泳いでいました。続きが読みたいのは本当だと思いました。でも私は本を買えないのは別の理由があることを知っていました。

 それならと私は図書館に行けばと勧めると、篠崎さんは怖くて一人で家をでれないといいます。

 私は本が読めない篠崎さんをかわいそうだと思ってしまいました。思わす「一緒に図書館に行こ」と口から言葉が出ました。

 そのとき篠崎さんの頬を一筋の光が伝いました。


 それから毎週末、私と篠崎さんは図書館に行きました。勉強をして本を読む、ただそれだけで私たちの間にはほとんど会話がありません。

 でも本の話は別でした。読んだ本の感想を言い合ったり、おすすめの本を語ったり。

 たまに小さいころの話もしました。篠崎さんがピアノが得意だと言うことも知りました。

 そんな篠崎さんと一緒にいるととても落ち着きました。一緒にいる間は本を読んでいるのと同じぐらい、余計なことを考えませんでした。

 私たちは話さなくても心が通い合っているのかも知れないと感じています。


 篠崎さんは私と一緒に図書館には行ける様になりましたが、卒業を前にしても学校に行くことは出来ませんでした。

 学校に行こうとすると心が嫌がると言います。


 でもこの前の土曜日、篠崎さんから引っ越しをすると聞きました。

 地方の小さな中学校に通うらしいです。同じような悩みを持った生徒が通っていると聞きました。

 何より学校内に立派な図書館があるそうです。篠崎さんは学校の図書館に行くことが楽しみだと言っていました。


 だから、卒業すると簡単には篠崎さんと会えなくなると思います。

 そう思うと、私は篠崎さんが帰ってこられるところで待ちたいと思いました。

 そこは図書館だと思います。

 いつ帰ってきてくれるかわかりません。大人になってからかも知れません。

 だから私は図書館で、司書になって篠崎さんが帰ってくるのを待ちたいと思います。

 そして篠崎さんだけでなく、心がしんどいときに助けられる人にになりたいです。

 心がしんどいときは、間違ってるかも知れませんが、ゆっくりと読書をしながら心を治していけばいいと思っています。

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