将来の夢を見つけたとき 安村 英雄
僕の将来の夢は警察官になることです。僕は小さいときから警察官になりたいと思っていました。それは父が警察官だからでした。多分憧れと言うだけだったと思います。それ以上の理由はありませんでした。
でも今年になって心から警察官になりたいと思える出来事がありました。
駅前の書店へ行ったときのことです。個人の小さな書店で、客が少ないため本はいつもきれいでした。僕は発売されたばかりの漫画を手に取って、立ち読みをしながら買うかどうか悩んでいました。
そのときクラスメイトの篠崎さんも、この書店にやってきました。篠崎さんは僕に気付かず真っ直ぐ奥の方まで行ってしましました。僕の場所からは見えない場所です。
僕は特に気にすることもなく立ち読みを続けていると、今度は中学生ぐらいの人が何人か入ってきました。
静かな店内が少しざわついたのを覚えています。
でもしばらくすると中学生は店から出て行きました。
そのときです。店のおじさんが「鞄の中を見せてみろ」と怒鳴る声が聞こえました。僕はびっくりして声の方へ向かうと、篠崎さんに向かっておじさんが睨み付けていました。
僕はハッとして、少し遠くからその様子を見ていました。
どうも店のおじさんは篠崎さんが本を鞄の中に入れたと言っているようでした。
篠崎さんは必死に無実を主張していました。
僕は大人しく真面目な篠崎さんがそんなことをするはずがないと思いました。
だから僕は、いつもなら見て見ぬふりをすると思いますが、篠崎さんのところへ行っておじさんに声をかけました。
僕は篠崎さんが万引きなんかするような人ではないことを必死になって伝えました。心臓がバクバクとしていたのを今でも思い出します。
でもおじさんは篠崎さんの鞄の中から出てきた本を僕に見せ、あろうことか僕も共犯だと言いました。そして僕たちは奥の事務所に連れて行かれました。
篠崎さんは泣いていました。僕は篠崎さんを助けられなかったことと、犯人にされたことで頭が真っ白でした。
どれぐらい事務所に二人でいたのかわかりませんが、僕たちは何もしゃべりませんでした。
そのとき、事務所に二人の警察官とおじさんが来ました。とうとう僕は逮捕されるのだと本当に思いました。
おじさんはゆでだこのように顔を真っ赤にして篠崎さんと僕を罵倒しました。
でも警察官の二人はとても冷静だったのを覚えています。一緒に防犯カメラの画像を見ようと提案してくれました。
そのときはまだ、防犯カメラの映像を見ることの意味がわかりませんでした。
ゆでだこおじさんは「現行犯だ」とか「見ても仕方がない」など言って防犯カメラの映像を見る意味がないと怒鳴っていました。でも警察官はおじさんにちゃんと準備をさせていました。
僕は冷静に、警察官の威厳を感じました。
すぐに防犯カメラの映像が映し出されると、僕はそのときが来るのをドキドキとしながら待っていました。
カメラは四台あるようで、四カ所が同時に映し出されていました。
まず最初に僕が映りました。立ち読みをしていたのが丸わかりです。そして次に篠崎さんが映りました。篠崎さんも立ち読みをしていました。
そして中学生達がやってきました。みんなバラバラになって立ち読みを始めたかと思うと、少しずつ篠崎さんのところへ集まってきました。
みんな篠崎さんに背中を向けて立ったかと思うとすぐにみんな出て行きました。
その映像を見て警察官は「やりましたね」と何やら話をしていました。僕にはその映像を見ても、警察官の話に聞き耳を立てても何のことかわかりませんでした。
そして、警察官は「彼女は犯人ではありません」といい、もう一度映像を再生しました。
犯人は中学生達で、篠崎さんの鞄に店の本を入れたのでした。そして篠崎さんが本を鞄に入れたという嘘を店のおじさんに聞こえるように言って出ていたそうです。
僕は防犯カメラの映像で無実が証明されて本当に安心しました。そして警察官がとても冷静で僕たちを救ってくれたことに感謝しました。
でも一つだけ残念なことがあります。
この事件があってから篠崎さんの様子がおかしくなりました。そして何日かすると学校で見なくなりました。
もしこの事件がきっかけだとすると、僕は悔しくてたまりません。あのとき僕に何か出来ることがなかったのかと今でも思います。
僕にとって今まで警察官とは縁がなく、遠い存在だと思っていました。でも僕たちの暮らしにはとても大切で、守ってくれる存在だと感じました。
そのときはまだ何も思わなかったのですが、後からだんだんと警察官について興味を持ち始めました。
これがきっかけで、僕は警察官になりたいと思うようになりました。
将来警察官になって悲しむ人がいなくなるように、町を守りたいと思います。
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