Ep.00:通常運転
俺・
————会社の都合で海外を飛び回る両親。
————妹の
……列挙すればきりがない。
結果として俺は、とあるスキルを獲得していた。
「よし、できた」
目の前には、湯気を上げる玉子焼き。
我ながら、今日は上手く仕上がったと思う。
適度な大きさに切り分けて、他の食材とともにプレートに盛り付けた。
こうして我が家の食事を一手に担うようになってから、もう丸二年が経過する。
それは、妹との二人暮らしが今年で三年目に入ったということでもあって。
最初は失敗続きだった料理も、今となってはそんじょそこらの女子には負けないレベルだと自負している。
もっとも、一年の殆どを海外で過ごす両親に代わって、食事に限らずこの家のことはほぼ全て俺がやっているのだが……。
リビングにある、腰くらいの高さのテーブル。四人がけの広いスペースに、二人分の食事を運んでいく。
大方並べ終えた頃、結衣が部屋から出てきた。
「おにぃ……おはよぅ……」
何とも気の抜ける挨拶をしながら、頼りない足取りで席につく。
見れば、パジャマのボタンが外れかけていた。
「結衣、ボタン。ちゃんと閉めなきゃ」
「…………うん……」
お兄ちゃんだってね、可愛く育った妹に何も感じないわけじゃないんですよ!
そして、いつも通り髪はボサボサ。
せっかくの綺麗な黒髪がこれでは台無しなので、ブラシでとかしてやる。
「ふぁぁぁっ……」
「眠いのか」
「うん…………」
瞼を擦る姿は、まるで猫みたいだ。
兄妹の、貴重なコミュニケーションの時間。
特に結衣は部屋から出てこないので、俺としてはかなり大切にしている時間だったりする。
三分ほど、他愛のない話をしながら、髪をとかした。
「おにぃ…………そろそろ……いいよ」
ブラッシングを終えると、結衣はそそくさと部屋に戻っていく。
「朝食は?」
「…………あとで」
「学校は行かないの?」
「……今日は……いかない」
「ん」
"今日も"の間違いだろう、とは突っ込まないでおく。もはやこれが日常だ。
「甘やかしすぎかなぁ……」
もう何度自分に問うたかもわからない。でも、半年前は朝こうして出てきてくれることすら珍しかったと考えれば、これでもマシになったのだ。
まあ、ゆるふわな感じ(ただの干物ともいう)もたまらないんだけどね。
ただやはり、兄としては学校にちゃんと行ってほしいというのも本心で。
「どうしたもんかなあ」
こうして、いつも通りの朝が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます