Ep.02:Vチューバ―

 あくる日の昼休み。

 俺は自席で弁当をほおばりながら、スマホで動画を漁っていた。


「なに見てんの?」


 横から声をかけてきたのは、幼馴染の宮下香澄みやしたかすみ

 幼稚園時代からの付き合いになるので、かれこれ15年近くか。

 人見知りの結衣も、こいつには懐いている。


 そして俺の趣味――Vブイチューバーと呼ばれる、動画サイト”YHA-TUBEヤーチューブ”上の3Dモデルのバーチャルキャラクターに声を当てた動画作品を鑑賞すること――も、香澄にはバレている。

 まあ、学校で見ている時点で隠す気もないんだが。


「見る?」

「うん」


 スマホを傾けてやる。


豊岬とよさきカノン?」

「正解」


 豊岬カノンは、若者の間での認知度が高い有名なVチューバ―だ。


「でも、そのそんなに面白かったっけ?」

「いやー、最近はぶっちゃけ微妙」

「だよねー」

「ネタ切れなんじゃないかなぁ。実況系と変な”踊ってみた”動画しか上げなくなってきてる」


 人気Vチューバ―たちは、人気を落とさないため、そして更なる視聴者獲得のために動画をほぼ毎日、コンスタントに更新し続ける必要がある。


 毎日ネタを変えて……というのは大変な労力になるだろう。


「俺にはできないな……」


 だから、俺はもっぱら見る専・・・だ。


「誰か新しい娘いないかなぁ……」


 飽きてきたので、まだチェックしていない動画を漁る。

 日々誕生する新参Vチューバ―を探す――これが俺の日課”Vチューバ―探し”だ。

 最近では俺の趣味が結衣にうつったようで、家ではほぼ毎晩、一緒に見ている。


「結衣ちゃんとの話のネタ作り?」

「…………」


 恐ろしいことに俺の魂胆はこの幼馴染腐れ縁にはバレているらしい。


「やっぱりねー。過保護なお兄ちゃんだこと」

「せっかく共通の趣味ができたんだから、それを生かさない手はないだろ?」


 だってほら、これ以上部屋にこもりっきりになって、俺と会話もしてくれなくなったら……。泣くぞ?


「でもさ惠太、Vチューバ―好きが高じると余計部屋から出てこなくなるかもよ?」

「…………」


 それは思いもよらなかった……。


「でもほら、今のところ結衣と一緒に見るようにしてるから」

「そうなの? あんたたち兄妹ってほんと仲良いわね」

「まあでも、そもそもウチってPC一台しかないからな」

「それ、一緒に見ざるを得ない・・・・・・・・・・ってだけじゃない!」


 なんてこった。

 でも……


「スマホでも見られるのに、わざわざ居間で一緒に見てくれるって考えれば……」


 しかし、それも容赦なく叩っ切られる。


「ただ大きい画面で見たいってだけかもよ?」

「……なんか空しくなってきた」



「まあいいじゃん。この年頃だと”お兄ちゃんと一緒に見るくらいならひとりでスマホで見るよ”ってなるんだから、フツーは。榊原君なんか、この話聞いたらきっと発狂しちゃうよ?」


 たしかに。結衣みたいに、「おにぃ。ドーガ見よ?」って言ってくる妹なんてそうそういないだろう。


「まあ悠斗はな……」

「呼んだかぁ? 惠太」


 ちょうど俺の後ろの席でクラスメートと駄弁っていた悠斗が反応する。


「結局和奏ちゃんとはどうなったのかなって」

「思い出させないでくれ……」


 あー、これは相当ヘコんでるな。


「なんかあったの?」

「”気色悪い。話しかけないで。和奏の勝手じゃん”だってさ……」


 なるほど、金髪の件を問い詰めて返り討ちにあったらしい。


「ご愁傷様」

「ほんと、なんでだよ……。俺悪くないよなぁ! 俺何か間違ったこと言ってる?」

「必ずしも正論ぶつけりゃいいってもんでもないからねぇ」

「でもよぉ。俺は黒髪が……」


 もしかしてコイツ、単に反抗期の妹に疎んぜられているんじゃなくて、”黒髪フェチ”がバレたんじゃないだろうか。

 それで和奏ちゃんが金髪に染めたんだとしたら……。

 まあ、どちらにせよご愁傷様な現状は変わらないのだけれど。


 こういう話を聞いていると、俺は恵まれてるんだなぁとつくづく実感する。

 

 とりあえず、夜 結衣と一緒に見るときに話題に困らないように、新しいVチューバーを探すことにした。

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俺×妹 自堕らいふッ! RiOS(EIKOH) @rios-235

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