第4話 神様パソコン 神様が見ていなくても
毎日真面目に大学に行く俺。
しかし今日はさぼった。
明冶大学のホームページを開き、ミスコンの所を見ると以前まで不動の3位だった鈴木素子さんが1位になって藤川さんは2位に転落していたからだ。
大学にも行かず必死に『明冶大学ミスコンスレ38』を閲覧する俺。
鈴木さんが誹謗中傷をしていないかを探すが、鈴木さんを良く書いている人達のIDで青く光るのは1つも無かった。
このパソコンは色々できる、と神様は言っていた。
ネット投票で複垢があれば投票ホームの所に赤い点が出て、やった奴の名前、住所、電話番号や今までの悪事が出てくるそうだが鈴木さんはそれも無かった。
困った。
実力の1位か。
よし。
俺が藤川さんの為に複垢を作ってやろう。
何とこのパソコンは複垢というボタンがあり、それで簡単に数百個の複数アカウントが作れてしまうという恐ろしい仕様になっていた。
よし作るぞ。
みんなその位やるだろう。
そう思って複垢のボタンを押そうとする俺。
しかし。
しかしそれで良いのか。
本当に良いのか。
違反行為までしてなったミスは果たして本当に美しいのだろうか。
大学の花となれるのだろうか。
悩む俺。
やれ。
やってしまえ。
今の俺は神の力を手にしているんだ。
ミスコン発表の1週間前。
本選通過の結果発表がある。
明冶大学のホームを開けてミスコンのページを見る俺。
藤川さんは8位でミスコン本選であるファッションショーには出る事が出来なかった。
俺は結局複垢を作らなかった。
その後も豚女の誹謗中傷はやけに具体的で、藤川さんの周りからは人がだんだん離れていった。
そして順位はズルズル落ちていった。
日に日に藤川さんは暗くなっていった。
それと比例するように順位も落ちていき、ついには本選出場まで出来ない位に落ちていたのだった。
冬が近づく11月。
明冶大学の学園祭の日。
友達もいないくせに意地でも行こうとする俺。
「よう」
アパートを出て少し歩いたら神様が話しかけてきた。
「おい原因がわかったぞ」
俺の服の襟首を掴んで揺する。
しかし、
「俺は大学に行くんだ」
役に立たない神様を振り切ろうとする俺。
「何するんだよぅ」
「うるさい!」
神様と揉める罰当たりな俺。
「何をしているの?」
声のする方向を見る俺。
そこにはそんな俺達を見て少し楽しそうな藤川さんがいた。
その姿を見て、
ごめんなさい
ごめんなさい
「ごめんなさい」
俺は泣いていた。
「どっ、どうしたの?」
驚く藤川さん。
「俺は藤川さんを勝たせる事が出来たのにそれをしませんでした」
ごめんなさい
泣き続ける俺。
少し間があったが、
「私に実力が無かっただけだよ」
そう言って笑う藤川さん。
「違う!」
大きな声で否定する俺。
「複垢を作って投票すれば藤川さんは勝てました。それに俺が無能だから明冶大学ミスコンスレで暴れているコテハン豚女を特定できませんでした」 少し息をのむ音がした。
そしてその後衝撃的な言葉が藤川さんの口から紡ぎ出された。
「豚女の書き込みは本当の事だよ」
「そんな訳ないじゃないですか」
泣きながら否定する俺に、
「だってあれ、私が書いたんだもの」
ビックリする様な言葉を被せてきた。
「えっ?」
驚きすぎて泣き止む俺。
「だから、豚女は私なの」
楽しそうに笑いながら言う藤川さん。
「何でそんな事を」
「素の自分で勝負しなくちゃ意味ないでしょ。嘘ついたってそんなのすぐにばれちゃうし。だからみんなにも本当の事を知ってほしかったの」
清々しい顔で言うその姿は本当に美しかった。
「私、豚女の書き込みのせいで友達減っちゃったんだ。今日学園祭なのに一緒に行く人もいないの。この子にあなたが近くに住んでいる事を聞いて来てしまったんだけど迷惑でした?」
神様を見る藤川さん。
「いやとんでもない」
慌てて否定をする俺。
「じゃあ、私と学園祭、一緒に行きませんか」
「よっ喜んで!!」
夢じゃなかろうか。
ふと横を見ると良かったな、という風に神様が笑っていた。
空は11月だというのに透き通るような青さを見せていた。
「要するに他人の誹謗中傷じゃなかったから青い点が出なかったんだ」
後日神様が教えてくれた。
そうかなるほどねぇ。
「それでお前今日はどこへ行くんだ?」
ニヤニヤしながら神様が尋ねてきたから、
「それを聞くのは野暮ですよ」
とだけ答えた。
雪が降りそうな12月24日。
俺にとって初めて素敵な日となっていた。
神様パソコン 今村駿一 @imamuraexpress8076j
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