第3話 神様パソコン 複垢を撃退するが……

『売りかよ、ひでーな』

『藤川はやっているよ絶対』


 よし参加メンバーの名前リストにも載っているな。

 まずはこいつらからだ。


 ゴッドジャスティス『おい吉田博と寺沢幸男。お前ら早く複垢消せよ』


 俺はコテをつける事にした。

 そうすれば俺が出てきただけで今後抑止力になると考えたからだ。

 まぁこのパソコンが本当に書き込んだ奴の名前がわかるパソコンなら、という前提があるが。


『何勝手に知らない奴の名前書いてんだ』

『そうだぞ。関係ない人の名前を書くな』


 しらを切る複垢犯達。


 ゴッドジャスティス『よーし吉田博と寺沢幸男。消さないんだったら複垢を話し合っている時の動画を大学に送るぞ。それが嫌だったら今日中に消せ』


 さぁどう出るかなぁ。


『吉田って明奈にベタぼれだったよな』

『寺沢って相山に何回振られてんだ』

『こいつらはやってそうだわ』


 何だか可愛そうな奴らである。

 しかし俺は追及の手は緩めない。

 他にも書き込んでいる奴がいる。


 ゴッドジャスティス『おい三田、お前法学部の様だな。これはどういった罪になるんだ』


 ゴッドジャスティス『渡辺、お前は複垢消さないの?』


『だから俺は渡辺じゃないって』


 ゴッドジャスティス『渡辺守、次は住所公開だけどいいの?』


 次々と藤川さんを誹謗中傷する奴らの苗字を書き込んでいく。

 しつこく書き込む奴にはフルネーム、それでもダメなら住所やそいつがやってきた悪事を画像付きで公開した。

 なぜかこのパソコンにはそういった物が入っていた。

 何でそんな機能がついているのかはもう考えていなかった。

 ただただ俺は藤川さんを1位にしたかった。



 次の日ミスコンの順位を見る。

 相山さんは圏外まで落ち、藤川さんが1位になっていた。

 俺は満足してベランダに出る。

 秋風がやけに心地良い。

 そしてパソコンを見る。

(このパソコンは凄い物なんだなぁ)

 やけに感心してしまった俺。

 そして『明冶大学ミスコンスレ33』を開く。

 1日で随分書き込みがあったなぁ。

 感心しながら見る。

 

『昨日の絶対藤川の取り巻きだよ。ブスのくせに』

 

 藤川さんの誹謗中傷を書き込むのはもう相山さんだけだった。

 安心する俺。

 いや、もう1人いた。


 豚女『藤川の売りは本当。ブスのくせに』

 豚女『貧乏も本当。中学の頃からバイト必死でみじめ』


 何だこいつは。

 ご丁寧に固定ハンドルネームまでつけて。

 よし成敗しよう。

 と思ったら青い点が出ていなかった。

 今まで誹謗中傷している奴のIDには必ず全て青い点が付いていたのに。

 おかしい。

 何でこんな酷い誹謗中傷の書き込みなのに出ないんだ。



 納得がいかないが学業をしっかりやる俺。

 今日も彼女も友達もいない大学に行く。

 校門の近くにベンチがあるのだがそこに人だかりが出来ていた。

「凄い藤川さん」

「1位おめでとう」

 たくさんの人達に囲まれた真ん中には藤川さんがいた。

 少し元気が無い様に見える。

 でも俺に気づくと小さく手を振ってくれた。

 俺も小さく手を振り返す。

 こんなボッチにも気を使ってくれる素敵な藤川さんこそミスコン1位にふさわしい。

 なのにあの誹謗中傷している豚女とやらは何者なんだ。

 許せん。

 絶対に許せん。


 今日も講義が終わる。

 誰も一緒に変える人がいないから1人で帰る俺。

 無理して良い学校何て行くんじゃなかったなぁ。

 後悔しながら今日はバイトも無いのでトボトボと家路につく。

「よう」

 いきなり声をかけられその方向を見ると、この前の金髪ツインテールがこちらを笑いながら見ていた。

「凄く良いパソコンだろ。私が作ったんだ」

 自慢げに言う金髪ツインテール。

 こいつの自作パソコンなのかあれは。

 というかノートパソコンなんて自作できるのだろうか?

 いやこの際それはどうでもいい。

「なぁこのパソコン、誹謗中傷している奴の名前と住所が表示されるんだろ?」

 鞄から取り出し思いきって聞いてみると、

「うんそうだよ」

 何でもない様に答えが返ってきた。

 そして俺に近づく金髪ツインテール。

「私は神様だからね」

 何だ変な奴なのか。

「それ神様のパソコンなの。最近ネットで悪口書く奴多いでしょ。それって地獄でも把握難しいのよ。だから私が作った」

 自信満々に言う神様。

 こんなちびっこが神様ねぇ。

「誹謗中傷と今までの悪事をリンクさせたの。そうすれば地獄の裁きもやり易いし」

 楽しそうに笑いながら言う。

「じゃあ俺みたいな一般人にそんな事ばらしちゃやばいんじゃない?」

 一応聞いてみた。

「お前には神様全員ちょっと悪い事をしたと思っているみたいだよ」

 申し訳なさそうに言う神様。

 どういう事だ?

「モテなくしすぎたって。だからそれ使ってモテる様にしても良いって」

 そうか。

 俺は神様が同情するレベルでモテないのか。

 少し落ち込む。

「それはあの藤川って子も同じなの」

 どういう事だ?

「藤川さんはモテまくりだろ?」

 問いかける俺。

「いや何か大神様が貧乏にしすぎたって。だから私がこのパソコン使ってミスコン1位にしてあげる、って言ったのにそんな違反はダメだって。不器用だよねあの人。このパソコンには色々な機能がついているからそれ位簡単なのに」

 不満げに言う神様。

「という訳で菅田はそのパソコン使って藤川さんを1位にしてあげな。凄く複数アカウント作り易くなっているからそれ。それで1位になったらお前の手柄にして良いからさ。そしたら女友達位紹介してもらえるだろ。よし、今から色々機能を教えてやるよ」

 俺の肩をポンポン叩く神様。

 もうこいつが神様かどうかはどうでも良い。

 何で俺の名前を知っているかもどうでも良い。

「なぁコイツの名前が出てこないんだけど」

 俺の中で1番どうでもよくない事を聞いてみた。

 ノートパソコンを開く俺。

 この豚女とかいうコテハン。

 こいつだけは許す訳にはいかない。

「ん~?」

 目を見開き画面を凝視する神様。

「確かにこれはおかしいなぁ。他人の誹謗中傷を書いたら確実に青い点が出る様に作ったんだけどなぁ」

「故障の可能性は?」

「絶対無い!」

 言い切る神様。

「でも現にこうなんだから」

 俺がそう言うと、

「一応調べてみるわ。しばらくこれ使っていて。あとお前の壊れたパソコンは修理暫くかかるから」

 俺からパソコンをひったくり、代わりのパソコンを渡す神様。

「じゃあ」

 そう言って帰ってしまった。

 無事特定できれば良いのだけれども。

 そう思い空を見る俺。

 まだ夕方前なのに少しだけ暗かった。


 家に帰り早速さっき神様から借りたパソコンで『明冶大学ミスコンスレ36』という板を見る。


 豚女『藤川の売り、体はやっていないけど胸もませた位はやった』

 豚女『藤川の家、6畳2間の公団に8人住み。これで私立に行く藤川』


 くそっ、今日も書き込んでやがるなこの豚女とか言う奴。

 しかもやけに具体的じゃねーか。

 IDの横を見るが相変わらず青い点が出ない。

 何でだ。

 何でなんだ。

 俺は悔しくて仕方が無かった。



 悔しいけどちゃんと大学に行き続ける俺。

「藤川ちゃーん。あんまり気にしない方が良いよ」

 その声につられて声のした方向を見ると俯いている藤川さんがいた。

「別に気にしていないから。ありがとう」

 無理に明るい声を出す藤川さん。

 昨日の書き込みを見た事は容易に想像できた。

 しかし何だか今日は取り巻きが少ない。

 俺の視線に気づいた藤川さん。

 無理に明るく笑い俺に頭を下げるとみんなとどこかへ向けて歩き出した。

 あの素敵な笑顔を曇らせた奴が憎い。

 何とか。

 何とかならない物なのか。

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