バイオレンス・マーダーゾーン 

低迷アクション

バイオレンス・マーダーゾーン 

バイオレンス・マーダーゾーン


こちらの蹴りで勢いよく弾けとんだ男に近づき、その血だらけの顔面に追加の拳を

2、3発繰り返し叩き込む。相手の下あごが砕け、残骸の中から、舌も覗くが気にしねぇ。


「くそっ、何をっ!」


とばかりに駆け寄ってくる男の仲間達が懐から抜こうとするのは飛び道具。

だが、遅い。遅すぎだ。俺こと“溶接”は大きく跳躍し、上着の中から黒い

ヤッパ(拳銃)が覗いた一人目に飛び乗り、強力な膝蹴りを叩き込む。鼻が頭蓋にめり込み、

そのまま脳髄まで達するように頭を掴み、食い込ますように押し込んでいく。悲鳴を上げる

時間は与えてやらない。すぐ隣で響く銃声に本能を活かして、のけぞれば、眼前すれすれを

銃弾が掠めた。


「避けた?」


驚きの声が上がった方角へ、咆哮と共に飛びかかる。最後の相手が持ってる拳銃は恐らく

チェコ製、もしくは北で採用らしい自動拳銃CZ75、装弾数は13、15?どっちでもいい!荒廃した地元じゃぁ、まぁまぁの武器と言えるだろう。2発目が発射しそうな銃の台尻を掴み、そのまま相手の横っ面に突き付ける。


「止せ、やめ…」


引き金を鳴らした機械音と乾いた銃声、外国籍?彫刻みたいに整った顔が歪み(文字通りだ)続けてスイカの中身をぶちまけ!みたいに破裂する。装填されている9ミリ弾でこんなになる筈ぁねぇ。特殊な弾頭。コップキラー?(防弾チョッキ貫通用)いや、違う。恐らく

爆裂徹甲弾。俺を殺すため?即座に否定、飛び散った血と内容物のおかげで、血みどろ

真っ赤に染まる視界…マスクのミラー部分を拭った世界に映るのは白いワンピの…

ワンピ?いや、こんな掃きだめに鶴、いや“萌え”はいねぇ、いる筈がない。改めて前方を見る。死体3匹とゴミで汚れた路地裏の入口に佇む少女。どうやら追っかけの目当ては

あの子のようだ。漫画みたいな容姿は今じゃ、当たり前。そんな奴等が溢れかえってる昨今。最高に狂った世界観到来ってのは、重々承知。問題なのは…


その真っ直ぐな目。澄んだ、澄み澄みに澄み切った(この表現はしつこいが、事実だ。)

お眼目が俺を捉える。この体躯に、溶接マスクなんて場違い被った異様さにビックリか?

溶接野郎視点から言わせてもらえば、君みたいな子がいるのも結構異常だよ?と言いたい。

そんな風に考える意思が伝わったのか?相手は少し怯えながらも、それでも凛とした感じを崩さず、姿勢を正し、少し興奮気味に喋った。


「やりすぎを感じるけど、助けてくれた事には、お礼を言いたい…あ、ありがとう。」


素直に「ありがとう」一言でエエだろ!と思うが、一応感謝はしてくれているのだろうか?

こちらとしては、ちょっと肩がぶつかった相手を殴り殺しただけだ。少女は素早く身を翻し、表の通りに消えていく。そのふわっとした(可憐なモノを見た時と言えば納得して頂けるだろうか…)後ろ姿を見つめ、頭の何処かに疼くものを感じた…


 

隠れ家と言っても廃ビルの一室を利用しているだけだ。夜に紛れて辿り着いた

俺は、血に泥、肉片やらで汚れて、今や真っ黒になったコンビニ格安雨ガッパを脱ぎ捨て、

顔面に張り付いた溶接マスクを無理やり剥がす。穴だらけでスプリングが露出した

ソファーに深く座るが、眠気も疲れも来ない。いつになく興奮している。


拾ったガスライターと懐から紙切れを取り出し、火をつけた。そのまま汚れたバスタブに

放り込むと、数秒で燃え上がり、辺りが明るくなる。動物性樹脂に脂肪から出る油を

しっかり活用。解体した肉が何かは?聞かないでくれ。ただ、ワンちゃんや猫ちゃんみたいな、四足大好きな俺としては、外に出れば何処にでも蠢く二足歩行のおかげで燃料に事欠かないというだけだ。割れた窓ガラスから冬の寒さが入ってくる。


大規模な都市開発に失敗した我が地元では、いたるところに潰れた工場に公共施設が

点在している。正に“荒廃した地元”だ。俺みたいな異常者も、さ迷える空間が増えていくのがとても嬉しい。活動範囲が広がるってもんときている。しかし、それにしてもだ。

あの子…どうして追われていた?今の世の中、“狂うJAPAN”とか何とか、漫画みたいな能力連中が闊歩してる。俺としては非常に羨ましい世界になった筈…


特にこんな掃き溜めみたいな町じゃ、奇跡の天使くらいの扱いを受けてもいいだろう。

それが何故?自身を高揚させていった疑問が“イライラ”に変わっていく。悪い癖は重々

理解だが、どうしようもない。改善する事を拒み、それ全てを捨て去って、今の生活を

手に入れた事を噛み締めるように思い出す。情報が必要だ。それもたくさん。

俺は腰を浮かし、さっき殺した奴の衣服から財布を抜き出す。日本円で5万円ほど…

これだけあれば充分だ。俺は“怪物用”ではなく“外出用”の衣服を選び、袖を通した…



 「よくわからんが、厄介ですよ?いやぁ~申し訳ない。」


街外れ…俺の住処からワリと近い居酒屋“フロムダスク・ティルドーン”には今日も

一癖も、ふた癖もある客がたむろしていた。その一人、なにかと事情通の“シバ”と俺は

酒を酌み交わす。この“申し訳ない”が口癖の男?女?は、とても口数の少ない俺から、

こちらの聞きたい事を何となく察してくれるので、かなり重宝する。そいつが“厄介”と

言うのは、珍しい。


「昨今の非現実要素現実化のご時世は存じていると思いますがね?恐らく問題は山の

ように、てか山積みっすよ。アタシ等の界隈でもですね。問題は彼等、彼女達の能力です。」


「?(心底疑問という顔をしてみせる。)」


「空を飛ぶ事が出来る。相手の心を読める。そんな、まるで漫画みたいな能力がありまし

たら、一般の人は研究したいでしょう?商売に繋げたいでしょう?自分達もそれがしたい。なりたい。金を儲けたい。欲望の温床でさぁっ。困ったもんです。どうして、それを愛でる、可愛い、カッコいいと思うだけで満足しないのか…まぁ、それが人間ですよね?いやぁ~

申し訳ない。」


俺はゆっくり頷く。自身に覚えがありすぎる。だから、その気持ちはよくわかるのだ。

俺の反応に満足したシバが言葉と一緒に携帯の端末を操作し、画像を表示させる。先程の

少女が映っている。周りには軍用機や、巨大な銃砲が並んでいる。コイツは凄い…素性云々はわからないが、思わず覚えた興奮に頭の疼きが加速する。抑えるように手を掴んで、怖気と震えをどうにか鎮め、シバの説明が始まるのを待つ。


「この子ですよね?もう、情報が出回ってます。捕まりましたよ。相手は最悪!

無国籍ゲリラ集団の“ヘルマスク”海外で暴れ回っていたらしいんですが、半年前に行われた大規模な掃討作戦でほぼ壊滅。残党が流れてきたみたいです。以前に北陸辺りでもありましたが、海外のマフィアが土地買い占めを強行しちまって、逆らう奴には暴力も

辞さない。警察も対応不能みたいな事がありましたが、あれよりヒドイです。連中全員が

自動小銃で武装し、携帯ミサイルまであるって言うんですから。拳銃も満足に撃てない

パトワンワン共には、手があまりまさぁ。いやぁ申し訳ない。」


最後は苦笑いで、締めくくるシバに次を促すように首を振る。相手の顔に残酷な笑みが

浮かぶ。こちらの意図はしっかり伝わったな。


「街はずれにある埠頭の倉庫街。そこの12番に連中はいます。彼女が捕まったらしいのは、3時間前。あ、見たのは呼び込みの看板持ちです。あの女の子、今頃どうなっている

事やら…」


最後まで言わせず、情報量と飲み代込みで、5万円をテーブルに放りだす。少なすぎるかもしれないが、これが手持ちの全てだ。シバが素早く懐にしまうのを確認し、外に向かう。

入口付近で飲んでいた客達の会話が耳に入る(覆面と軍帽面といった、この町にあっていると言ったら、あっていそうな連中だ。)


「聞きましたか?軍曹(軍帽付きのあだ名のようだ。)例の“溶接マン”がまた出ましたよ?」

「噂になってるスラッシャー野郎か?手あたり次第に殺すってやつ。だが、俺達は警察じゃねぇ。好きにやらせておけよ。」

「無差別に殺されるんじゃぁ、敵わないじゃないすか?困ったもんですよ。」

「そりゃ、問題だな。奴の目的は何だ?」

「さぁ…」


感慨深げに首を揺らす二人。勿論あるさ。“溶接マン”にだって確かな目的が…



 隠れ家に戻り、汚れたカッパと錆びた溶接工のマスクを身につける。これらは、たまたま

廃材置き場で拾った。以来、お気に入りだ。いつもなら目的地にまで直行だが、

今日は得物が欲しい。相手はミサイルも持っているし、殺した男達は衝動的に始末したせいで、確認はできなかったが、動きが常人とは違う気がした。ならば得物があるに越した事はない。廃ビルを抜け、闇濃き町にさ迷い出る。時刻は深夜だ。通りを歩く者はいない。


典型的な田舎に少し残念な気がするが、夜間巡回の警官にでも会えば、警棒に短銃が手に

入るだろう。そう思い、クリーピートロール(不気味な徘徊者?本にはそう書いてあった)よろしく歩き回る俺の耳に、微かな悲鳴が聞こえてきた。続けて勢いよく濡れ雑巾を床に

叩きつけるような音。ここまでなら、普段の俺は気にしない。暴行に窃盗、子悪党の犯罪は

狂える町を豊かに染め上げる。病んだ世の中を象徴してくれるし、


(イカレてんのは俺だけじゃねぇ)


っていう言い訳をさせてくれるからだ。そのまま歩き過ぎようとする俺に、今度は小さな

よりにもよって!!こんな時に!!子供の悲鳴が重なった。足が止まる。やっぱり

止まりやがる。


(馬鹿っ、糞っ、糞っ、止まるな!止まんな!!この糞足。)


そう思ってるのに、俺の足は、いつの間にか安出のボロアパート群の一つである玄関前に

立ち、ドアを蹴り倒していた。ズカズカ音を響かせて前に進む。狭まった廊下の奥から、音と女の悲鳴。微かな声が囀りのように響く。勿論、男の荒い息使いもだ。理解しろ?これは

行為だ。そーゆう行為だろうが。男女の濡れ場に突っ込む殺人鬼なんて、ただの出刃亀。

虚しいにも程がある。だが、足の進みが止まらない。わかっているのだ。本能がそうしろと…どうやら何が起こっているのかを知っているらしい。最悪な事に…


廊下の入口から男の子が飛び出してくる。服装は普通だが、頬が腫れ上がっている。虐待?ネグレクトに育児放棄、幼児趣味、嫌な響きが頭を埋めいて渦巻く。子供は俺の姿に怯えた。否定はしないし、自覚もしている。いつもの事だ。そっと手を出す。部屋の奥を指さす。

震えるように頷く。俺の姿も怖いが、もっと怖いモノが中にいるのだろう。これもお決まりのパターンだ。


「助けて…ねーちゃんが…」


絞り出すように呟く彼の傍を通り抜ける。「親は?」なんてもんは聞かない。様々な事情に市も国もお隣さんもノータッチだ。こんな無垢な奴らが乾燥肉みたいになって発見される頃、マスコミも連中も口をそろえてこう言う。


「要請もなかった。助けは必要さなそうに見えた。関心がなかった。」


どうでもいい。正義を講釈ぶる気持ちなんて、さらさらねぇんだ。今、俺は得物が欲しい。

そのために坊やの言う事を聞く。それだけだし、それでいいじゃねぇか?廊下横の

ドアを静かに開けた。狭い室内には不釣り合いなくらい、でかいベット。

客をとるようにって訳か。その前には、下着姿で床に転がる若い女性、顔や剥き出しの肌が赤く腫れ上がっている。ピクリとも動かない。死んでいるのか?不安になる俺だが、

問題はその前に立っているスーツ姿の男だ。顔が似てない事に安心する。血縁じゃないよな?酒瓶とベルトを持って立った野郎は、赤ら顔の顔と、ニヤニヤ笑いをラリッたように滲ませ、こちらに振り向く。その両の目を、寸断の余裕もなくちぎりつぶした。


男の悲鳴は必要ない。余った手を口中に差し入れ、中で思いっきり“パー”の形に開く。

顔のあちこちから俺の尖った爪と手が飛び出した。絶命した野郎のポケットをまさぐり、

厚めな財布を出す。死体を廊下に引きずり出した後に、女を抱き起こした。胸が動いているのを確認し、安心する。後ろから、少年が女性に駆け寄る。役目は終わった。後は

彼等次第ってところか。財布に詰まった十数枚の紙幣と、男の携帯を少年に放ると、死体を引き摺り、外に出る。死体は燃料にも食い…色々使えようがあるってもんだ。適当な河原で捨てて置いて、後で回収する事にしよう。チラッと見えた、小さめな厨房から包丁を一本

拝借するのも忘れない。


再びの闇へ躍り出た俺に、後ろから声がかかる。駄目だ。止せ。今は止めろ。マジで。


「あの、マスクのおじさん…ありがとう。」


手を振る少年に振り向かない。頭が疼く。不味い、兆候が出始めている…


 

12番と書かれた倉庫前に投げ飛ばした兵隊の首を皮切りに、飛び出してきた他の兵隊達が手にした突撃銃(SCARにACR、ⅯG36、種類様々だが、どれも上出来な武器ばかりだ。)を一斉に発砲してくる。俺は飛び跳ねるように銃弾の雨をかいくぐり、無人の倉庫が立ち並ぶ通りに滑り込む。怒号を上げて、走ってくる男達は全部で12人。倉庫の中には何人が残っているか?今はいい。増援はないだろう。土地柄、あれだけの武器を揃えている事を考慮すれば、自身満々で俺を殺しにくる。まずは、外の奴等を全部だ。


「見たか?あの野郎、溶接の面を被ってたぞ?」


二人連れの一人に、どっちもガスマスク面だが…勢いよく包丁を放る。顔面に深々と刺さったの確認し、片方が驚く間に距離を詰める。だが、敵もプロ。こちらに銃を向けるのも

忘れていない。銃弾が発射される瞬間、突き出した片手を、銃に勢いよくぶつけた。


「グェヘッ」


泥の詰まった袋を、揺らすような音を出し、男が呻く。自身の銃の後ストックが、

防弾アーマーを貫通して、それよりはるかに柔らかい腹部を貫いたのだ。崩れ落ちた死体のおかげで後方に迫った2名が丸見えになる。片方は、土管のような筒、追尾式ランチャー

“ジャベリン”をこちらに向けていた。崩れ落ちた死体の頭から包丁を引き抜き、

ジャベリン持ちに放る。正確に頭を貫かれた男はよろめき、隣の兵士に向けてミサイルを

発射した。相手の体を綺麗に粉砕し、暗闇に赤い臓物を乱舞させてもなお、飛翔を続ける

硬質の凶器は肢体一つでは満足できない様子だ。放物線を描き、次の得物を探す。固定照準で目標を選定してないでのあれば、最も放出熱が多いモノを襲うう。そう考えてから、

数秒後に大爆発が起こり、悲鳴と怒声がこだまする。どれくらいの敵が吹っ飛んだかは

知らないが、俺は近場の倉庫のドアを開け、中に侵入した。目に付いた固定消火栓を無理

やりひっぺがす。長い消化ホースの後ろにあった緊急用の手斧を引っ張り出し、確かな重みを肌に感じさせる。さぁて、お次は?相手を待つまでもなく、前方のガラスと壁に

サッカーボールくらいの穴がいくつも空く。身を屈めた俺の耳に、鈍い機械音と掃除機の

振動音が重なった銃声が連続した。今度は12.7ミリ機関砲か?航空機だって落とせるぞ?機銃弾が倉庫内をメチャクチャに壊した後で、ノッソリと立ち上がり、穴だらけの壁に

近づく。


「こんだけぶち込めば、くたばったろう?」

「余計な事を喋るな。行くぞ。」


二人の会話と足音の数から4人だ。もっと近づけ。もっと、もっとだ。ゆっくりと壁づたいを移動する。あと少し、あともう少し。兵隊達の吐息が壁の穴越しに伝わる。端っこの一人の前まで移動し、斧を壁に突き刺し、横伝いを一気に走り抜ける。悲鳴と肉がぶつかる衝撃を、手元に4回感じた所で、壁をぶち破る。横には、綺麗に体が真っ二つになった肉塊達。

次は12.7ミリ!と前をむいた所で、マスクの正面を強いライトが照らす。


「化け物がぁっ!」


12.7ミリ付きテニクカル(機銃付き車輌)が前方に鎮座している。相手が引き金を引く前に、投げつけた斧がライトごと、機銃手の上半分を切り裂く。


「ギャアアアアアッ」


悲鳴が長くは続かない。車輌を後にし、ゆっくり倉庫前に歩いていくと、臓物をぶちまけた

3人の死にかけが、地べたで蠢いている。先程の爆発の犠牲者だ。斧はもうない。近くの

一人に屈みこむ。砕けたアーマーからあふれ出た臓物に手を突っ込み、中身を引っ張り出す。魚の鱗をさばくぷつぶつ音が豚肉を引き千切るブチブチ音に変わっていく。


「グエェェェェッ、ェェェ…」


か細くなる声が、やがて途絶える。隣の一人が這いずり、後方に下がる。見れば、片足が

千切れたようだ。白と赤が混ざった骨が見え隠れしている。


「止せっ、やめろ、やめあああああああ」


あらん限りの絶叫を響かせるのは、勿論だろう。俺が足の中身に手を突っ込み、骨を

引き摺りだしているからだ。


「があああああっ、あがっ、あがぁっ!!げぎゃぐろぉぉっ」


麻酔無しじゃ、キツいよな?もう少しで骨が全部引っこ抜ける所で、男が舌を噛み切った。

出血多量と白目で転がる奴に、血だらけの骨を投げてやる。残るは一人。両手を血に染めた俺は、静かに近づいていった…



 「そのマスクは入団希望か?」


ガスマスクのリーダー格か?倉庫に入ると赤いマスクを付けた男と、件の少女が俺を出迎えた。彼女の体は巨大な砲台に固定され、トリガー部分らしき所に手を握らされ、革バンドで結びつけられている。何も答えない俺に飽きたのか。リーダー格が沈黙を破った。


「外の同志を全員片付けた腕っぷしは褒めてやろう。溶接マスクの怪人君。だが、これには敵わん。」


少女と武器を指さす。こちらを向いた砲塔は形状からいって、実体弾を撃つものではない。あれは…


「魔道式レールガン(電磁砲)それも強力なね!航空機だって、戦車だって、これを避ける事は出来ない。正に最強、我々もコイツの仲間達とこの兵器にやられた。どちらも手に入れるのに苦労した。そうだろう?なあっ!」


叫び、手に持った装置を押す。


「あああああ~」


少女の体が痙攣し、悲鳴を上げる。何処かに電極をしこまれ、拒否すれば手痛い仕置きが

待っているという事か…という事は、あの兵器は彼女達しか撃てない?撃ち手として部品として、使用されるのか?…シバの言葉が蘇る。“まるで漫画みたいな能力”…

人々の欲望の対象として、利用されるしかない存在。俺も渇望していたものの一人だ…

目の前の光景に、頭の神経の疼きが重なる。不味い、もう捨てた筈だ。この感情は…


「とっとと、撃て。奴を粉みじんにしてやれ。」


リーダー格がスイッチを押し続ける。少女の悲鳴が続き、電圧の強さに握りしめた片方の手には、血が滲んでいる。だが、彼女は引き金を押さない。現に俺は吹っ飛んでいない。ああ、不味い。クソッ、撃ってくれた方が楽になるっていうのに。あの子も、俺も!


「早く、撃たないと電圧を上げるぞ。いいのか?」


喋る傍から、もう電圧を上げたらしく、少女の首が仰け反って、後ろを向く。

撃ってしまう前に自分が死んでしまうぞ。いいのか?それでいいのかよ。感情は、あの子に伝わらないとわかっていても、そう思ってしまう。やがて、限界に達した少女が絞り出す

ように叫ぶ。


「に、逃げて・・・いやあああああ」


(…本当にいい奴等だ…)


思考と刹那、砲塔が青く光り、目に視認できない速さの電磁砲弾が放たれる。だが、見えた。

俺には見える。あの子が諦めなかったからだ。砲撃をかわし、生き残った自身に

リーダー格の目が、マスク越しでもわかる目が驚愕に開かれる。素早く近づき、装置を持った手をへし折る。力任せにすぎたようで、骨がバグって飛び出した。


「うわああああ」


今度はコイツの悲鳴を聞かせてもらう番だ。俺は心地よさを込めた視線をそのまま、

後方で気絶している少女に向ける。


頭の疼きと共に、自身の記憶が蘇ってきた。残酷と地獄を絵に描いたような人生だった…


リーダー格の足を蹴り折る。床に転がり、投げ出された手を踵で踏み砕く。手のひらが破裂し、指3本が飛び散った。


「うがあああ、止せ、止せぇ!」


自分の性分もよく理解していたし、力を破壊以外に行使する事は不可能だと知っていた…


わめく男の胸に片足を乗せ、全体重をかける。骨数本が胸部から飛び出す。


だが、望んだ事はある。テレビや漫画で活躍するヒーローの姿に。自分を重ねてみたり、

憧れていた時だって勿論あった。だが、無理だ。不可能だという事には気づいているんだ。

連中の強い意思、担うべきものなんて、俺にはわからない。考える努力もしない。それだけの気概もない癖に、ひとたび、それを見れば頭が求めて疼く。…


肺が破れ、息の出来ないリーダー格の喉仏を無造作に引き千切る。肉片を握りながら、

少女に近づく。電圧の強さのせいか、服のあちこちが溶け、血も滲んでいる。たいした子だ。

自分の命も顧みず、屈しなかった。最後に撃ってしまった砲撃も、持っている力を振り絞り、

発射の出力を弱めてくれた。そのおかげで避ける事が出来た。姉を守るために助けを請うた少年、そしてこの少女。強い存在に屈せず、諦めない者達。俺が思い描き、諦め、それでも追い求めたい理想の存在達だ。拘束を解いた少女を床に寝かせる。今ここで、この子の首を折れば、諦めがつくかもしれない。自身が彼女達のようになろうなんていう…どう考えたって、無理な、叶わない幻想とおさらばできる筈だ。


傷ついているも、美しい顔に手を伸ばす。数秒迷わせた手を、彼女の頭上で震わせた後、

引っ込める。リーダーの懐から探っておいた携帯を操作し、シバの番号を呼び出す。向こうが出たところで通話を切る。これで、奴が彼女を保護しにくるだろう。リーダー格の肉片を自身のマスクに塗りたくる。残虐な感情がゆっくり体を支配していく事を切に願った。


肉片を捨て、出口に向かって歩き始める。やはり、俺には無理な話だ。あがいてみても性分は変わらないし、それに報われる努力もしない。しようとしないのだ…大丈夫、徐々にだが…この感情も薄くなってきている。後、何回かこうゆう体験を繰り返せば、完全な化け物になれるだろう。俺は“溶接マン”汚れた町を徘徊するスラッシャー。外は夜明けが近い。

頭の疼きはゆっくりとだが、確実に消えていった…(終)


 



 

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