キヨシコの夜

おんぷりん

第1話 ワンちゃんのおくりもの

雨が段ボールの中にまでしみこんできて、冷たい。

それどころか段ボールまで雨にぬれ、やわらかくつめたくなっている。

最後にご飯をたべたのは……。

最後に人の声をきいたのは……。

最後に何かをさわったのは……。

最後にあたたかい思いをしたのは……。

 そして、最後に体を動かしたのは……。


いつだっけ……?


〈もらってください〉とかかれたこの箱に入っているこの子犬は、捨て犬だった。

前はお母さんのとなりで寝れた。

前はあたたかい部屋ですごせた。

前はおいしいごはんが食べられた。

前はたくさん遊べた。

でも今は、せまい段ボール箱でつめたい思いをしている。

(お母さんに会いたいよ……。もしかしたら、このまま死んじゃうかも……。)

 ふと、目の前に男の人がたった。

(あっ、人間だ!)

 すてられたイヤな思いはある。

でも今は、そんなことを言っている場合ではなかった。

(たすけて!)

 そう叫んだつもりだった。

しかしのどからでてきたのは、

「………クゥ……。」

 という、かすかな鳴き声だった。

すると男の人は、

「なんだ、捨て犬か。つまんねえの。声もちっちぇし、弱っちいな。」

 と言って、すたすたと歩いて行った。

(え!?)

 しばらくぼうぜんとしたあと、子犬のなかには絶望感がおそってきた。

(そうか……。わたし、つまらないんだ。弱いから、だれにも拾ってもらえないんだ……。)

 子犬は、前足に顔をうずめた。


「じゃ、バイバーイ。」

「うん、また明日。」

 友達にかるく手をふって、麻乃まのは雨のなかを走り出した。

ここ一週間、ずっと雨が続いている。

麻乃はビニール傘ごしに空を見上げて、顔をしかめた。

 その時……。

「クゥ……。」

 そんな声が聞こえて、麻乃は足をとめた。

困っている人や生き物を放っておけない性格の麻乃はあたりを見回し、公園を見つけた。

よっていけば、帰りがおそくなる。それでも、麻乃は公園にむかった。

すみずみまで探しても見つからない。

あきらめて帰ろうとしたとき、すみっこの茂みが目に入った。

しばらく迷ってから、茂みに足をむける。

そして麻乃は、茂みの裏にひっそりとおいてある段ボール箱を見つけた。

なにか文字がかいてある。

雨にぬれてかすんでいるが、〈もらってください〉と読めた。

中をのぞくと……。

「あっ。」

 かすかにふるえている、一匹の子犬がはいっていた。

「かわいそう……。寒かったでしょ。」

 麻乃は自分がぬれるのもかまわず傘を段ボールの上にのせると、ジャンパーをぬいで傘をどかし、子犬をくるんでだきかかえ、傘をさした。

「もうだいじょうぶ。家に連れて行ってあげるからね。」

 優しくそう言って、麻乃は家にむかってかけだした。


家に帰った麻乃は温かいシャワーを子犬の全身にあびせた。

そのあと洗面器にお湯をたっぷりいれて子犬を中にいれる。

温まっている間におかゆをつくり、子犬を洗面器からだして体を拭き、食べさせる。

「どう?おいしい?」

 やっと一息ついた麻乃は、おかゆを食べている子犬に聞いた。

子犬はそれに答えるかのように一声の鳴き声をあげ、しっぽをふった。

「おいしい……っていってるのかな?かわいい!」

 麻乃はおかゆを完食した子犬をだきしめた。

「わ、やわらかい!ふわふわー。」

 子犬はうれしそうに麻乃の頬をなめた。

「きゃっ、くすぐったい!でも、うれしい★

よしよし、今日は一緒に寝よ!明日パパとママに、あなたを飼っていいかどうか聞いてみるから。」

 子犬は「ほんと!?」というようにまたしっぽをふった。

「うん、ほんとだよ!だから今日は、とりあえず布団ひいちゃお!」


 翌朝。

子犬は、うっすら目をあけた。

「ほんとっ!?」

 という叫び声が、かすかに聞こえてくる。

続いて、どたどたという足音。

次の瞬間ドアがひらき、麻乃がとびこんできた。

「あっ、もう起きてたの?ちょっと騒がしかったかな……。あのねあのね、パパとママがあなたのこと飼っていいって!」

 子犬の眠気が、いっぺんにふきとんだ。

とびおきて、パタパタしっぽをふる。

するとまたドアがあいて、両親らしい男の人と女の人がはいってきた。

「あら、かわいいじゃない。」

 女の人が顔を明るくして言った。

男の人も言う。

「元気がいいな。家がにぎやかになりそうだ。」

「でしょでしょー?」

 麻乃が嬉しそうな表情でいった。

「どれどれ、ちょっと失礼……。」

 そう言いながら男の人のほうが近寄ってきて、子犬の体をいろいろと調べてから言った。

「めすだろうな。」

「へえー、めすかあ。それでこんなにかわいいんだ。」

「名前はもう決めたの?」

 感心している麻乃に、女の人が優しい口調で聞いた。

「あっ、まだだった!えーっと……。」

 麻乃はしばらく考えてから、パッと顔をかがやかせた。

「わかった、この子の名前!あのね……。」

 そして麻乃は、ちいさな声で名前をつぶやいた。

「どうして?」

 と不思議そうに聞いてくる両親に、麻乃がわけを説明する。

納得した二人は、うなずいた。

「へえ、いいじゃない。」

「ピッタリだな。」

 人によく〈なつく〉。

子犬の名前は、ナツキにきまった。


その日から、ナツキは麻乃たち一家の犬になった。

学校から帰ってきた麻乃を、鳴き声をあげたりとびついたりして出迎える。

パパやママが疲れているときには、体をこすりつけて甘えたり、しっぽをふったりして癒す。

麻乃が用意した食事を、おいしそうに食べる。

休みの日にはみんなで遊ぶ。

午後は麻乃に連れられて散歩。

近所の犬ともすぐに仲良くなった。

こうしてナツキはどんどん一家にとけこんでいった。


数年後の冬。

一家は、クリスマスにむけて準備をしつつ、ナツキのことも気にかけていた。

このところ、ナツキがおなかをいたがっていたからだ。

 医者をしているパパの友人に診せると、食べすぎの可能性があると判断された。

言葉どおり、ナツキのおなかは大きくふくらんでいた。

とりあえず言われたことはやっているのだが、なかなかよくならない。

おなかのほうもますます大きくなっていった。

そして不安を抱えたまま、クリスマス・イブ。

夜、家族でクリスマスのごちそうを食べていると、突然ナツキが苦しがり始めた。

「ナツキ!?」

「どうしたの、だいじょうぶ?」

 みんなでナツキの顔をのぞきこむ。

ナツキは小さく鳴いてからうなり声をもらした。

そしていきなり後ろをふりむくと、まだちいさな赤ちゃん犬がころがっていた。

はじめは状況がのみこめなかった一家は、うっすらわけがわかると目を大きく見開いた。

「ナ、ナツキ!あなた、まさか……。」

 ナツキはまたちいさな鳴き声をあげて赤ちゃん犬の全身をおおう膜をはがそうとして、

うなった。

 今度は全員の目に、ちいさな赤ちゃん犬がナツキの体からでてくる様子が映った。

しばらく沈黙してから、真っ先に麻乃が歓声をあげた。

続いてパパ、ママも歓声をさけぶ。

その間にも、ナツキは早くも三匹目を産もうとしていた。


その夜子犬は四匹生まれた。

三匹がオスで一匹がメス。

奇跡の日に生まれた、奇跡の子犬たちだった。


あとでわかったことだが、友人の医者はナツキのおなかに赤ちゃんがいることをしっていたのだ。

サプライズにしようと、対応はおしえたもののそれが妊娠したときの対応であることやナツキが赤ちゃんを宿していることなどはあえてかくしていたのだった。

それを知った一家はだれが名付け親になるかでもめていた最後の一匹(うまれた犬は四匹で家族は三人なので一人一匹なづけると一匹あまるのだ)の名前を、この医者にきめてもらうことにした。

どんな名前をつけたのかって?

それは、読者の皆さんが想像してみてください。

クリスマス・イブにおこった、ちいさな奇跡の物語だった。















第二話 言葉のプレゼント


十二月も二十日近くになり、雪が時々ふるような季節になったある日。

朝世あさよは頬杖をつき、うっとりした顔で窓の外を眺めていた。

特に美人というわけではなかったが決してみにくくもなく、むしろそうして大きな瞳で窓の外の景色を見ている様子は可愛いとさえ感じられた。

年はだいたい二十代前半といったところで、かなり若かった。

彼氏もいて、仲良くやっていた。

一雄いつおという名前だった。

朝世が一雄を好きになり告白して以来のつきあいだったが、そうしているうちに朝世はますます彼を好きになっていった。

一雄のほうも週に何度かはデートにさそってくれたし、つまらないときにはメールを送れば返信してくれた。

一雄とは高校と大学が同じだったが、その七年間で一雄といるときほど楽しい時間はなかった。

今までの楽しい時間を思い返していると、

携帯の着信音がなった。

 一雄からのメールだ。

『朝世、話したいことがあるんだ。時間があったら××公園にきてくれないか。』

という内容だった。

朝世は不思議に感じた。

いつもの一雄ならもっと明るく気さくに声をかけるはずだった。

何かがおかしいと思いながらも、朝世は指定された××公園に急いだ。


××公園についた朝世は、電話中の一雄の後ろ姿を見つけた。

後ろから近づいても、気づく様子もなく話している。

近づいてみると、とぎれとぎれに会話の内容が聞こえてきた。

「……なんだけど、え?あの指輪じゃダメ?

へえ、……ってそういうのが好きなんだ。え、なに?そっちの指輪がいい?でもあそこは婚約指輪にぴったりなのがいろいろそろってていいとおもうけどな。」

 『婚約指輪』という言葉を聞いて、朝世の動きがピタリととまった。

(何言ってるの、一雄……。婚約指輪?ひょっとして新しい彼女ができたの?今日の話って別れようってこと?)

 朝世は茫然として話し続ける一雄を見つめた。

「でもやっぱり……のほうがいいよね?……うん、わかった。じゃあね。」

 位置が遠いこともあり聞こえにくかったが、

ひとまず会話は終ったようだ。

 一雄は携帯の電源を切って辺りを見回し、朝世に気づいた。

「ああ、朝世!やあ。」

 軽く手をあげた一雄は反応せずこわばった顔をしている朝世を見てはっとした顔をした。

「朝世、もしかしてさっきの会話聞いて……。」

 朝世は最後まで話を聞かず、くるりと後ろをむいて走り出した。

「あ、ちょっと…!」

 一雄の声も耳に入らなかった。

後から後からこぼれてくる涙をおさえ、朝世は家まで走り続けた。


それから数日後。

朝世の携帯に着信音がした。

「朝世……。」

 一雄だった。

かっとなって電話を切ろうとした瞬間、あわてた声がした。

「あっ、ごめん、切らないできいてよ。大事な話なんだ。」

「大事な話……?」

 朝世の声は冷ややかだった。

「今からそっちに行くから。ちょっと待ってて。」

 来なくていいといいかけたときには、すでに電話は切れていた。

どこに来てというようなら無視することもできるが、ここにくるのならそれもできない。

朝世はため息をついて、椅子にすわりこんだ。


家にきた一雄は、

「話したいことがあるんだ。」

 と、あの時のメールのようなことを言って歩き出した。

朝世は訳が分からないままとりあえずついていったが、そこからずっと沈黙が続いた。

目的地をきいても一雄はだまっているし、

それ以外に何を話したらいいかもわからないのだ。

 しばらく歩いたあとで、一雄が立ち止まった。

「……どうしたの?」

「ほら、見て。」

一雄が体をずらすと、彼にかくれて見えなかった景色が見えた。

「わあ……。」

 朝世が思わずそんな声をあげるほど、その景色は素晴らしかった。

木に積もった真っ白な雪は月明かりにぼうっと光り、木にかこまれた池の中央にある噴水は透明に輝き、さあっと水しぶきを散らした。

この幻想的な風景に朝世がうっとりしていると、ふいに一雄が言った。

「あのさ、朝世。」

「ん?」

「あの……ぼくと、結婚してくれないか。」

「えっ?」

 朝世は驚いて、一雄と彼の差し出す指輪を見た。

「一雄……あなた、彼女がいるんじゃなかったの?」

「え?」

「ほら、××公園に行ったとき。電話で指輪の話してなかった?」

「ああ、あの時?誤解だよ、あの子はぼくの友達なんだ。朝世にプロポーズしたいと思って、女の子が好きなタイプの指輪をきいたんだ。でも結局ぼく自身が選んだほうがいいかと思って。これはぼくが選んだんだ。」

「そうだったの……。」

「それで、どうかな?プロポーズの返事。」

 そういわれた朝世は、しばらく考えてから指輪を受け取った。

「ありがとう、一雄。返事……OKね。」

 それをきいて、一雄の顔が輝く。


クリスマス・イブにおきた、一つの恋の物語だった。



第三話 似合わないもの


クリスマスの夜に似合わないものはいくつかある。

その中で最も似合わないのは自殺だろう。

しかし今それを、ある人間がしようとしているのだ。


邦等くにひとは作曲家だった。

周りの人は高く評価してくれているのだが、

会社の人は邦等の曲を認めなかった。

 自信をなくした邦等は、そのうちまわりの誉め言葉もおせじと受け取るようになった。

作曲家になって十数年。

しかしいまだに、邦等の曲を認めるという会社はなかったのだ。


クリスマスの夜、邦等は悩んでいた。

曲が売れないため、生活が苦しくなっている。

妻も子もいるのに、二人にもつらい思いをさせてしまっているのかと思うと、胸が苦しくなった。

自殺をしようかと考え始めたのは数か月前だ。

この間も新曲を会社に発表したのに、不採用になった。

妻が邦等の分も働いてくれているが、それではますます苦労をかけさせてしまう。

邦等は大きく息を吸って覚悟を決めると、マンションの屋上へと続く階段に足をかけた。

どんどん上っていく。

上へ、上へ。

屋上は弱い風が吹いていた。

深呼吸をする。

屋上には人が落ちないよう柵がついている。

その柵を乗り越えようとしたとき、携帯の着信音がした。

反射的に電話をとる。

「あっ、邦等さん?」

 妻からだ。

彼女はいつも邦等をさん付けで呼ぶ。

「今日は帰るの、遅くなりそうなんだけど。」

「えっ、なんで?」

「それについては、これから電話代わるからその人に説明してもらって。」

 代わって、若い男の人の声がした。

「すみません、お電話代わりました。奥さんの学生時代の友人で、野代のしろという者です。あの、あなたが最近発表された曲なんですが。」

「あれ、お聞きになったんですか。」

「はい、実はそうなんです。奥さんにご職業をきいて興味をもったので、レコード会社にたのんで曲をききました。それなんですが、実に素晴らしい。感動しました。」

「お世辞でもそう言っていただけるとありがたいです。」

「いや、お世辞じゃありません。本気ですよ。

それで、私のほうから推薦したのですが……。」

「あれは一度不採用になってるんです。言っちゃ悪いですが、今さらやっても無駄でしょう。」

「あそこに推薦したのじゃありません、うちの会社に推薦したんです。というのも、私はレコード会社に勤めていますので。」

「そうだったんですか……。」

「はい。それで結果なんですが、今すぐにでもCDにしたいと。今奥さんと打ち合わせしているんですよ。」

「はあ……。」

 驚きのあまり、邦等はそれしか言えなかった。

野代にお礼を言ったり妻がいつごろ帰るか確認したりしながら、彼は柵を見つめ、しばらくしてからゆっくり屋上をはなれた。


KUNIHITОという作曲家に注目と人気が集まりはじめたのは、その数年後だった。


第四話 キヨシコの夜


その年のクリスマス・イブは、あちこちで奇跡やいいことがおきた。

その理由を話すためには、少し場所を移動しなければならない。


「サンタさん、大丈夫?」

 ベッドに入ったサンタに、一人のかわいらしい女の子が聞いた。

女の子の名前はエメジスタという。

「……ああ、だいぶよくなった。すまないね、心配をかけさせて。おまけに仕事まで手伝ってもらって……。

「安心して。プレゼント、全部配ったから。」

「いやあ、わしも突然病気になるとは思っておらず……。看病してもらったうえに仕事までやってくれるとはのう。」

「お医者さんは遠くに住んでるしね。わたしに医療技術があってよかったわ。」

「そうじゃのう、相当な腕のようじゃ。こんなにわしが楽になったんじゃから間違いない。

これなら仕事もできると言うておるのに……。」

「だめ。いくら楽になっても病気が治ったわけじゃないんだから、この寒いのに世界中をかけまわったりしたらまた症状が悪化するわよ。」

「かなわんのう……。」

 サンタはフォッフォッフォと笑った。

エメジスタはため息をついて湿布をかえようと薬棚のほうを向いた。

その後ろを見ながら、サンタはすべてを見抜いていた。

(彼女エメジスタは魔法が使える。働きすぎの病くらい、簡単に治すことができるような魔法じゃ。しかしわしはもう十分働いたから休ませてあげたいと思った。かといってこのままにしておくのは気が進まない。それで病気は治さないままにわしの気持ちや体を楽にしてくれた。しかも彼女は魔法が使えることをわしに話していない。魔法が使えることをバカにされた記憶から、わしに打ち明けることができなかった。普通からかわれたら人や相手を恨むものじゃが、彼女はそれをせずわしを気遣ってくれた。)

 エメジスタの後ろ姿から、次々と気持ちや過去を読み取る。

(実に、いい子じゃ。しかし、今の親に引き取られる以前の記憶がない。なぜじゃ……。)

「サンタさん、シップ代えるよ。」

「おお、ありがとう。」

 サンタは嬉しそうに言ってから考えた。

(それにしても、エメジスタか……。どこかで聞いたような……。)

 首をひねったサンタは、突然思い出した。

「エメジスタ、ちょっと散歩につきあってくれんか。」

「だって、まだ病気が……。」

「クリスマス中に終わらせなくてはいけないんじゃ。」

「それなら私が……。」

「わしがいなければできないんじゃ、たのむ。」

「もう……仕方ないわね。」

 ため息をつくエメジスタを外にひっぱりだしたサンタは、トナカイに行先をおしえてそりに乗り込んだ。

「はいよーっ。」

 サンタの声に合わせてそりは空高くかけのぼっていき……。


「さあついたぞ、エメジスタ。」

「……ここ、どこ?」

「それは、あそこにいってのお楽しみじゃ。」

 サンタが指さした一軒の家は、クリーム色の壁にイチゴ色の屋根という、こぢんまりしたかわいい家だった。

「あれ、わたし、あの家どこかで見たような……。」

「それも言ってのお楽しみじゃ。」

 サンタはいたずらっぽく笑って家のインターフォンを押した。

「はい。」

 出てきたのは一人の女の人だった。

「あら、その子は……。へんね、なんだかどこかで見たみたい。」

「当然じゃ、それは。この子がエメジスタじゃからの。」

「エメジスタ!……この子が?」

 サンタはうなずくと、エメジスタに言った。

「エメジスタ、紹介しよう。お前の母親じゃ。」

「わたしの?」

「数年前、この魔法界でエメジスタという名前の少女が行方不明になったと大騒ぎになってな。わしの家にも見つけてくれとのポスタ

ーが届いていたから思い出したんじゃ。」

「じゃ、本当にこの人がわたしのお母さん……?」

 エメジスタはじっと目の前にいる女の人を見つめた。

「そうよ、久しぶりねエメジスタ。」

 女の人に優しい声で言われると、気づかないうちにエメジスタの目からは涙があふれた。

「わたしの、お母さん……。」

 口の中でもう一度つぶやく。

忘れていた思い出がよみがえった。

ハイハイしたとき誉めてくれた思い出。

夜に泣いてしまったとき、わざわざ眠るまでそばで子守歌を歌ってくれた思い出。

病気になったときつきっきりで看病してくれた思い出。

そして、今、目の前にある笑顔。

「お母さんっ!」

 エメジスタはお母さんの胸に飛び込んだ。

そして大声で泣いた。

その様子をサンタは、

「最高のプレゼントだったようじゃの。」

 と、温かく笑ってながめていた。


               〈fin〉 

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キヨシコの夜 おんぷりん @onpurin

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