第8話

 結城という、異世界から来た女を家に置くことになってしまった。

 何でこんな事になってしまったのか。そんなのは誰にもわからない。

 でも、男に襲われそうになっていたあいつを助けてしまった俺が責任を持って家に置くのは普通だろ。と課長に言われたときは何も言い返せなかった。

 そんな事言われたが、あの状態で助けないわけにはいかない。きっと課長はそれをわかってて俺に押し付けたんだろう。


 しかし結城の件で、上の連中に出来事全てを報告すれば、あの男の被害者に対してそれなりの対応をすると言い出し、行動し始めたことに変わりない。

 それは特能課がずっと望んでいたこと。ある意味、結城には感謝しなければいけないのかもしれない。

 でも、結城は俺たち特能課をまだ疑っていた。……まぁそれは全て安達が原因だけどな。


 そして結城が来たばかりの今日。

 俺たち特能課に対しての疑念を消してもらうという目的で、特能課全員と結城と飲み会をしようということになってしまったのだ。

 言い出したのは課長だから、きっとただ飲みたかっただけだろうけど。


 俺は上着のポケットに冷たく冷えた手を入れながらも、前を歩く小松崎と小松崎に肩を抱かれながら歩く結城を眺める。


「あの、小松崎さん」

「桜でいいわよ!」

「えっと、桜さん。 どこに向かってるんですか?」

「ん? "よもぎ"って居酒屋」

「い、居酒屋ですか……」


 前の二人の会話を聞いていてふと思った。勝手に飲み会とか言って、連れてきちまったけど、こいつ酒飲めるのか?

 確か、被害届を見た限りでは未成年ではなかったはずだからその辺りは大丈夫だろう。

 俺と同じことを思った桜が、若干驚きながらも結城に酒の事を聞きだした。


「もしかして、お酒飲めない!?」

「あ、いえ。 多少は飲めます」

「そう、ならよかった!」


 小松崎と同じくホッとする俺。って、なんでホッとしてんだ。俺には関係……無くはねぇか。

 酒が飲めようが、飲めなかろうが結局は帰ってからも俺がいろいろと面倒を見なければいけない。それを考えるととても憂鬱だった。

 小松崎が同棲なんてしてなけりゃ、こんな事になってなかったのに。


 そんな事を悶々と一人で考えながらも歩いていれば店先に見慣れた人物、課長と安達、それに光希みつきがいた。


「よぉ」

「小春ちゃん連れてきましたよ!」

「小春ちゃん、数時間ぶりだね!」

「あ、はい……」


 合流し、一番に結城に歩み寄ったのは光希。得意の笑顔を作り、結城の手をぎゅっと握っている。女好きの光希。とりあえず、女性がいれば口説こうとするやつだ。

 いつもなら、光希のあの行動で女性は大体顔を赤らめたりするのだが結城は違うようだ。

 笑顔を浮かべているものの、少し引きつっている。

 流石にここまで引かれていれば、光希も結城を口説こうとするのは止めるだろう。そう思ったのに。


「小春ちゃん、蒼は無愛想だから一緒にいて楽しくないだろう? 良ければ、俺の部屋においでよ!」

「え、あの……」


 満面の笑みを浮かべる光希。無愛想で悪かったな。

 俺は完全に引いている結城の手から、光希の手を引き離す。こいつ、引かれてんの気がついてないのかよ。


「こいつは女好きだから、相手にすんな」

「あ、はい」


 結城も嫌なら、ハッキリ言えばいいのに。

 そう思ったのもつかの間。

 一斉に視線を感じ、周りを見てみれば小松崎や光希それに安達や課長までもが驚いた表情を浮かべていた。

 俺、何かしたか?

 訳がわからないまま小松崎に「なんだよ」と言い返してみれば今度は、ニヤニヤし始めやがった。


「あらぁ、蒼が光希に口説かれてる女の子を助けたわぁ」

「べ、別にいいだろ! 何がいけねぇんだよ!」

「蒼、お前いつも光希に口説かれてる女なんて全く興味ないだろ」

「!!」


 課長にも突っ込まれてしまい、何も言い返せなくなってしまう。

 でも、そう言われればそうかもしれない。今まで光希が口説こうとしていた女がいても、気にしていなかった。

 じゃあ何で今結城を光希から離したんだ? 二回も襲われているところを助けた名残か? ……名残ってなんだよ。

 自分で自分に突っ込み、ふと結城を見てみれば小首を傾げながらキョトンとした表情を浮かべていて。なんだかその顔を見て、トクンと鼓動が波打った気がした。


「あぁそうだ。 蒼」

「はい」

「身分証用意しておけよ」

「!! ……用意してあります」


 突然話が切り替わったかと思えば、課長からそんなことを言われ、ムッとしてしまう。

 身分証は常に持ってるし、何でこの人は居酒屋に来るとこうやって俺で遊ぶかな。


「身分証って? あの……私、」

「小春ちゃんは大丈夫だよ! 蒼はほら、童顔だしチビだから未成年と勘違いされるんだよ。 絶対にね」

「光希黙れ」

「いてっ!」


 自分も必要なのかと勘違いした結城に光希が説明するも、一言多いんだよ。

 だから、課長に続き居酒屋に入る際、光希の足を後ろから蹴飛ばしといた。

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私はただ、平和に暮らしたいんです 抹茶ロール @yururun

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