第7話

 蒼さんの部屋で一人になった私は、テレビを見たり、本棚にあった小説を勝手に借りて読んだりとそれなりに時間を過ごしていた。

 テレビはやはり、私がいた世界の番組はひとつもやってはいなかった。それもそうか。でも意外と面白かったりした。


 そして日も落ちてきた頃、ガチャと音をたてて蒼さんがご帰宅なさった。



「あ、おかえりなさい!」

「!! …………あぁ」


 ソファに座っていた私は、部屋に入ってきた蒼さんに言えば、目を丸くし、驚いた表情を浮かべるもすぐに返してくれる。

 私、何か変なこと言っちゃった?

 そう考えるも、蒼さんから「行くぞ」と言われ、お帰りの挨拶の事を考える間もなく、部屋を出ることになった。



 蒼さんの部屋はマンションの五階だったらしく、回廊を歩き、エレベーターに乗り込む。

 そしてエレベーターを降りれば、エントランスがあるのだが、とてもキレイで高級マンションじゃないかと疑ってしまうほどだった。それにオートロック式だったし。


 そのエントランスを出れば、町はごく普通。私のいた世界と何ら変わらない。本当にここが異世界?と何度も思ってしまうほど。


「で、何買うんだ?」

「えっと、ケア用品なのでドラッグストアとかかな」

「なら歩いてすぐの場所にある」


 周囲を見渡していれば蒼さんに聞かれたため、必要なものをメモした紙をポケットから取りだし、見ながらも言えば、先に歩きだしてしまい、慌てて追いかけた。

 出来れば、道を覚えたいからゆっくり歩いてくれると嬉しいんだけど。

 そう思うも、口に出して言える訳じゃない為、ぐっと堪える。


 そしてドラッグストアへ行き、その際にお金の事を聞いてみれば、私の世界とお金は一緒だという。

 そのことを知った私はホッとしながらも、一番安いケア用品を手に取り、購入した。

 とりあえず、どのくらいいれるかわからないからお徳用を買っておいた。最悪、戻っても使えるしね。

 しかし、購入している際に思ったんだけど蒼さんのお風呂を借りるんだよね。居候させてもらうんだから仕方ないんだけど、なんか抵抗があるっていうか。


 ……どうしよう。


 そんな事を考えながら、ドラッグストアの店前で待っている蒼さんと合流する為、店を出れば、なぜかそこに昼間会った小松崎さんの姿もあって。


「こ、こんばんは」

「小春ちゃん!」

「わっ!! ちょっ、あの!」


 挨拶しながら彼女に歩みよれば、私に気が付いた途端、ぎゅっと抱きしめてくる小松崎さん。

 なぜここにいたのかと言うことに驚いたのに、急に抱きしめて来るもんだから余計困惑してしまう。

 近くにいた蒼さんに目で助けを求めれば、呆れた表情を浮かべ、小松崎さんに「いい加減離してやれ」と言ってくれたお陰で解放された。


「じゃあ行こっか」

「え? どこにですか?」

「もう皆来てるから」

「え? え?」


 何がなんだかわからないうちに私は、小松崎さんに手を引かれながら歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る