絵を描くことこそ幸福!
らろりえダンス
第1話 お目覚め
私は有名売れっ子イラストレーターとして、その日もせっせと頼まれていたイラストを描いていたけれど、途中で高校時代の同級生から電話がかかってきた。
内容的には「久しぶりに話したかった」というなんとも嬉しい内容で、三十分ほど電話で話していたが向こうから合わないかとお誘いを貰い締切もまだあったので了承し、待ち合わせ場所と時間を設定し電話を切った。
結論から言うと楽しい時間を過ごした。昔から綺麗だった彼女はもっと大人らしくなって綺麗な女性になっていた。仕事はWEBデザイナーをしていて、彼氏も居ており近々結婚するから招待すると言っていた。
幸せ街道まっしぐらの彼女の話を聞いていたら、こっちまで幸せな気持ちになった。
けれど事件はその後に起こった。
彼女と別れ、駅に着いて電車を待っていたら、アナウンスが流れたの。
「ただいま電車が通過いたします。危険ですので___」
という注意喚起のアナウンスが終わり、電車が近づいてきた時に後ろからドンッと誰かに押された。
眼前に迫ってくる線路と敷き詰められた石。そこに叩きつけられた痛みと近づいてくる電車が走る音を聴きながら私は目をゆっくりと動かした。
私を押したのは_______
コンコン
「失礼します。おはようございますお嬢様、朝食の準備が…お嬢様!?どうなされました!??床になんか突っ伏して!」
「…おはようカルラ。ベッドから落ちただけだから気にしないで。」
「えぇ…?大丈夫ですか?怪我してないですか?」
「大丈夫、なんともないわ。」
ゆっくり体を起こし、一息つく。さっき見た夢は……。
「改めて、朝食の準備がー…あの、顔色が良くないようですけれど本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫、少し夢見が悪かっただけ。」
私は頭を軽く抱えた。そうだ、さっき見た夢は私の前世の死ぬ間際の記憶だ。つまり…つまるところ…
(転生したってことよね…。)
そして今ここは新しく生まれ変わった私がいる世界な訳で…こんな小説みたいなこと本当にあるんだ…。
でも私が見ていた小説みたいにここは乙女ゲームの世界じゃないのよね…普通に貴族社会で、私は普通の令嬢なのよね。上の方でも下の方でもない中ぐらいのモブにいそうなぐらいに普通の令嬢なのよね。
乙女ゲームの世界なら悪役令嬢で悪役令嬢にならないように回避するけれどこの場合どうすればいいのかしら…。
「……どうしました?お嬢様。朝から変ですよ?」
「…ねぇ、つかぬ事を聞いていいかしら?」
「え?あっはい、私でよければお答えしますが。」
「例えばね?例えばだけどね?生まれ変わって前世の記憶もあるんだけれど特にやること
が無い時ってどうすればいいと思う?」
「えぇ…?生まれ変わってですか?……そうですね…」
カルラは腕を組んで少し考えてから何かを思いついたのか口を開く。
「私がお嬢様のような立場ならばいくらでも好きなことをしますね。令嬢ですし、お金もありますしね。」
「……」
「…お嬢様?」
「…それよ…」
「はい?」
「そうよね…令嬢ってことはお金もあるし、私まだ11歳だから時間もあるし、特にやることが無いのだから好きなことやってもいいのよね…?」
「お、お嬢様??」
「……った…」
「へ?なんて?」
「…やっっったぁぁぁぁあ!!フゥーー!」
「!?お、お嬢様!?どうしました!?」
そうよ!そうだわ!別に悪役令嬢になってルート回避することも、何か特殊な力があって国を救わなきゃならない訳でもない!つまり私は自由!free!何をしても許される!
「そうと決まれば道具が必要だわ!カルラ!」
「はっはい!」
「今日中にスケッチブックと何か描くものを揃えられる?」
「は、はぁ…。揃えられますが…」
「じゃあ今日中に揃えて持ってきてちょうだい!お願いね!」
「あっ!お嬢様ー!?……どうしちゃったの…?」
「ふふん♪ふふーん♪」
あぁ、なんて素敵な立場に生まれてくれたのでしょう!まさかお金持ちである令嬢に生まれてきてくれるなんて!
ありがとう神様!愛してる!あんまり信じてなかったけれど!
しかも家の庭には綺麗な花が沢山咲いているし木だってある!しかもしっかりと手入れされているとかもう素晴らしい。普通身近にこれぐらいの規模の庭なんてないからね!普通の令嬢だといってもお金持ちだからね!ありがとうお父様愛してる!いい思い出は特にないけれど!
「はぁー…幸せ…次々とスケッチブックのページをめくっちゃう…」
新品のスケッチブックがドンドンと絵の具で侵食されていく…こんなに幸せなことがあっていいものか…?
「…そういえば貴族の令嬢ってことはパーティーに呼ばれたり、婚約とかしなくちゃならないのかしら…」
私の浅はかな知識だけだとそれなりにめんどくさい事が多かった気がする…学園に行ったり取り巻きにいじめられたり…後者はヒロインだけだけど。
「うーん…でもモブぐらいの立場だし、特に問題ないわよね。」
「おーい、セリーナどこにいるー?」
?セリーナって誰?…って私か。おいおい、流石に名前を忘れるのはダメだよ自分。えっと、確かあれは…
「ハリーお兄様?」
「あぁ、セリーナそんな所にいたのか。」
あ、良かった会ってた。これで「それはお父様の名前だよ」なんて言われた暁には地面に穴を掘って埋まるところだった。
「どうしました?ハリーお兄様」
「どうしたもこうしたもないよ。カルラが『お嬢様が!お嬢様の頭がいつもよりもおかしくなられました!』
って騒いでたんだからな?」
「あら、まるでいつもおかしいみたいな言い方ですね。」
「まぁ、否定出来ないな。」
「酷くないですか?」
確かにこのセリーナ・フィンチは物心ついた頃から「あそこに大きな川を作るわ!」と言って地面を掘って本当に川を作ろうとしたり、壊れた玩具をもって「この子の立派なお墓を作るわ!」と言って大きな岩を削ってお墓を作ろうとしたりしたけれど、決しておかしい子ではないわ!
「それで様子を見に来たんだが…特に変わったところはないな。」
「えぇ、カルラがおかしくなったんじゃありませんか?」
「完全には否定できないな、働き詰めだしな…休暇でも申請してみるか。」
「それがよろしいかと。」
「そうと決まれば早速お父様に相談してみるか」と言って私に目を向けて歩きだそうとしたが、何かを思い出したようでまたこちらを向いた。
「そういえば明日にルイス・グレイ様がこの家に来るみたいだから準備しておけよ。」
「?はーい、分かりました」
「本当に分かったのか?…まぁいいか。」
遠くなっていくお兄様の背中に手を振りながら私は考えていた。
(……ルイス・グレイって誰だっけ…?……まぁいいか。)
私はそんな思考を頭の隅に置いてまた絵を描き始めた。
絵を描くことこそ幸福! らろりえダンス @airi94
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