統計信教:剃刀の章
尾巻屋
脱出のすべ
才能がないのかもな。
意識もせずに言葉が出た。
名のある著名人達はみな口を揃えて自らの才能の存在を疑ったという。
でもそれはきっと、夢を追いかけ続けることで初めて出て来る軽い愚痴のようなもので、自分のこれは違う。そう思った。
努力があってなお実らぬものはあっても努力なしで芽吹くものは決してない。
自分はその努力もせず、種も植えていない土壌に若葉が萌えるのを待っているだけ。
見え透いた結果に絶望して死をちらつかせる。ただ、それだけ。
そうやって自分の甘さに辟易として。
帰りのホームセンター、梱包材売場でロープの直径を測って。
サムイだけのエゴに満足の甘美を与えているのだ。
マッチポンプじゃないか。
後ろで誰かが囁く。
自分の付けた火で火傷して、又してもそんな自分に楽観の水バケツをあてがっている。
全部諦めてしまえばいいんじゃないか。
所詮君はそこまでだったということだ。
信じる方がおかしい、微々たる可能性に破滅へのカウントダウンをさせている。
等身大で生きることの何がいけないというのか。
酩酊の先にある喉の渇き。
夢を思い出した時の咽び泣き。
過去の無垢な少年に見せる、惨たらしい
こんなどこにでもあるような言葉を書いて。
ある日突然、僕の前に剃刀の刃を届けてくれる奴はいないから。
今日も、惰眠を貪って。
統計信教:剃刀の章 尾巻屋 @ruthless_novel
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