EPISODE Ⅰ その男、警視庁未解決捜査官につき。 完筆版

2024年10月某日。ーー

本日付けで5年近くいた

警視庁刑事部捜査一課から

同庁の未解決事件捜査班に

異動命令が下った末永健

(すえながたける)は重い腰を

無理やり上げ、妻の恵(めぐみ)に

ネクタイを閉めてもらいながら

言われた。

「あなた、しっかりなさいな,はい

出来た。」

ポンポンと両肩を叩く彼女の

笑みに癒された健は

「ありがとう,行ってきます。」

と言い、家を出た。

「行ってらっしゃい,あなた。」

妻の恵も笑顔で見送った。

「さてと、洗濯でもしますか。」

なんてことも無い日常の時計の針が

今日も動き出そうとしていた。

健は現在進行形の事件ばかりを

扱ってた前の部署から過去に縛られ

囚われた数々の未解決の事件とこれから

果てしなく続く対峙をしようとしていた。ーー

 警視庁本部3F,

未解決事件捜査班用分室。--

 課長の望月宗太郎(もちづきそうたろう)と

部下の北川茜(きたがわあかね)は

捜査資料のファイル作成を黙々とこなしていた。

「遅いですよね、主任…、それと…」

「例の新人かぁ、ったく初日から遅刻かよ。」

~※~

 その頃、末永は通勤途中の霞が関駅構内で

発生した刃物を持った男による

通り魔事件に巻き込まれていた。

「来るなぁ~!来るんじゃねぇ~!!」

 刃物を振り回している男はかなりの錯乱状態に

あり、危険ドラッグを服用している

可能性もあった。

「落ち着いてください、まずは

その刃物を捨ててください。」

「来るなっつってんだろ!」

 男が刃物を末永に振り上げた瞬間、

見事に男の前に若い謎の男が

掌拳で男の顎を砕き

取り上げた腕を後ろ手に回し手錠を掛けた。

「午前9時10分、公務執行妨害で確保。」

「あなた、一体…」

「警視庁刑事部未解決事件捜査班の

明神光(みょうじんひかる)警部補,

今日からあなたの上司になる男です。」

 握手を求めてきた光に

健は恐る恐るに応じた。

 これが二人の最初の出会い、

ファーストコンタクトだった。--

 出勤ついでに通り魔事件の

犯人確保をした光と末永は

取調室でその男、竹井敏夫

(たけいとしお)を取り調べていた。

「竹井敏夫さん,あなたは何故,

刃物を振り回していたんですか」

「…すいませんでした。」

 先程までの刃物を振り回していた

錯乱ぶりがまるで嘘だったかのように

竹井は大人しくなっていた。

末永は諭すように竹井に言った。

「幸い,怪我人も死者も

いなかったですが一歩間違えれば

取り返しのつかない最悪の事態に

なっていたんですよ。」

 すると光はある言葉を口にした。

「もしかして【抗議】の

つもりだったんですか」

 光のその言葉に末永は

キョトンとした顔で復唱した。

「えっ、抗議…?」

「あなたはとある未解決の

殺人事件を我々に捜査して

欲しくてあんな大げさな

劇場型犯罪を引き起こしたんでしょ?」

 竹井はゆっくりと頷き『はい。』と答えた。

 どうやら図星の様子だったようだ。

「では、場所を移しましょうか…。」

 光はそう言い、末永と竹井を

自身が所属する未解決事件捜査班への

案内を始めた。--

 三人が相談の為に場所を移した場所は

光と末永が働く職場である刑事部捜査第一課

未解決事件捜査班分室だった。未解決事件の

捜査には人員や予算、古い古文書レベルの

捜査資料から直近の捜査資料まで揃える時間も

掛かる為に捜査一課とは別の、謂わば半分倉庫、

半分窓際のような部屋である分室に

捜査員、事務員を合わせ

約4人程の少数の人員で

構成されていた。ーー

 やっと出勤しに来た光と末永に

課長である望月の代わりに怒号を

飛ばしたのは新人警官の北川だった。

「お二人とも遅いです!今まで

何をされてたんですか!!

課長と私でデータ入力、必死になって

終えてたんですよ。」

 その怒号に気おされてる様子の

末永に対し光は飄々と答えた。

「未解決の殺人事件解決の依頼を

うちの部署が承りました。」

 その言葉に望月が飛び付いてきた。

「どんな?どんな未解決事件なの?

明神君。」

「まずは事件の概要からお話ししましょう。」

 そう言って明神はホワイトボードを出した。--

10

EPISODE Ⅱに続く。

参考文献:【ミステリーファンのための警察学読本】

この作品はフィクションです。実在する人物・職業・団体とは一切関係ありません。



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光―HIKARU―~警視庁未解決捜査官~ 林崎知久 @commy

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