最終話 死神リタの忠告

 鹿島が亡くなってから数日後。

 わたしは夜の駅にて、ホームのベンチに座っていた。

 鹿島がナイフで刺され、その後命を落とした現場。近くであった通夜の帰り道。

「鹿島くん……」

制服姿のわたしは今後どうすればいいか、戸惑っていた。

 鹿島からは死ぬ直前、「何があっても死ぬことはしないで」と強く言われた。

 クラスメイトらは、仲間外れをひどくさせている。鹿島が死んだのはわたしのせいと決めつけて。

「このままだと、不登校になった方が気楽かもしれない」

「弱気だね」

 顔を動かせば、リタが制服姿でなく、初めに会った、シャツにジャケットの格好で現れた。全体が黒でまとめられているのは相変わらずだ。

「リタは、このことを予測していたんですか?」

「予測というより、そういう風にさせたって言った方が正しいかもしれない」

「そんな……。じゃあ、鹿島くんを見殺しにしたってこと?」

「あれは仕方のない判断だった」

「どうして……」

「本当なら、あそこで死ぬのは霞だったから」

「えっ?」

「彼、鹿島裕也は本来、あそこに現れることはないはずだったから」

「どういうことですか?」

「彼にはせめて、いい死に方をさせたってこと」

 リタは淡々と声をこぼす。

「いい死に方って、それじゃあ、まるで、鹿島くんは死ぬしかないような言い方じゃないですか!」

「うん。残念だけど、そういうことだったから」

 わたしの強い語気に、リタは淡々としていた。

「前から不思議に思ってたんだけど」

「何ですか」

「彼、何でフラれたの?」

 リタの質問に対して、わたしは返事をしようとする気が起きない。鹿島を見殺しにしておきながら、平然としている彼女に対して、苛立っていたからだ。

「わたしは死神だから」

「それは知ってます」

「だから、霞はわたしのことを冷たいとか思ってるかもしれないけど、死神は本来こういうもの」

「けど、急にそういう風にされると、色々と」

「受け入れがたい?」

「はい」

 わたしは首を縦に振る。対してリタは、両腕を組み、考えるような仕草をした。

「今度からは、人間に対する接し方を改めた方がいいかもしれないかも」

「死にそうな人間に対してですか?」

「うん。まあ、死神の仕事だから。で」

 リタはわたしに目を合わせてきた。

「彼、何でフラれたの?」

「わたしのタイプじゃなかったからです」

「ウソだね」

 リタは間髪入れずに声を漏らす。

「ウソじゃないです」

「ウソだね。だったら」

 リタは躊躇せずに、わたしの頬あたりを指で触る。

「こうやって泣いてるはずないから」

「えっ?」

 わたしは瞳を擦れば、手がうっすらと濡れ、自分が泣いていることに初めて気づいた。

「彼、クラスで人気があったからね。それなのに、自分が告白されるなんて、思ってもみなかったんじゃない?」

「ち、違います。わたしは本当に……」

「まあ、今さら遅いかもしれないけど……」

 リタはベンチから立ち上がるなり、ため息をこぼす。

「人間って、お互い思っていることに対して、ズレが生じ始めると、それが段々と大きくなってきて、最後には取り返しのつかないところまで行くことがよくあるから」

「それって、前に言ってくれたこと……」

「素直になっておけば、実は、二人とも死なずに済んだかもしれない。けど、わたしにはそれをどうすればいいか、難しかったから」

「わたしは、わからないです。鹿島くんのことを実は好きだったのかどうか……」

「そっか。そしたら、わかるのはたいぶ先になりそうだね」

 リタは言うと、場から離れ、気づけば、いなくなってしまった。

 ひとり取り残されたわたしは、乗るべき方の電車がやってきても、見過ごすだけだった。

 ふと、わたしはあることに気づいた。

「ここ、ホームドアないんだっけ」

 わたしはベンチから腰を上げると、自分が乗る方とは反対側へ足を進ませていく。

 ホームの前で立ち止まり、奥にある線路をぼんやりと覗き込む。

「これなら、死ぬことができる」

 わたしはぼそりと言うなり、周りへ視線を動かしてみる。

 幸いとすべきか、リタの姿はどこにもいなかった。

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あの世に行きたい女子高生と戯れる死神 青見銀縁 @aomi_ginbuchi

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