自分Re:育成シミュレーション

ちびまるフォイ

嫌っている段階で自分に興味ありまくり

他人と自分を比べて凹む自分が嫌い。

まわりに影響されてすぐに真似してしまう自分が嫌い。

ちょっとしたことでその気になる自分が嫌い。

自分の気持ちに正直になりすぎる自分が嫌い。

上手くやろうとしても上手くできない自分が嫌い。


嫌い。嫌い。嫌い。

自分なんか死んでしまえばいいのに。





「あれ?」


目を開けると、ガラスケースが目の前にあった。

中にはジオラマの自分の家があり、ベビーベッドには赤ちゃんが寝ていた。


『これは小さい頃のあなたです。

 これからあなたに自分を育ててもらいます』


どこからか声が聞こえた。


「そ、育てるって……」


でも自分を育てるってことは、これは過去の自分。

昔の失敗を今取り戻せるかも知れない。


こんな劣等感だらけの人間にならないよう軌道修正できるはずだ。

もっと幸せな人間になれるはずだ。


「よし、やってやるぞ!」


ジオラマの中にいる小さな自分を育てることを決意した。

自分の成長スピードは早く、あっという間に歳を重ねていく。


「今の俺が卑屈になったのは、きっと小学生の時に

 イケてないグループに所属していたからに違いない」


ガラスケースに触れると水のように手を突っ込むことができ、

ジオラマの教室で縮こまる自分をつまみあげると、そっと話しかけるように促した。


小さな自分はそれをきっかけにクラスの輪に入れるようになり、

自分の劣等感の筆頭だったコミュニケーション能力は改善された。


「なんやかんやで運動は大事だな。あのとき部活をどうしてやらなかったんだろ」


ゲームの時間を増やしたいので部活はやらなかった。

それにより共通の話題や友達がいなくなり孤立していった。

孤立したことでより自分の世界に閉じこもるようになり今の自分がいる。


そんなくすんだ人生を歩むものか。


自分をアクティブな部活に移動させ活発に動かすようにした。

副産物的に部活を通して恋愛なんかもできて、

今の自分のコンプレックスがどんどん塞がれていく。


「すごい、出来上がりが楽しみだ!」


人生の軌道修正をされた自分はみるみる理想の人間へと近づいてゆく。

高校も合格し、大学も合格し、さらには一流企業にも就職する。


自分が逆立ちしても歩めなかった成功者への道を、

同じスペックであるはずの自分が駆け上がるさまを見て嬉しくなった。


「ああ、自分が劣っているわけじゃなかったんだ。

 単に人生の選択肢をちょっと間違えただけなんだ」


自分の成長は進み、ついに今の自分と同じ年齢にまで到達した。

到達するとガラスケースから自分が消えた。


次の瞬間、ジオラマで見ていたはずの自分が等身大で現れた。


「わっ!? と、飛び出した!?」

「……」


同じ顔をした自分は何も言わないし、動かない。

その手には2つのボタンが握られていた。



『ここまで自分を育ててもらってありがとうございます。

 これから最後の審判を行います。


 時間内にこの世界で不要だと思う方の自分を消してください。

 残った人間がこの先、あなたとして生活します』



「け、消す!?」


ボタンには自分と、育てていた自分どちらかを選ぶようにできている。

やっと自分を自分で育てる意味がわかった。


「自分だからこそ自分の至らない場所もわかるし、

 その対策もできるってわけか……」


もちろん、この世界にとって必要なほうは明らかだ。選ぶまでもない。

こんな劣等感と卑屈の結晶なんて、必要ない。


俺は育てた自分ほど人望もないし、人生経験もない。

自分より優れるように自分を育てなのだから。


だから、消えるべきはー―



「……選べない……」


あれほど嫌っていたのに。

自分が嫌いすぎて憎らしくて辛かったのに。


明らかに自分が劣っているとわかっていても、

まだこの先の人生に期待を捨てきれずにボタンを押せなかった。


制限時間とはいったいなんだ。

もし、このまま選ばなかったらどうなるんだ。

どっちも消えてしまうのか。



『制限時間になりました』



悩み苦しんでも自分をまだ捨てきれないことで、

嫌っていた自分でもまだ好きだったことに気がついた。



『時間内に選ばなかったので、回答権は移動します』



「移動? まさか、今度はこいつが……!?」


けれどもうひとりの自分は動かないまま。

ボタンひとつ押せないのに、どちらが消えるかを誰が選ぶのか。


 ・

 ・

 ・


それからしばらくして、両親がそこの場所にやってきた。


「おや、お母様。どうしたんですか?」


「新しい息子はやっぱり合わなかったから返却しにきたのよ。

 なにもかも完璧だから、なんだか可愛げがないもの」


「そうですか。でも返却はできませんよ」

「あらどうして」



「あなたが前の息子さんを消したんじゃないですか」



「それじゃ、今度はちょうどいい手のかかりようで

 ちょうどいい息子を作るために、また施設を使わせてもらえるかしら」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自分Re:育成シミュレーション ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ