小鳥のさえずり

@kakokako

小鳥のさえずり


朝起きると君がいた。


いつもと同じで君がいた。


朱の美しい羽根に華奢な手足。彼は僕のたった一人小さな友達だった。


ある日、君は倒れていた。苦しそうに、助けを求めるようにさえずっていた。

少しづつ君はうごかなくなって、消えていった。


手のひらから温盛が抜けていく。


——熱がない


——鼓動もない


あるのは動かない君の姿だけ。


僕は居てもたってもいられなかった。


心臓が、血液が、沸騰するくらい熱かった。

ただ熱かった。

でも、君は冷たかった。


なんで……


どうして君は冷たいの?——僕はこんなに熱いのに……


答えは分からなった。


どうにかなってしまいそうだった。


——僕は君の側にずっといたかったのに!

なんで、君は先に行ってしまうんだ。


叫んだ


——行くな


……一人にしないでくれ


——行くな


……頼むから


——行くな


……お願いだから


行くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ


——がいないと僕は……


「……あれ?」


 顔に違和感を覚えた。冷たい。

 軽く手をあてがうと透明な液体が肌の表面を伝い、流れ落ちながら床へと吸い込まれていく。


「何をしていたんだ……僕は」


 思い出せない。ただ、何か大事なものが壊れたことは分かっていた。

 鏡に映った自分の姿を見て驚いた。酷い。


 染みついた隈に、頬骨が浮き出た骸。人の原形を辛うじて成している。

 これは本当に自分なのか、いや人間なのかすらも怪しい。

 鏡に近づこうとすると、足に何かがぶつかった。


「…………動物の死体?」


 そこにいたのは——あったのは、動物の真っ赤な血肉だった。

 これが何なのか原形は保っていなので分からない。だけど、周りに散っていた羽根が、この死肉が鳥だったことを伝えてきた。


「……鳥?」


 何かが埋まる音がした。

 満たされていく髄脳の奥の奥から……

 

 ——体が、心臓が、血が、熱い……


 訳も分からず走り出した。

 体の熱を冷ますため、心臓を握りつぶすように——


——無理だ


 自分が自分ではなくなっていくような感覚。

 この熱からは逃れられない——無意識に自分がそう思っていることに「僕」は気づかない。


——逃げたい


 明確な答えがあるわけでもない


——逃げたい


 それでも、「僕」は立ち止まった


——逃げたい


 ポケットに手を突っ込む。掴んでいたのは注射針。

 ……何のために入っていたのかは知らない。憶えていない。

 でも、これを打てば逃げることが出来る。そう「僕」は確信していた。

 無意識のうちに


——逃げたいっっっっっっっ


 刺した


 暗くなった


「僕」は熱から逃げられた


明るい朝日が目に染みる。凝り固まった身体をほぐしながら、僕は大切な友達に視線を送る。


「おはよう」


——朝起きると君がいた。


 


 




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