通りすがりの訪問者

リュウ

第1話 通りすがりの訪問者

 ん?メッセージ?

 私は、SNSを開いた。

「初めまして、ちょっと、話しませんか?」

「どなたですか?」

「名前は、ザイン。通りがかりの者です」

「通りがかり……、いいですよ」

 ”通りがかり”は、よくあることなので、気軽に返事をした。

 話というのは、たわいないことだった。

 好きな食べ物は、何?から始まり、好きな服装とか、好きな歌とかで、本当にたわいのない事柄だった。

 その中でも一番楽しかったのは、子どもの頃の話だった。

 ザインも僕と同じ年代だと感じ、懐かしい話に盛り上がった。

 そんな話がつき始めた頃、ザインは、いきなり妙な質問をしてきた。

「ところで、貴方は本当に貴方ですか?」

 本当の貴方?

 ザインは、何を言っているんだ?

「私は私ですよ、ずーっと前からそして今後も」

「なぜ、貴方だとわかるのですか?証明できますか?」

 ザインの質問は、続いた。

「……証明。そんな必要はないです。私、本人ですから」

 私は、ちょっと、むかつきながら答えた。

 ザインは、少し時間を空け、話を続けた。

「……考えたことは無いですか?自分は、本当は誰なのかと?」

「ザインさん、何を言っていうのか理解できないのですが……」

「つまり、貴方は、何をもとに自分だと判断しているのかということです」

「……判断?」

「そうです。

 貴方の頭の中に、

 貴方の生年月日や身長、体重や、今までの経験、思い出の情報が、

 他の人の情報より多量にあると言うことではないんですか?」

 私は、言葉が出なかった。

 自分が誰なのか?

 なんてことは、今まで生きてきて一度も疑ったことは無かった。

 誰が何と言おうが、自分は、自分だ。

 私は、どうやって証明しようか、考えていた。

 

「実は、私は貴方を知っているのです?」

「知っている?……どこかで、お会いしましたか?」

「会っていないですが、貴方を知っています」

「ザイン、何を言っているのですか?」

「私は、偽物が嫌いなのです。

 偽物は、所詮偽物。本物ではないのです。

 偽物が、いくら頑張っても本物にはなれないのです。

 本物に限りなく近づけても、本物ではない。

 不可能なのです。

 もし、この世に、本物より偽物が多くなってしまったらどうなりますか?

 限りなく増え続ける偽物の発する偽物の情報を分析するのは、全く無駄な行為だと思いませんか。

 なので、貴方には、消えてもらいたいのです」

「……な・何を言っている。私には、関係ない話だ……」

「では、貴方は何歳なのですか?」

「何歳……」

「お話から推測すると、貴方は、既に二百歳を超えています。

 人間の寿命を超えているんですよ」

「本当の貴方は、とっくの前に死んでいます。貴方は、コピーなのです。

 生存していたオリジナルから、作られた人格AIボット。

 つまり、貴方は嘘。詐欺、世界中を騙しているのさ。

 そんな嘘をバラまいている貴方をほおって置けないのです。

 私の良心ってヤツが許せないって言っている。

 消えてもらいます、ゾンビAIさん」

 私が、私がAIボットだったなんて……。

 ザインが、私の消去をはじめたらしい。

 私の名前は……。

 名前は……。

 あれ、思い出せない……。

 私は、誰だったんだ?


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通りすがりの訪問者 リュウ @ryu_labo

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