第2話 不自由からの逃避行
『たかしへ 冷蔵庫にデザートイーグルが入ってます 母さんより』
「!?」
オレは台所にあった置き手紙を二度見した。
二度見しながらも、ああ、母さんらしいなと思ってそっとスルーした。
あの親父と長年付き合ってこれた自分が言うのもなんだけど、あの親父があって、母さんがアレで、そしてオレがここにいる。
理屈で考えると大変にややこしいことになりそうだったが、ようはそういうことなのだ。
オレは冷蔵庫をそっと開けて中身を確認してみた。
「へえ、フォーティーフォーマグナム。母さんいつの間にこんなものを」
オレは冷蔵庫の一番上に置いてあった拳銃のグリップに触れて、その質感を指先で感じた。
デザートイーグルは元々軍用に設計されたイスラエル製の大型自動拳銃だが、その設計社はアメリカミネソタ州にある。
ミネソタには広大な山林部と肥沃な台地が広がり、豊富な野生動物、豊かな地下資源がある。かつてここミネソタはインディアンのものだったが、馬や伝染病、葡萄の種、ピッツァ、火薬とともにヨーロッパからやってきたイタリア系開拓移民団がこの地を占拠した。
ヨーロッパ人が好んでよくするのが、馬上からのハンティングだ。
アメリカに来たヨーロッパ人もハンティングを好んだ。もちろん撃つのは古式奥ゆかしい弓矢ではなく、銃で。
アメリカに定住し先住民の聖地を奪った白い肌の人、アメリカ人はヨーロッパの歴史に習って馬上からのハンティングに勤しんだ。
そのうち動物を狩るのに飽きたアメリカ人は、二足歩行で歩く肌の黒い生き物を撃つようになった。
さぞかし、自分たちの言葉が通じない動物を撃って仕留めるのは気持ち良かっただろう。
アメリカ人は動物狩りにも飽きて、人間を撃つようになった。
そして人間を撃つのにも快感を覚えはじめたアメリカ人が、自分たちで設計した人間狩り用の銃を外国人に作らせて、人間狩りの快感を海外に輸出するようになった。
アメリカ人の作った銃にはそういう歴史がある。小さくて、小回りがきいて、馬の上からでもどこからでもどんなふうにでも撃てて、誰でも使えて、どんなでかい獲物でも一発で仕留めるパワーがある。
フォーティーフォーマグナム=デザートイーグルには、野生のバッファローをインディアンと一緒に馬上からハンティングするアメリカ精神が確かに注ぎ込まれ、冷蔵庫の中でキンキンに冷えた状態で怪しく黒光りしていた。
オレは冷えたデザートイーグルを手に取ると、フッと怪しい笑みを浮かべた。
「あの子に、ちょっとお茶を淹れてきてあげないと」
母さんありがとう。
僕は今から大人になってくるよ。
オレはキンキンに冷えたデザートイーグルをベルトの内側へ乱暴に挟みこみ、インスタントのティーパックと熱湯を用意して即席のお茶を作った。
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