第4話 ルールは破るためにあるッ!!

オレは白井さんとかいう謎のエージェントっぽい女の子(むしろこれだけいろいろできるのにわたしごくフツーの女の子っとか言ったらオレは怒るぞ!💢)に腕を後ろ手に組まされ床に押し付けられた。


ニスが塗られた安っぽい合成木板の廊下の上を、重いクロムモリブデン鋼の銃が滑り落ちる。その距離はわずか30センチ程度かもしれない。

「何をするなって言われてるでしょう?」

「あがががッ?! 痛い! 痛い!」

白井さんに羽交い締めにされ、組まされた腕の肘関節に微妙な体重が乗せられミシミシと音がする。

痛覚が脳に伝わり、イノチがキケンだと判断した灰色の脳みそが下腹部の尿意をなかったことにした。

オレは良くも悪くも、一瞬だけ下半身のおしっこだしたい欲求を忘れることになる。

ただし、女の子がオレの上にまたがってその体を拘束している事実は何も変わらないのだ!


「約束通り、お金は返してもらうからね」

「だから! そんな借金のことなんて知らないよ! オヤジと母さんがあんたから借りたんだろ?!」

「親の踏み倒しは子が受け継ぐものなのよ」

突然シリアスちっくな言い方をされても、知らないものは知らない。

「そ、そうだ! 相続放棄とか、色々あるじゃん! てかこれ不当取り立てだよね!!!」

 不当、という言葉をオレが口にした途端、白井さんの目からふっと輝きが消えてオレをにらんだ。

「なに。私をどこかに訴えるつもり?」

体重の軽いはずの白井さんの体が、ずっしりと重く感じた。

重いのではなく、体がまったく動かない。腕も、腰も、動かしたいように動かせないのだ。

「あなたがなにかを訴えたい気持ちもわかるわ。でも残念ね、私の仕事は、あなたになにもさせないこと。さっきの男がこの家の抵当権を行使して裁判所に土地差し押さえの仮申し立てを終わらせて帰ってくるまで、あなたになにもさせないように言われているの」

「と、トイレに行くのも?」

オレは忘れかけていた尿意を思い出した。

「ここでしちゃえば?」

「服が汚れるよ」

「私は一向に構わないけど」

「いやたぶんキミも濡れる」

「そんなに出ないでしょ」

「寝起きの男の股間って、結構硬くてね」

「?」

ムリな体勢で床にねじ伏せられているので白井さんの顔は見れないが、たぶん「このバカ何言ってるんだ?」と言った顔をしているだろう。

嘘も方便だ。女の子ならある程度嘘をついても、わかるはずないんだ。

「硬いと、出たしゅんかんあっちこっちに勢いよく飛び出してくんだ。それも量が多い」

「う、うそだ! うちのパパそんなことしてなかったもん!」

「パパは朝勃ちしなかったんだろうねえ。でもオレはキミと同い年くらいだし、朝からこうやって知らない女の子に上から覆い被さられてるんだよ。そうなると男の子の体がどうなるか、わかるよね?」

瞬間、白井さんが考え込むような時間が空いた。

「わかったわ。でも扉は開けたままでするのよ」

「朝からギンギンに勃ったあれを見たいの?」

「ああもう! い、いいわよさっさと済ましてきなさい!」

「あ、そんな風にきつく言われるともっと興奮して硬くなっちゃうかも」

「ギンギンでもビンビンでもいいからさっさとしてこいッ!!!」



ということで、白井さんの組み伏しから自由になったオレはトイレに入って内側から鍵をかけた。

「さぁーてと。たしか『こんなときのために』って感じで、たしか母さんがバズーカを用意してくれてたと思うんだけど」

太宰府天満宮の神棚に一礼し、オレは片手をアレに添えながら、空いたもう片手でトイレの掃除道具が入っている棚を開いた。


もう察しがついていると思うが(むしろつくか?)、ここは北九州である。

一般家庭の花壇にはパイナップルの花が咲き乱れ、警察と工藤会系暴力団や神戸山口組系暴力団が朝から機関銃と迫撃砲と衛星から落とされる超巨大質量爆弾で互いに飽和攻撃をしあっている魔の都市である。


とうぜん、一家に一台バズーカが置いてあるとして、最近の北九州は原点回帰をヨシとする傾向にあるのか朝鮮出兵時の青銅剣や盾がゆるキャラ兼武装自警団として北九州駅前商店街を闊歩し、マックの女子高生たちは「きゃーかわいい!」といいながら槍で武装したハニワを愛でている始末。

「あった、母さんが残してくれたバズーカ!」

オレはごっつい大きさの黒光りするそれを取り出すと、当然のようにランチャーを組み立てしぼりを調整し、それから下半身のあれをぷるんぷるんして穴の中にしまい込みふさいだ。

「ちょっと! いつまでしてるつもり!? まさか逃げようとしてないわよね!!」」

「とんでもない! 今から出るところさ!!」

オレはバズーカを肩に担ぐと、照準系の電源を入れて羽を立てた。

ガチャリと鍵を開け、ドアを押しひらくと案の定少女が、拳銃を手に疑い深そうな目でオレを見ていた。


その顔が、いっしゅんで驚愕の表情に変わる。


「おまたせ」

オレは迷わず、バズーカのトリガーを引いた。



北九州市の朝は早い。

スズメがちゅんちゅんと鳴きながら空を飛び、カラスがカァと鳴きながらゴミ捨て場を荒らす。

家の壁が吹き飛び、白い煙がもうもうと立ち上るが、そんなものはこの北九州市では一向に目立たない。

なぜなら今、市街地では北九州系新興武装勢力と在日米軍が軍事衝突を起こしているからだ。

道端には起き晒しにされた古タイヤが山積みにされ、気の早いおばちゃんが米軍ヘリの到来を察知してタイヤに火をつけて回っている。


ピックアップトラックに対空機銃をくくりつけた簡易砲台や北九州系民兵たちがAK-47を買い回り、そこらじゅう殺気立っていた。

「おはよう、アル・カイードさん!」

「الله أكبر」

民兵さんがAK-47を右手で掲げてオレに挨拶を返してくれた。



オレは、学校に、行くのである!!!

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