第3話 暴力で解決できない問題はない?!

借金だろうがなんだろうが、返せないものは返せない。

そういう気持ちで、オレは二階へ続く階段を忍び足で歩いていった。


勾配の角度は七十度。いつもの歩き慣れた我が家。


部屋では対象人物……貸金業者の差し金の女の子が興味深そうに俺の部屋を見回していた。

大きなベッド。木目のある本棚と三段のカラーボックス、下着や服が入れてあるタンス。

それらを女の子は、そこまで興味もなさそうな目で順々に見ている。

女の子がその流れで向こう側を向いたとき、グレーのパンツスーツの真ん中に縦のすらっとした割れ目の筋と、丸く膨らんだおしりが見えた。


オレは母さんが遺していってくれたデザートイーグルを握りしめ、この子のちっちゃなおしりにどうやって銃身を突きつけてやろうかと思案した。





思案するためにもうちょっとよくおしりと女の子を観察しようと思った。



そういえばこの子は、たしか白井さんとか言ったような。

少しだけ茶褐色が入った明るい髪を後ろで束ね、上に折り返して動きやすそうな髪型にしてある。女の子にしては高すぎもせず低くもない身長だ。

「ふむ」

オレはデザートイーグルを握りしめたまま背を低くしてしたから覗き込む格好になった。

なお、パンツスーツなのでどうかがもうが中の下着の色がなんなのかとかはわからない。

しかし。


しかし!!!!!



形がわかるらしいと学校の友達が言ってた!

実際ほんとにそうだった。ぴっちりしたパンツスーツだと下着の枠の部分がおしりのぷにっとした丸みの部分に押し出されて、グレーのパンツスーツに影となって強調されるのだ!!!

私はここだぞ。私はこんな格好なんだぞと。そういう物言わぬパンツの自己主張がくっきりとそこに現れていた。

ありがとう、そんな無駄知識を朝から得意げになって教えてくれた村井くん。


あと女の子の股にはアレがない。

アレがないから男とは体つきがだいぶ違うように見える。

スッと履き慣らした女物のパンツスーツも、男物のダボっとした物とは随分印象が違った。履いている人間の違いもあるのだろう。

あと丸い。やわらかそうで、ぷにぷにできそうだなと思った。

そんなおしり……もとい、白井さんが部屋の向こう側を見終わったと見えて今度は横を向いた。




ほほう。


「ほほう?」


キュっとしまった胴回りに、下とお揃いのグレーのスーツ。白いワイシャツが胸元からのぞいて見えて、やはりこう、謙虚ながらもしっかりと自己主張している女の子の膨らみが、タイトに引き締められたスーツの胴の部分もあってグッとくるものでもあった。

大人の女性の色気とはこういうものか。

横から見ると鼻もやや高めで顔も小顔のように見える。

彼女じゃなくてもクラスにいたら、きっと男子たちの注目の的になっちゃうタイプの子なんじゃないかなと思った。


オレは手に握ったデザートイーグルの重さが気になってきた。

こんな訳の分からないものを持ってオレはどうしようというんだ。

白井さんをこれで撃つとか?

母さんはなんでこんなものを冷蔵庫に入れてたんだろう。


そんなことを考えているうちに、だんだんと下半身に尿意を覚えてきた。廊下は寒いし寝起きだし、普通ならトイレ行くはずなのにそれも行っていない。

オレはデザートイーグルを持ったまま背を屈めた状態でもじもじし始める。


すると、今度は部屋の中で白井さんが何かに気づいて目を止めた。

ベッドだ。正確には、オレが普段寝ているベッドのシートの下の方。


「何か隠してあるわ?」

白井さんが、うすい桃色の唇をわずかに開けてつぶやく。

オレは尿意を催しながらも急いで立ち上がり、母さんが遺していったデザートイーグルを白井さんに向けた。

「動くなああああ!」



オレは渾身の腹筋と横隔膜を駆使してできるだけ大きく叫んだ。

まさに、雄叫びとか絶叫に近いものがある。だいぶ緊張して変な所に力も入ってたので目とか口とかあと鼻の穴とかも全開だったかもしれない。

ベッドシートの下に手を伸ばした状態で、白井さんもすごい顔で驚いていた。


「それ以上うごくなあああッ!?」


オレが構えたデザートイーグルの銃口に白井さんはひるむことなく、小さな身長を活かして銃口の下に潜り込むとオレの手とデザートイーグルをそっと(※当社比)握りしめる。

いっしゅん尿意が引っ込んだ。



やーらかくて温かいと思ったのもつかの間。

白井さんはオレの手をやーらかい手で握りしめながら、銃を手首ごと勢いよくねじきる。


「ギ、ギャァァァァー!!!!」

オレは人差し指ごと手の関節を外側に曲げられ絶叫した。

デザートイーグルは確かに大きくて威力も高い。

だが反面、慣れない人間が持つと取り回しの悪さが出てしまうのだ。


指を捻られ反射的にオレは銃のトリガーを引いた。

尿意も消え失せた。

だが、オレの弾は出てこない。

「このクソボウズ、どこまで人様に迷惑かけるつもりなのよッ!」

少女が手にさらに力を入れて、オレの指をグリップ、トリガー、トリガーガードごとさらに外側へと向ける。

「お、折れる折れる折れるゥゥゥゥ!!」

「あっそう! じゃあ戻してあげる!!」

白井さんはこともなくそういうと勢いよくオレの手首を内側へと曲げる。

一瞬で指の関節が戻ったので、オレは反射的にグリップを握っていた手の指をすべてまっすぐにしてしまった。

やられてみれば分かると思う。人間は、手を内側に曲げられると自然と指が開くのだ。


白井さんがオレの手からサッとデザートイーグルを取り上げると、まさに慣れたような手つきで銃のスライドを動かし中身をのぞいて、そのままスライド仕切って装弾を完了、親指一本で安全装置を解除してピタリとオレの方に銃を向ける。



オレは、女の子に負けたのだった。

あとついでに尿意にも……

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