振り返ればそこに美少女借金取りがいて 気づけばオレの胸の鼓動はどんどん高まっていくんだ‬

名無しの群衆の一人

第1話

題名:振り返ればそこに美少女借金取りがいて 気づけばオレの胸の鼓動はどんどん高まっていくんだ‬

副題:なし


身も蓋もないあらすじ:‬1億円の借金を背負った少年が、借金取りに追いかけられながら借金を返し、その中で大切な何かを取り戻していく話




あらすじ?:ある日、主人公がいつものように目を覚ますと借金取りが家にいて、その代わりに家族が誰もいなくなっていた。

抵当権利書を持ってやってきていた黒スーツの借金取りは、置いていかれた主人公に同情しつつも債権回収のために手続きを進めていくことを主人公に説明する。

両親は家族に内緒で、家を担保にして危険な投資に手を出していたようだった。その投資事業が失敗し、膨らんだ損失が膨大な額、計8千万円を超えた時点でその両親は損失の穴埋めを借金で賄うようになった。

その借金を返すためにまた借金を繰り返し、借金のための借金を返すためにまた借金をして……今では、その借金の額は1億を超えている。なお利子と遅延損害金も日毎に複利で増え続けており、利子だけでも1日100万円以上に登るという。

そこで両親が一番多く借りていた借金元が代表となって声を上げ、主人公の両親に対して借金の一括返済を債権求めることになった。

そして今日。両親は突然の雲隠れ。何も事情がわからない主人公は、スーツの男の説明にただ唖然とするばかりだった。


(以下 本文っぽいもの)


「しゃーない、担保として預かってたこの家の土地はもらうしかないかな」

けどな、と言って男は主人公の目を見て一瞥する。

「うちが上から言われてるんは土地を抑えることや。土地を抑えても家の中に人間がいてたら、土地をとっても売ることができん。難しい法律の、居住の自由っちゅーやつやな。お前が家族に置いてかれたのも、なんか考えがあるんやろ」


男は考えるそぶりを見せると、スーツのポケットに手を突っ込んだ。そのタイミングでスマホの着信音が鳴り、男は慌ててスマートフォンをとって話し始める。


「どーも、柏木です。やられましたよ、家にガキがいます。家族はみんないないし、差押えができません」

「………………」


電話の向こうにいる偉い人の声がなんと言っているのかはわからなかったが、スーツの男は自分を柏木だと名乗って、頭をぺこぺこ下げていた。

自分には名前すら名乗らなかったのに。

最初は何が起こったのかわからなくてあっけにとられていたが、今は少しずつ自分も平静を取り戻し出している。


男が一度深く頭を下げて、一呼吸置いてからスマートフォンの通話ボタンを不自然な格好で切った。

ゆっくりと頭をあげると、ヘアトニックでギトギトになった頭をオレの方に向けてきた。


「君の名前は?」

「たかしです」

「そう、たかしくんか。いい名前だな。今から君には、悪いけど君の両親が残していった借金を返してもらわないといけない」

「そんなお金ありませんよ。この家の土地とか売ればいいんじゃないですか?」

「いやそうは問屋がおろさねーんだなこれが。この家の土地はオレたちが預かった。けど、家からたかし君を追い出していいとは、オレたちも言われてねーんだ」

「難しいんですね」

「難しいだろ?」


柏木は皮肉めいた笑いを見せてボリボリと頭をかく。


「これからオレたちは、たかし君の家の土地を差押えるための強制執行の手続きに行ってくる。早い話が、裁判所に君を家から追い出すようお願いしてくるんだ。たかし君のご両親が何を考えて君を家においていったか知らないけれど、差押えは差押えだ。それまで君は家にいてもいいんだぞ。自由にしてくれていい」

「じゃあ今すぐ出て行きます」

「それはダメだっ。君は一億円の価値がある、大切な債務者じゃあないか」


柏木は僕の肩に馴れ馴れしそうに手を置いて、グッと力を入れて押さえつける。

いちいちもったいぶる言い方のくせに、大仰な言い方が映画に出てくる三下みたいだった。


僕は一発で、この痩せっぽちのうさんくさい借金取り男が嫌いになった。

でもその後ろからひょっこり顔を覗かせる、メガネをした色白の、どことなく童顔に見えるが目鼻はツンとしたイメージのスーツの女の子が出てきて、僕の心象は変わった。


「白井だ。今日からこの子がお前の担当になる。裁判所の手続きが終わるまで、しばらくこの子と二人っきりでこの家に暮らしてもらうぞ」

「えっ二人?」


僕はギョッとした顔でまず柏木の方を振り返り、ハッとして白井と呼ばれた女の子の方を振り向く。

また柏木の方を見てちょっと大きめに叫んだ。


「二人!?」

「良いだろうべっぴんだぞ!」


柏木がそのだらしない顔を僕に近づけてニヤニヤと笑う。

女の子は特に気にする様子も見せず、無表情に近い様子でメガネにゆびをあてた。


「白井です、よろしく」

「こんなことお前の人生に二度とないだろうな! せいぜい楽しめよ! 白井もな!!」

「はい」

「いいか白井。オレが迎えにくるまで、たかし君を絶対に家から出すなよ」

「了解です」


白井と呼ばれた女の子は、柏木に乱暴な指示を受けてもずっと無表情だった。

無表情なのはいいが、柏木がゲスな笑い方をしなが大股で歩いて行き、白井の頭を乱暴に撫でようとする右手をしなやかな合気道の手つきでかわし、柏木が乱暴な音を立てて家の玄関を開けて出ていっても、彼女はずっと無表情だった。


無表情というより、真顔でじーっと僕の顔をにらんでいるようだった。


「あ、あの」

「じーっ」

「あのー」

「ハッ?!」


僕の問いかけに、白井さんは少しだけ目を見開いた。でもすぐにまた無表情に戻る。


「な、なんですか」

「お茶、飲みますか?」

「えっ、あハイ」


童顔の白井さんはメガネの向こう側で、ちょっとドキドキしている様子だった。

僕は何となくだけど、彼女は新米の人なのかなと思った。


というわけで僕はしばらく、この白井という借金取りの女の子と同棲することになる。

いつまで一緒にいることになるのかとか、これからどうしようとかは僕には何もわからなかった。


借金の残りは、あと一億円。

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