オマケの世界

雪のように降りしきる彼女のために

 雪のように降りしきる彼女の為に生きると決めた。彼女──雪華の存在は、僕の心の中に降り積もり、どこまでも面積を増して、僕の中で存在を広めていく。

 

 あの時、ナイフのような猛吹雪の中告白して、僕は雪華がいない世界に意味なんてないと気がついたんだ。


 病気がちで、外国の血が半分混ざってて、雪みたいに白い肌の雪華。今は元気になった彼女は、昔一緒に遊んでいただけの、勝手に彼女を好きになっただけの平凡な僕なんて捨てて、自由に生きていくことだってできる。昔の思い出は、思い出のまま。


 だけど彼女は、僕と同じように、僕が好きだと行ってくれたんだ。僕が迎えに来てくれるなら、この世界で生きていくことができるって。


 だから僕は、彼女のために生きる。これからもずっと。


 今年の冬はとても寒くって、僕の住んでいる街にも、引っ越していった彼女の住む街にもいっぱい雪が降った。交通機関がマヒしてなかなか会いに行けなかったけど、ようやく会いにいくことが出来る。


 待ち合わせは雪華の家。僕が迎えに行くことになっている。昔、迎えに来てほしいって雪華が言ってた時と同じように。王子様がお姫様を迎えに行くのは、至極当然のことだしね。


 雪華の家に向かう途中、白い何かがヒラリ、と落ちてきた。また雪が降ってきたらしい。まいったなあ、今日帰れるかなあ。雪華のお母さんは泊まって行きなさいなとか言いそうだけど、ちょっとさすがに、そんなに紳士ぶれる気はしない。


 だんだん強くなってくる雪の中、僕は少しだけ告白した時のことを思い出しながら、雪華の家へ急いだ。急いで走ってきたかいあって、雪華の家はもうすぐ目の前だ。


 インターホンを押そうとして──僕はびっくりした。ドアの前に、きれいな金髪に氷のアクセサリーみたいに雪をかぶった、雪華が立っていたからだ。 


「ちょっと雪華、なんでこんな寒い中で、外なんか出てるんだよ! 風邪引いたらどうするのさ」

「その時は仁さんが心配してくれます」

「そういう問題じゃないだろ!」


 僕が怒ったような声を出したからか、雪華は少し反省したらしい。一言、ごめんなさい、と言って、


「でも、もう私、病弱だったあの時と違って、元気になったんですよ」

「それは、そうだけど……元気だからって、風邪引いていいってことはないんだよ」

「ごめんなさい、でも」


 僕に頭の上の雪を払われながら、雪華は言った。


「仁さんに会えると思ったら、待ちきれなくて」

「っ──」


 寒さのせいかもしれないけど、雪見だいふくみたいなほっぺを赤くしてそんなことを言われると、これ以上怒れなかった。だって、恋人にそんなこと言われて、うれしくないわけがないじゃないか。


「でも、今度からはやっちゃダメだからね。風邪は万病の元、だよ」

「はーい!」


 勢い良く返事をする雪華は、確かに僕と一緒に部屋の中でぬいぐるみを交えて遊んでいたころと違って元気そうで──安心する。


「じゃあ、行こうか」


 僕はお姫様に、持ったままで差しもしなかった傘を差し掛けて、うやうやしくお辞儀をする。そんな僕の傘に、雪華は雪ん子みたいにピョコン、と入った。


「どこに行きましょうかね」

「雪華お姫様の行くところなら、どこへでも」


 なんてったって、彼女の行くとこ生きるところが、僕の行く道生きる道、第一の存在理由なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

キミのセカイを、ボクは行く 豆腐数 @karaagetori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ