第9話
くらげのような、なめくじのような、蛸のような、てかてかと光りうねうねと動く家ほどの大きさの赤黒い身体。
そしてその体からは、黄緑色の触手のようなものが何十と生えていて、蛇のようにうごめいていました。
「……」
「……」
「うっ」
母が思わず声を出しました。
私は押し殺して言いました。
「静かに。あまり刺激しないほうがいい。自分の存在を感じ取れる僕がいるせいで、少し苛立っているみたいだから」
「逃げたほうがいいんじゃないのか」
と父。
「それだけはやめたほうがいいよ。へたに動くと、それに反応して襲ってくるから」
「そうか……」
龍神様はそのまま私と両親の前を、全く音を立てずに、ゆっくりと通り過ぎて行きました。
そして村のあちらこちらを、移動していきました。
静かでした。
家々の明かりは点いていましたが、誰の姿も見えず、何の音もしません。
その静寂の中を龍神様だけが動き回っていましたが、やがて子供が一人もいないことに気付き、海へと帰って行きました。
次の日、大勢の村人が集まりました。
その集団の中心にいたのは、私でした。
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