第6話 夢だった

 ××県Mさん。


 ——私はこの「明るい」パートナー交換制度に賛成です。

 私は5年間結婚生活を送ってきました。良い妻であろうと、毎日掃除洗濯を頑張っていました。いつも神経を尖らせて、夫が何を欲しがっているのか考えながらの生活、正直苦痛でした。

 辛い時に辛いとも言えず、夫に助けても言えず……思い返すと涙が出そうになります。

 前の夫は全く家事には関心が無く、毎日毎日「愛してるよ」とだけ言い、ゴミ出しや買い物の手伝いなど、全くしてくれようともしません。愛しているなら何で私のことを分かってくれなかったのでしょうか、何で助けてくれなかったのでしょうか。そんな私の気持ちにすら夫は気づいていませんでした。


 そんな困惑する毎日を救ってくれたのがこの制度です。


 この制度のおかげで、私はその日が来るまで我慢しようと思いました。いい妻を演じようと思いました。

 そして解放される日、私は思わず涙が溢れました。やっとこの生活が終わる、と。


 今は素敵な旦那とめぐり合うことができました。何も言わなくても私が食事の準備をしていれば洗濯やお風呂の掃除をし、子どもの面倒などをみてくれます。私にことをいつも言葉だけでなく、本心から気遣ってくれます。

 私、今とても幸せです。私のような境遇の人を救うためにもこの制度は今後も続けて欲しいです。





——ったく、また風呂掃除にケチつけられたわ。そんなに気になるなら自分でしろっちゅうの——


 そう心の中で思いながらリビングに戻ってきた私は、とある光景に思わず喉の奥から変な声が飛び出した。


「ぐあっ!?」


 ソファの上に置いてあった冊子が真っ黒に変色していたのだ。

 犯人はすぐわかった。私の飲みかけのコーヒーカップを息子の佑太郎が振り抜いたバットがヒット。液体は重力に従って流れ出し、そのままソファと冊子は黒い洪水状態へ。


「おい、まじで勘弁してくれよ……もし見つかったら大変なんだから——」

「あんた、なんかあった?」

「いやいや、何もない、本当だ。気にするな」


 幸い冊子の上だけに集中していたようだ、被害は少なくて済んだ。

 ただ、この冊子はもう読めないだろう、今月号は残念だが葬るしかない、まだ全部読んでいないのに。

 断腸の想いで私は今月号の冊子をゴミ箱へ捨てた。


 あぁ、美沙恵。君は今どこで何をしているだろうか。

 せめて君だけでも幸せになっていて欲しい、私の分まで。





 何故だがわからないが、どうやらその願いは届いたような気がしていたのだった。


(了)

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「明るい」パートナー交換制度 木沢 真流 @k1sh

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