Google Emperor

ヤナギサワ カズキ

Google Emperor

母が亡くなった。享年109歳だった。

母の亡くなる時間は、Google Healthで推定時刻を把握していたので、僕はすぐにアプリで葬儀の手配をすることができた。ふと家族内の共有ドライブを確認すると、母が死亡時刻の3時間前に遺言書をアップロードされていた。

母は2031年に大学卒業し、情報技術庁に入庁した。Google Emperorの開発に従事した僕にとって誇り高き女性である。遺言書には自身の半生を振り返った内容が書かれていた。

2025年から、行政の側からIT産業の研究開発をトップダウン的に実施する「国家先行型情報技術推進戦略」が始まった。日本政府とGoogleが共同連携し、情報技術庁という省庁が設置された。初めは行政を中心に、国の税務手続、立法手続、政策立案等を統合的に行う機械学習型意思決定ツールGoogle Governanceによって行政手続は効果的かつ効率的に吸いこされるようになり、政府支出が大幅に軽減され、日本は瞬く間にグローバル規模の情報社会大国へと変貌した。

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それから数年たち「国家先行型情報技術推進戦略」は、政府に限らず皇室までもが手をあげた。Googleの展開するチャットツール、Google Chatsはその当時の国民の98%が使用する巨大SNSであり、そこから多くのカルチャーや言論が生まれていた。しかし、今や冠婚葬祭や神道的儀式はGoogleの提供するアプリの中でアクセサリーのように刹那的かつ効率的に行われるものとなり、当時の国内の祭儀参加を公務とする皇室も自らの存在意義に疑念を覚えた。そこで、皇室は情報技術庁の後押しのもとGoogle Emperorというサービスを開始した。Google Emperorは主にGoogle Chatsを中心に、日本国民や海外の人たちと同時的に皇室の意図を組んだ中立的なコミュニケーションを自動で行うAIアプリであり、日本はもちろん世界中で億単位のダウンロードがなされた。まさに、日本の象徴はSNSの中で再構築されることになった。

遺言書を読み終え、僕は母の葬式のライブ配信するためタブレットでGoogle Memorialを起動した。アプリ上では既に葬式の参加者が入室していた。定刻になり、僕は母の遺書をアプリ内にアップロードし、葬儀を開始した。

「オッケー、Google Memorial、般若心経流して」

母の葬儀はスマートに進んでいった。

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Google Emperor ヤナギサワ カズキ @kazuki_yanagisawa

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