かすかに遠くにある光
私たちは公園の隅の木のふもとに、少しだけ土を盛った。ぽつぽつと、静かに雨が降った。そこにリンドウを添え、私は手を合わせた。きっかり五秒、私は黙とうした。彼も私を見て、見よう見まねで手を合わせた(私が目を開けた時に彼がそうしていることに気付いた)。傘もささず、私たちはただ手を合わせた。
「はあ」
五秒後、私は深呼吸した。その音で彼が目を開けた。
「なんて言えばいいんでしょうね」私は言う。
「彼になんて言えばいいんでしょうね、私、お経なんて読めないし」
「お経ですか」
「ええ、葬式にはお経が無いと」
「なるほど」彼は一瞬腕汲みをしたが、すぐに、
「好きなことを言えばいいんですよ」とさらりと言った。
「言いたかったことを」彼は言う。とてもここは静かだ。
「あるいは、言えなかったことを」
雨が降り続いていた。雨の音だけが私たちを包んだ。私はゆっくりと言葉を探した。
静かなここで、私と彼しかいないここで、私は再び声を聞いた。
「君はね、とても魅力的なんだよ」
懐かしい声だった。低い、でも暖かい。笑うと目じりが下がる。ああ、この人は、まだ、生きているのだ。
「君は色々なことを恐れない、それは誰にでもできることではない」彼は言う。
「信じて」そう言い残して、彼は消えた。
気づくと私の横には彼がいた。私と目が合うと、彼はにこ、と笑った。雨の音がした。
私は足で土の山を一段と高くさせ、もう一度手を合わせた。
「世界中が」と私は言った。
言葉が出てこなかった。必死で頭を回転させた。
「世界中が」
もう一度言う。私の声は震えていた。
「世界中が雨の日も、貴方の、笑顔が、私の、太陽でした」
私は手を合わせた。雨は止まなかった。目を開けることができなかった。帽子の上から微かに雨が染みて頭がどんどん冷たくなる。
「大丈夫ですよ」と彼は言う。
「きっと届いていますよ」
彼の声が暗闇の中で響いた。目はつぶっていたけれど、瞼の向こうには光があることを感じた。
太陽が見ている 阿部 梅吉 @abeumekichi
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