第6話 かわいい

- 第6話 かわいい -


バレストリが指差す先には小さくて白い、まるでボールのようだった。たしかにソフィアさんが言っていた通り白いモヤに見えなくもない。でも幽霊と呼べるものでもないしあまり怖いという感じでもない。しかしそれを見てデュートは小刻みに震えていた。

「かわいい……」

後ろから聞こえてきたのは低くて太い声、それでデュートだということがわかった。表情は暗くて見えないものの小刻みに震えているのはかわいいものを見て興奮しているからだろう。本当にかわいいものに目がないんだから。ただの小さい白いボールのようなものにかわいいという言葉が出てしまうなんてきっとデュートは病気だ。そんな最中、ずっと僕の袖を力強く握っているダーマンはデュートとは違う震えを見せていた。たまにこわいと呟きながら。声が聞こえるたびにバレストリがダーマンの背中をさすって落ち着きを取り戻そうとしている。僕はいつもと違い、小さくなっているダーマンが可愛く思ってしまっていた。そんなことよりも今はあの白いやつのことを解決しなければ。

「幽霊いたの……?」

するといつのまにか目を覚ましたライルが眠そうに言った。何事にもあまり関心のないライルが珍しく興味を示しているようだった。

「やっと起きたか寝坊助。あれだ」

デュートが抑えきれない興奮を隠しながらライルに幽霊の場所を教えた。ライルは目をこすり大きなあくびをしながらデュートが指している方を見るや否や首を傾げた。今にも寝てしまいそうなとろんとした目を無理やり開けているライルはしばらく黙っていた。何か答えるのを待つようにみんなは黙っているライルを見る。

「自分…霊感ないのに見えてる?」

顎に人差し指を当てながら言った。その一言に元から静かだった辺りがさらに白けたような感じがした。誰も話さないのは多分頭の中がごちゃごちゃになっていて脳を再起動させているんだと思う。同時に今までの幽霊のワクワクが消え去って行くのがわかった。やっと確かにと食い気味に言葉を発したのはバレストリだった。バレストリと目があった僕は苦笑いをした。では一体あれはなんだ。幽霊でなければ小さくて白いボールのようなものは一体なんなのだろう。幽霊よりもなんだか怖くなってきた僕は一歩引いてデュートの背中を押した。そしてライルはいつのまにか寝てるし。

「おい、ルーカス。行け」

さりげなくデュートの背中を押していた僕は先ほどかわいいと呟いていたデュートに任せようとしていたけどそんなデュートにシンプルに行けと言われゆっくりと首を左右に振った。

「なんで僕?あんなにかわいいものを目の前にして自分がいかないの?」

神様のような笑顔で僕はデュートに言ってやった。あれが幽霊であれば僕が率先して行っていたかもしれないけど、ずっと幽霊だと思っていたのがライルの論破でテンションが下がりどうでもよくなってしまったんだ。しかもデュートはとても行きたそうな顔をしている。あと僕の袖にはずっと捕まっているダーマンが震えているから身動きは取れないとダーマンを見ながら訴えた。

「そうだよ!今のデュートすごく目がキラキラ輝いてるよ!」

さらにバレストリが僕に便乗して言ってくれる。バレストリにもデュートの行きたいという気持ちが見えたのだろう。デュートはいやと目を泳がせながら拒否しているもののかわいいものに目がないデュートは僕とバレストリの煽りに脂汗をかき、唸っていた。素直に行くと言って仕舞えばいいのに、行きたいというのを悟られたくないのか頑固に断っている。

「わかった。そこまで言うなら行ってやろう」

やっと決心したようで立ち上がって鼻を鳴らす。でもデュートの顔はわかりやすくニヤニヤとして表情が緩んでいた。たまに軽く笑う様子を見ると本当に嬉しいのだなと目に見えた。煽りに成功した僕とバレストリはお互い見合ってくすくすと笑いながら親指を立てた。

デュートが歩き出し動きのない白いものの前までやってきた。そして僕たちの方を見る。薄暗い電灯のせいではっきりとは見えなかったがデュートがこちらの様子を伺っているようだった。僕がコクリとうなずくとデュートは視線を白いものに移しその場にしゃがみ込んだ。しばらく白いものをじっと見つめているデュート。かわいいと小さく呟きゆっくりとそれに手を伸ばし始めた。少し躊躇しながら手を伸ばしゆっくりと白いものに触る。

「あ、触るのね!」

僕が少し驚きつつツッコミを入れた。デュートはその声に反応するもそれの感触を楽しんでいるようだった。薄暗がりの中で見えるデュートの顔はやさしく笑っているように見えた。そんな姿が意外すぎてバレストリと僕は開いた口が塞がらなかった。もしかしたら幽霊だと思い込んでいたのが霊感がないのにはっきり見えることで幽霊ではなくなった、さらに触れているという早い展開に驚いているのかもしれない。

「何か被っている……?」

デュートは触っているうちにそれが白いシーツのようなものを被っていることに気づいた。触った瞬間に気づいてもおかしくないと思うけど。デュートはゆっくりと白いシーツのようなものをめくる。

一方開いた口が塞がらない僕たちはデュートが一人でなにかをやっていることに気づいた。バレストリは何かやっているデュートを見てこの状況に飽きたのか壁に寄りかかり遠目でデュートのことを眺めていた。僕はすぐにでも白いもののところへ飛び出して行きたかったけどデュートが自分だけの世界を繰り広げていたものだから行きづらくなり今に飛び出しそうな足を抑えた。

僕たちは僕たちで世界を繰り広げていたところデュートが白いシーツのようなものをペラっとめくると姿を現したのは…。


To be next scene…

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Being Guilty リメイク 瀬平ねぼすけ @sehirahira

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