Ep.12ー6 星降る聖夜に約束を~それは、いつかの続き~


 もみの木祭り、それは東方の神様が産まれた日らしいけど。

 この周辺国では、神様は光の主のみ。ということだけど、そのイベントを利用して商業施設が取り入れるようになって、調子よく“もみの木を讃える”お祭りになった。


 その内容は、もみの木を囲んで手をつないだ子供たちがグルグル回る。ひたすらグルグル回る。

 回りきって目を回していき、倒れず残った人がもみの木おじさんになってプレゼントを皆にあげる、というあまり割にあわないゲームが伴う。

 ちなみに、たまに誰か消える。妖精さんが連れていってしまうこともあるらしい。


(めっちゃ怖いゲームなんですけど)

 

 なぜか近年熱は増すばかり。どうも酒を飲んでグルグル回るのが大人の間で流行ってるらしい。それをSNSであげるとか。


 それはどうでもいいとして、もみの木祭り期間は年始年末と合わせてホリデーとして仕事も休みになるところが多く、その時期に帰って来いとディアンは呼ばれたようだ。


 でもこの家の理由が実際は違うと思う。ディアンがその日誕生日だから。だからその期間に帰ってきてほしい、そういう思いもあったのじゃないかと思う。


 ディアン即席のもみの木を堪能したところで、「じゃあ」と誰かが言い出した。


「もみの木ゲームをしましょう!」


 ディアンが隣で唸った。


(まさか……)


「さ、リディアちゃんも、さあさあ」


 ディアンではなくリディアの手を引っ張るところはお母様、さすが。手を繋いでいたディアンも引っ張られることになる。


 そうして、彼らが待つところ、もみの木の下まで連れてこられてリディアは若干腰が引けた。


 もちろん、師団の訓練はその一万倍以上辛い。たかがゲーム。

 ディアンだってこんなの息をするよりも簡単だろう。でも、何となく彼も逃げたがっていて、それが伝染したようにリディアも怯える。


「今年こそ、逃げられないわよ。ディアン」


 お姉さまのカロリーヌが言う。そしてリディアの片方の手を彼女がつなぐ。つまり、全員がもみの木を囲んでぐるぅっと円を描いたのだ。


(まさかの、もみの木ゲーム!!)


「さあ、回るぞ!!」


 ディアンのお父様が勢いよく号令と共に回りだすと、当然皆が足をつられて回りだすしかない。酔いの入った大人たちがその勢いに任せて走り出す。


(わ、わ、わ……!!)


 かなりの勢いで、しかも酔っぱらいが楽しそうに笑い出す。飲んでないのはリディアだけ。ぐるぐるぐるぐる、ひたすら回るのはもみの木。


 ディアンの手がリディアの手を掴んでいる。


 足がもつれそうになると、彼の手がリディアを引き上げて何とかつられて回っていられるけれど。


「あはっ……はっ」


 だんだん面白くなってきた。空を見上げると、雪の結晶が木々の合間からふってくる。たまに月が覗く。

 ディアンの手が力強くて、リディアが頑張らなくても、彼が支えていてくれるから倒れない。熱くなってくる。まだ倒れない。


 ――ぐるぐるぐるぐる。


 不意にディアンと反対側の手が小さくなっていることに気がつく。リディアが屈まなきゃいけない。

 足がもつれて、リディアはがくりと膝を落とした。その瞬間、ディアンが叫んだ。


「リディア!!」


 視界が反転した。


 “――起きて”


 囁く声がした気がした。目を開けたら、そこは真っ白なところ。最初は雪が積もっているのかと思った。

 リディアは身を起こした。手をついて、それから立ち上がる。周囲は霧に覆われて、何も見えない。


「ディアン、先輩?」


 誰もいない。


「先輩!? カロリーヌさん!?」


 どうしちゃったの? 何かの魔法? 


「ディアン、ディアン!!」


 リディアは声を張り上げて、ぐるりと回って周囲を見渡した。魔法を使ってみようかと思ったけれど、それは止めた。


(まさか、本当に、もみの木まつりの……)


 妖精さんに、連れてこられた?


 ただ、嫌な気配はない。その時、小さな気配を感じた。それは先ほどリディアと繋いだ手。


 それがリディアを先導する。えっ? と思うけれどその姿は見えない。


“――迎えに――来たから”


 いつの間にか駆け足になっていた。


「待って!」


 目の前には大きな扉があった。金色の枠に包まれた豪奢な扉。それが開いている、まるで天界のもののよう。


 そこに黒い姿があった。そこから手が伸びている。黒髪の姿。こちら側には来ない、ただ必死で手を伸ばしている。


 リディアを引く手が離れる。


「待って、あなたは」


“――行って。また会えるから”


 リディアの背を押す手に、扉をくぐる。そして黒い影に手を伸ばすとしっかりと腕を掴まれた。


「リディア!!」


 ディアンに抱きしめられていた。周囲は、雪が降り始めていて、周りにはディアンの家族が取り囲んでいる。


「リディアちゃん!!」


 ディアンの母親のロゼッタがディアンごと抱きしめてくる。


「よかった、いきなりいなくなっちゃうから!!」


 ディアンがリディアの肩口で大きくため息をついている。何かを言いたそうだけど、何も言わない。再度彼はため息をついて、顔を更にリディアに埋めてくる。


「まあ。ホント、アンタがいてよかったわ。こういう時は頼りになるから」


 カロリーヌが場を収めるように言えば、微かな笑い声が起きる。


 ディアンのせいで、何かが起きる。そうじゃなくて、ディアンのおかげで、助かった。そう言ってくれる家族、なのだ。


 リディアは、ディアンの背中をあやすように叩いた。


「お前は、たまにいなくなるから」

「ごめん。――ただいま」

「いや。助けられない俺がいつも、悪い」

 

 そして彼はリディアを抱きしめたまま首を傾げた。


「お前、髪が伸びてないか?」

「え?」


 首を傾げ、自分の毛先に触れようとしたときディアンのお母様のロゼッタの声が響いた。


「寒くなってきたから、部屋に戻りましょう。リディアちゃんのスコーンでも食べましょう」

「そうね。プレゼント交換しなきゃ」


 カロリーヌの声が重ねられる。


(あ……!!)


 まだ抱きしめているディアンを押しのけて、リディアはお姉さまの言葉に青くなった。


 もみの木祭りのプレゼント交換なんて聞いてない!!


「聞いてないよ!!」


 押しのけられて不満そうなディアンにこそりと言えば、どうでもよさそうに彼は答える。


「貰っとけば、いいんじゃないか」


 役に立たない! 言っといてよっ。

 

 せめてスコーンを温めるのを手伝おうと、ディアンより先に歩きだしたリディアを待っていたロゼッタが、聞いていたようで笑う。


「いいのよ。あなたが来てくれただけでうちにはプレゼントだわ」

 

 でも、とリディアは顔を曇らせる。これからのプレゼント交換が気まずい。ディアンが一歩後ろにいて、立ち止まっている。


 それはリディアと母親の会話を待っているような、そんな感じだった。


「それに」と彼女はリディアの顔に口を寄せる。その目がリディアの腹部に目を向ける。


「もしかして――あなたのお腹には――いるんじゃない?」


 リディアの顔は驚きを浮かべて、それから慌ててお腹を手で押さえる。ディアンを振り返る。


 まだ、少し遅れているだけ。自分だけがそれを知っていて、ディアンにも言ってない。

 

 なのに――。


 聞いていたディアンが慌ててリディアのもとに駆け寄って、それから自分の上着をリディアの肩にかける。


「ほんと、なのか?」

「まだ、わからないけど」


 あの時つないだ小さな手。これは予兆。呼び寄せられたのか、それとも迎えに来てくれたのか。また会えると言っていた。


 でも――。


 家族が、できる。

 ディアンが再度、抱きしめた。


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*久々に書いて楽しかったです!読んでくださってありがとうございます!

 これにて「リディア」の話はひとまず終わりにしようと思います、また別連載とし て、続きを書くか、もしくはこちらを開けるかもしれません。

 (マーレンの宮廷での「リディアの宮廷魔法師」の話とかも書きたいのですけどね。おつきあいくださってありがとうございました!

 そして楽しんで頂いたら、☆をお願いします!


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魔法師リディアと怖くてゆかいな仲間たち 高瀬さくら @cache-cache

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