『エピローグ』

 私は、魔法学校が嫌になって飛び出し、森で住むことを決めた。

 決定打となったのは、その日の授業だ。


『うわ、今日も来たよ』


『どうせ出来ないのにね?』


 聞き慣れた罵声は、気持ち良いくらいだった。


『──今日の授業は、精霊を召喚する魔法を教えるわよ──』


 当然、私をいじめてくるその2人は優秀なので、精霊は難なく召喚してみせた。

 私も同じく、召喚出来ることは無かった。


『精霊一つ出せない魔女が、ここにいる必要はないわ?』


『やーめーろ、やーめーろ、魔法学校やめちまえっ』


 精霊が出たことにより、自分たちの仲間が増えたとでも勘違いした2人は、いつもに増していじめてきたのだ。

 いつものいじめと同じで、手だけは出してこない。だけど、今日は……。

 精霊は、それぞれスライムのようなもの。小さくてかわいらしいのだが、その気になれば痣だらけにさせてしまえるだろう。


『もう、やめて……い、痛い……』


『何も出来ない豚がブヒブヒ言ったところで、人間の私たちには何も聞こえませーん』


 一人がそう言ったところで、二人とも大爆笑する。

 私は、その隙をついて走って逃げた。死にものぐるいで、どこか遠くへ。

 先は明るいのかくらいのか、地面はコンクリートなのか土なのかも視認出来ないまま、とにかく遠くへ走った。

『はぁ、はぁ……どこだろう、この森……』


 緑がいっぱいで、地面には沢山の花が可愛らしく咲き誇っているこの森では、小鳥たちがチュンチュン、と気持ちよさそうに鳴いている。私もそれに呼応するように、ピーピーと、いびきという鳴き声をハモらせる────。




「ぷはぁ、はぁ……なんだ、夢か〜……」


 思い出したくもないくらい、嫌な夢。

 たどり着いたその日、私はずっと、暗くなるまで召喚の魔法を練習したのだ。

 しかし、いくら試しても出ない。召喚は、されなかった。

 諦めかけたその時、何かが召喚されて……。


「なにかって、なんだっけ。思い出せないや〜」


 昨日は、クラスアップ試験の日でもあり、ゴンちゃんとのお別れの日でもあった。

 あの後、暫定だけど、私は魔女集会の首席になる人物となったのだ。


 あぁ、そうだ。確か、修行した森に行くように、ってゴンちゃん言ってたよね。今から行ってみよう。


 ー ! ― ! ― ! ―


「なーんか、ゴンちゃんがいないだけで静かだな〜この森」


 遠くに視線を落とす。すると、休憩の時に使っていた木こりの上に、一通の手紙が置いてある。


「まさか……ゴンちゃん?」


 手紙を、丁寧に急いで開けた。


『メルへ────俺のことを召喚してくれて、本当にありがとう。楽しかったぞ。今頃、首席となったメルが、くしゃくしゃな顔をしてこの手紙を読んでるんだろうな。召喚は、精霊が役目を果たした時、消えてしまう。俺の役目は、メルを魔女として復帰させてあげること。こんな話をしても、楽しくないよな。ちなみに、俺がいなくても変化へんげは出来るから、時々、俺の事思い出してくれ。じゃあ、メル。ありがとう────メルの、かわいいゴンちゃんより』


「う、うぅ……うぁぁん、かお、くしゃくしゃだよぉぉぉ……ゴンちゃん、会いたいよぉぉぉ……」


 少し落ち着いてから、メルは、この手紙、そして自分の中にいるゴンちゃんに、感謝の気持ちを伝えた。


「ありがとう、ゴンちゃん。私、このこと一生忘れないね────」

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ドラゴンと小さな魔女 ヨネフミ @yonefumi

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