後日談〈終〉 —動き出す世界導く者達—
そんな中憂い帯びた瞳で思案に
「姫殿下は上手く彼女らとやって行けるでしょうか。」
姫殿下のお転婆に手を焼いた彼女。
しかし言葉に秘めた想いは別の意図を含んでいた。
それを知る所である
すでに継承の儀を数時間前に終えた彼女ら……足を運んだ術師会本局宮殿にて。
「何を気にやむ必要があろうか、フェザリナ卿。我が弟子は、私が言うのもなんだが……あれで仲間への労りには多分に長けた逸材。しばし仲間への弄りが目に余る所ではあるが——」
「あれは彼女なりの成長と断言しましょう。当時のミシャリアを良く知る私が言うのです。間違いはありません。」
術師会元トップの言葉は、お転婆姫の表面的な部分ではない本質へ向けた配慮。
彼女がかつて多くの民の命を奪ってしまった、
その励ましにクスリと微笑を零す
「杞憂……ですかね。あの
「幾度も己の命を絶とうとした、優しくて……民想いの素敵な姫殿下の……。」
言葉にしながら過去の愛しき姫と今の姫を思考へ浮かべ、そこに関わった支える者の全てを記憶から引っ張り出す。
それだけでも、
民の命を奪ってしまった大罪に、押し潰されそうになっていたお転婆姫。
心を切り付ける悲しみに耐え切れず、幾度と己の命を絶とうと試み……その度に美貌の卿が彼女を探し出しては有り余る優しさで抱きしめ続けた。
慈愛の女神の如き、お転婆姫の……感情さえ捨て去ってしまっていた日々。
卿はそれを必死で支え続けていたのだ。
そして暫しの沈黙が二人を包み、やがて美貌の卿から言葉が放たれる。
だがそこには先の憂いさえ感じさせぬ、警備隊の代表たる威厳が満ち溢れていた。
「なれば我らは、姫殿下の事をミシャリア様と
銀の御髪を
すでに諸々の伝達に走り帰還した
そして術師会元代表と首肯しあい、配下たる者達が待つ大号令を解き放つ。
これより
「ではこれより、王国の守備強化と周辺諸国の動き監視のため……我らアグネス警備隊は先んじて動く事とします! 今までモンテスタ導師の難事のせいもあり、動けずにいましたが——」
「それが終息を見た直後のラブレス侵攻未遂は、このザガディアスへ戦乱の火種を呼ぶには充分。なればこそ、敵対を仄めかす数々の国家群へと先手を打って出ねばなりません! ディクター、そしてアスロット……頼みますよ!? 」
「「イエス……マム! 」」
これより
奇しくもそれは、希望を携えたとある冒険者の活躍を起因としていた。
それでも世界は回る……
そんな中、起こりうる事態を危惧するもう一つの勢力さえも新たな一歩を踏み出していたのだ。
∫∫∫∫∫∫
しかし彼らは此度戦いの敗残兵である。
あるのだが……人外兵団の何れにも敗北など意に介さぬ気概が満ち溢れていた。
「此度は見事な敗退ぶりでしたね、アンドラスト卿。ですが——」
「ククッ……
言うほどに負けの屈辱を見せぬ
大敗したのは総大将も同じであったから。
例え万一己のみが勝利したとて、黒の総大将は彼らを責め上げる事などない。
彼ら人外の兵団は
彼らが陽の光を浴びて生きる資格を、自らの意思で勝ち取ったのだから。
戦列艦甲板上で、視界に広がる祖国の大地を見やる総大将と側近たる将兵。
そしてそこから一段下がった場所では、大敗の中も生命種たる証を勝ち取った人外の勇士達が誇らしき将らを見上げていた。
程なくその軍艦一団が暗雲渦巻く大陸の端、軍港と思しき場所へと近くや……戦列艦を始めとした艦に搭乗する全ての人外兵らが拳を胸に姿勢を正した。
一糸乱れぬ礼は、軍港の一際伸びた堤防上の影に向けられる。
そこに立つ影。
黒衣と漆黒の鎧が艶やかに煌めくそれ。
肩口まで伸びた金に
やがて艦との距離が縮まるや、影は高らかに声を上げる。
響いた声には、黒の総大将さえも胸に当てた拳で応えていた。
「よく無事に戻った! 此度はこの私、アスタルク・ダークブリンガーのわがままに付き合わせてしまったな! 礼を言う……ラブレスの栄えある未来達よ! 」
黒衣に包まれた影は、名をアスタルク・ダークブリンガーと名乗る。
さらには人外兵団を
そう——
あろう事か一国の主同等の存在が、先遣隊程度の兵の帰還へ先立ち出迎えたのだ。
同時にその兵を想う黒衣の将の器は、勇士らの思考へ余す事無く刻まれて行く。
その後寄航した兵団を迎えた
ゴブリンが、コボルドが……オークにオーガがその膝を折って——たった一人の
「貴君らは良き戦いを経験した。故に暫し休息を取るが良い。その後我らは、本格的に打って出るが……矜持を示したかの部隊に免じアグネスと同盟国へは手を出さぬ。」
「しかし世界には、未だ
人外兵団を前に宣言されたのは世界への宣戦布告。
だがそこには人種の悪意と言う、限定された物への意図が含まれた。
加えて黒衣の将は口にした。
世界へ滅亡の炎を撒き散らした〈ギ・アジュラスの砲火〉に焼かれたは、暗黒の地に住まう民であったのだと。
∫∫∫∫∫∫
その日を境に世界は動き出す。
戦乱の種が世界にばら撒かれる様に。
だがそれでも……彼らはきっと笑いながら世界を闊歩するだろう。
弱きへその手を差し伸べ、捻じ曲がった強きへ怒りの制裁を叩き込む……食堂を破壊しながら進軍する、帝国
ロウフルディフェンサー 鋼鉄の羽蛍 @3869927
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