僕は今日も扉を開ける

愛澤あそび

第1話

 ある夜、僕はそれに出会った。そこには大きくこう書かれている「夜の扉」

 今まで感じたことのない好奇心にかられ、僕はそれを開けてしまった。

 その日は少し嫌なことがあった。そんな、現実から逃げたいという気持ちがあったのかもしれない。

 それとも不思議な魅力がそれにあったからだろうか。

 その日から僕は「夜の扉」の虜になった。


 そんな出会いから三年経つ。僕は、夜が楽しみになった。辛い日常から解放され、日が落ち、辺りが暗くなると僕は夜の扉を開けた。

 夜の扉を開けるとひと時の幸せを感じることができた。

 まるで、いつもの自分ではないような感覚を味わえるのだ。


 ある日、僕の嫌いな上司から飲み会の誘いを受けた。説教か自慢話かのどちらかだろう。

 断ることもできず、結局行く羽目になった。全く自分が嫌になる。いつもこうなのだ。

 仕事での失敗なんかを仕事が終わってからも聞かされる。面白くもなければ美談でもない、武勇伝を延々と語る。だから現実は嫌なのだ。

 いつものようにニコニコと相槌を打ちながら、うまくもないつまみをつついていると、上司は意外な言葉を放った。

「夜の扉って知ってるか?」

 彼も知っていたのだ。彼もまた、夜の扉の虜であった。

 そこから何を話したのだろうか、曖昧ではあったが、いつもよりは楽しかったように思えた。



純米吟醸 夜の扉


 開けると爽やかな甘さの香りが鼻をくすぐる。

 一口含むとフルーティーな甘みと酸味のバランスのとれた味わい。スッキリとした喉越しとキレの良い日本酒だ。

 全く酒を飲まなかった三年前。なぜかこの酒瓶に引き寄せられ手にして以来、僕は家でお酒を飲むことが趣味になった。

 相棒はもちろん夜の扉。

 一日の終わりに飲む命の水。

 ひと時の幸せが体へ流れ、温める。


今日も僕は夜の扉を開けるのだ。

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僕は今日も扉を開ける 愛澤あそび @asobizaka

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